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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「目覚めてはならなかった者」後編

シエネイラ、草鉄本部。それはまだほとんどの人が寝ている朝方の事だった。見回り中だった草鉄の1人が慌てて草鉄本部に戻ってきた。

「大変です!族長!ファウンデイルさん!」

本部のエントランスで叫ぶ若い草鉄の男。すると2階の寝室ではなく、1階から早起きしていた中堅の男が出てくる。

「あ、セドンさん。街の外れに骸鬼が!」

「何だと!」

「先手を打ってきたんでしょうか」

「憶測よりも行動だ!すぐにロードスターに援軍を要請する。それまで出来るだけ人を集めながら足止めしろ」

「はい!」

撃退されてからもカルベスに気付かれないようにあの施設を監視していたから、ある程度は迅速に対処出来る。すぐに草鉄の数人が集まり、骸鬼と対峙していく一方、セドンから連絡が行ったのはこの世界に常駐している、ロードスター所属の草鉄の人間。その人がロードスターのシューガーに転移していって、そしてテッドラン軍本部のとある場所に電話が繋がれた。まだ日が昇らない早朝。鳴ったのはグラバードのスマホ。

「・・・・・はい、グラバード」

「こちらはシューガー軍、カルベス討伐作戦編成隊員です。シエネイラの街外れに骸鬼が現れ、現在草鉄が戦闘中」

「何だって!」

「ギガスアーマー部隊、及び無人ギガス部隊の配備は向こうの時間の12時予定ですが、その配備を今すぐにとの要請です」

「分かった。許可する。ライザー部隊の出撃準備が整うまでは“シューガーのあんたら”で一先ず迎撃を頼む」

「はい」

「それとこっちの準備が整ったら、そっちの世界に送ってくれ」

電話を切れば、グラバードはとにかくすぐに顔を水でバシャバシャと洗った。──カルベス討伐作戦の情報が、カルベスに漏れたのか?何故だ。例えアマビのような者が居たとして、そんな者をみすみす野放しに・・・。いや、まさか、わざと情報を漏らした?何の為に・・・。とにかく、いくらシューガーの血剣族ギガスアーマー部隊でも骸鬼には歯が立たないよな。

シエネイラ、カルベスが管理する軍事施設。起床したラングエイがギガス製造管理室にやって来ると、すぐに違和感を見つけた。骸鬼の姿が無かった。慌てはしないが、だから製造ラインに下りてきた。

「族長。骸鬼は」

最後のギガスにテムネルを注ぐカルベスは振り返らない。

「出撃させた」

「どこへ」

「草鉄本部」

「え、何故ですか」

「無論、時間稼ぎだ。アマビ達の土産話に感謝しなくてはな」

「骸鬼はハッキングされてますし」

「問題無い。シャットダウンしている」

「・・・しているって」

「骸鬼の中に血鬼が入り、動いている。その分以前よりも格段にパワーも上がっている」

「最強の、囮・・・。しかしここを攻められたら」

「あぁ。だから最後の命令だ」

「・・・え?」

ラングエイに起こされた全隊員は、それから施設の外に出た。カルベスからの最後の命令を皆に聞かせると、ラングエイは静かに変身する。

「本当に、いいんですよね?」

ノウセルが問いかければ、ラングエイは「あぁ」と応えた。

シエネイラ、草鉄本部のある街ゼンマイ。骸鬼がアイガードから紫光の衝撃波を放てば、コンクリートの建物でさえ簡単に砕け飛んだ。瓦礫と一緒に転がってきたのは血色の鎧を纏った草鉄の1人。そのまま動かなくなった者を見下ろしたのはギガスアーマー部隊の1人。

血陣(けつじん)骸装(がいそう)

ギガスアーマーの上に更に血色の鎧を纏ったロードスター所属の草鉄の1人。すると高速移動で足を蹴り、頭上に飛び上がり、骸鬼の頭目掛けて収束する光の弾を放った。強烈な圧力が骸鬼の頭部を襲うが、直後に紫光は全方位に放たれた。吹き飛んでいくギガスアーマー。地面を転がりゆっくりと足掻く者を見下ろしたのはジェクス、イシュレ、レヴァク、エストーン、ゼフォンだった。

「あれが、骸鬼か。確かに凄まじいテムネルだ」

「退屈しのぎにはなりそうだな」

そう言ってレヴァクが深呼吸して瞳を虹色に光らせると、直後に“周囲には誰も居ないのに”骸鬼は顔面を狙撃された。光が弾けると骸鬼は少しだけ仰け反る。同時にイシュレがフワッと瞳を虹色に光らせる。

「すごい硬いよ。金属と、血剣族の霊気が混ざったものがボディーになってて、あのテムネルが更にコーティングされてる。でも背中は脆そうだよ」

「背中だな」

瞳を虹色に光らせたエストーン。するとその手には“ロケット弾”が握られた。そして転移したのは骸鬼の後方300メートル。

「一撃で決めてやる!・・・おらあ!」

ロケット弾はぶん投げられた。直後に炎を吹き出して速度を上げると、骸鬼が振り返る間もなく、ロケット弾は骸鬼の背中で爆発した。周囲の瓦礫が舞い上がるほどの“雷光と氷炎の爆風”に骸鬼は倒れ込んだ。

「おおー」

イシュレがそう声を漏らすと、いつの間にもうすでに戻ってきていたエストーンが「へへっ」と鼻の下を擦る。

「決まったよな?」

倒れたものの手をついていた骸鬼は、震えながらも起き上がっていく。

「うん決まった」

「いや、イシュレ、よく見ろって」

呆れたようにそう言えばゼフォンは瞳を虹色に光らせる。

「ウリネック!エター!」

両手を広げたゼフォン。そこに全身が蔦の体毛に覆われたトカゲの精霊ウリネック、全身が鉄の鱗に覆われたワシの精霊エターが飛んできて、ゼフォンに憑依した。鉄の鱗と蔦の毛皮に覆われたゼフォンはそして両手を黄金に染めた。片膝を着く骸鬼、そこにゼフォンが音速で飛び込んでいく。

「どらああ!」

空気を哭かせるほどの爆音のような衝撃音。ゼフォンの蹴りに、骸鬼のアイガードは砕けた。

「蹴りかよ!」

そのまま今度は仰向けに倒れた骸鬼。ゼフォンがふぅと息を吐き下ろす間にも骸鬼は動かない。

「マガツになって初めての全力だが、呆気なかったな」

骸鬼を背後にそう言って、ゼフォンはウリネックとエターを放す。

「次はジェクスだろ」

エストーンがそう言うが動き出さない骸鬼を見ると、ジェクスは片眉を上げながら首を傾げて、もういいだろと語った。そんな時だった、イシュレが瞳をフワッとさせたのは。

「動く」

「ん?」

テムネルが蠢き出したのを、ジェクス達は感じ取った。何か、湧水が上がってくるような気配、そんな感覚だった。直後に紫がかったテムネルは骸鬼を覆い隠し、毒々しく光輝く。同時にイシュレが瞳を虹色に光らせた。

「え、何、すごく・・・“時間が分厚い”」

「どういう意味だ」

ジェクスが尋ねる。

「年月を感じるんだろ?」

ゼフォンがそう言うとハッとしたようにイシュレはうんうんと頷く。そんなやり取りにジェクスは呆れたように笑みを溢す。

「何で分かるんだ」

「えっと、何か、すごい時間をかけて、重なって強くなったような、うん」

その直後、骸鬼は“弾け飛んだ”。6メートルの巨体が下からの何かしらの衝撃で浮き上がり、瞬時に立ち上がった。ジェクスがふと目を留めたのは周囲に散らばる漆黒の鉄片。

「ボディーが、砕けた。けど、瞬時に立ち上がっただと」

「えっと、ボディーを脱いだの」

「脱いだ?」

「硬いボディーを取って軽量化したんだろ?でもそれなら脆くなったはずだ」

レヴァクはその場から動かず、2本指を骸鬼に向けた。長距離狙撃。それがレヴァクのスタイル。しかもその光弾は目には見えない。それから見えたのは震えた空気だった。

「何だあ?効いてないのか?」

相変わらず漆黒の鉄皮だが、とても身軽そうになった見た目の骸鬼。その胸元には5角形の光源があり、更に背中には炎のように揺らめく、4枚の紫がかったテムネルの羽。

「あのテムネルの光壁だよ。えっと、光壁がボディーのように纏わりついてる」

「物理的な鎧を捨てて、魔法の鎧にした訳だ」

「しぶといな。だが、ようやくオレも本気を出せる」

そうジェクスは瞳を虹色に光らせた。

野下の鉄人のアジトからトレーラーがやって来た。しかしそれは資材の搬入の為ではなく、緊急事態だから。トレーラーが停まったのは“カルベスが管理する軍事施設があった場所”。トレーラーを降りた山賊の男は、建物自体が無い状況に呆然とする。そして目を向けたのは、トレーラーが来るのを待っていたかのように佇むラングエイだった。

「どういう事だ」

「最後の仕上げは、ハッキングされる訳にはいかない。骸鬼の情報がそっちに回っていくより前に、施設は移動させた」

「資材は足りないはずだ」

「無人ギガスを全て投入して、足りたと判断したんだろう。後はもう、オレ達ですら何も分からない」

素早くトレーラーの運転席に戻った山賊の男は通信を繋いだ。そんな姿を横目に見ながらラングエイは遠い眼差しで山を眺める。

ライザー部隊と共にシエネイラの街ゼンマイにやって来た翼人支援チーム。適当な建物の屋上に立ち、グラバードが眺めたのは広範囲に破壊された街並み。そして変異した骸鬼と対等に戦うマガツエルフ達。

「ジュレイク!ライザー部隊は救助活動に使う、ライザーの指揮は任せる。あれだ、救助はちゃんと血剣の族長と連携しろよ?3人はジュレイクのサポート、他はなるべくマガツエルフのサポートだ。オレはとにかく情報収集に動き回る」

「分かりました」

それからジュレイク達が向かったのは草鉄本部。適当に捕まえた血剣の人に案内して貰い、そしてファウンデイルと顔を合わせる。

「ロードスターの翼人支援チームです」

「我らが声をかける前にマガツエルフ達を動かしたのは君達か」

「はい」

「迅速な判断には感心する」

「オレ達とライザー部隊は救助活動に専念しますので、細かい指示を頂ければと」

「うむ」

骸鬼が紫に光らせる眼から紫光を放てば、それはレーザービームとなり建物を切り裂く。それでもマガツエルフ達が居るお陰か、進行は出来ない。そんな状況で、グラバードが向かったのはジェクスの下。

「おう来たか」

「あいつは?」

「まぁ何つうか、テムネルの生存本能ってやつかな。でもオレらなら止められる」

「あいつだけか?」

「そう、だな。他に見てない」

エストーンのロケット弾の爆発に“少しだけ”よろめき、全力の姿のゼフォンのパンチを受け止めて弾く骸鬼。グラバードの目には互角に見えた。とは言え5対1なので骸鬼は進行は出来ず、この戦況には勝機さえ感じた。だから次にやる事は分かった。

「この前言ってた濃縮魂子ボール、無くても勝てそうか」

「そうだな。まぁ単にテムネルを消滅させるっつうならオレ達でも出来ると思う。あのボールを見てやり方は分かった」

「ならここは任せる──」

適当に翼人支援チームの1人を捕まえて簡単な報告を済ませ、一旦ロードスターに戻れば向かったのはサルマン山脈山上基地。

「あとはガグナ達に転移させて貰う。朝食も済んだ時間だろうからな」

「分かりました」

ガグナの部屋にはノックは要らないが、グラバードはせめて静かにドアを開ける。

「ガグナ」

「おう」

「今、シエネイラに骸鬼が来て、血剣の族とジェクス達が戦ってる」

「え、作戦はこれからだよな?あっちから動き出したのか?」

「あぁ」

「分かった」

「イエンは?」

「今日はシューガーの街の穴だな。昨日あっちで寝るって言ってた」

ガグナと共にシューガーの街の穴にやって来たグラバード。イエンが居たのは屋台通りのテーブル席だった。2人を見れば朝食中のイエンはキョトンとする。

「カルベスの方から先にシエネイラに攻めてきたってよ」

「そうなんだ」

「カルベスって、異世界の?」

そう聞いてきたのはイエンと一緒に朝食を取っていた、イエンと仲のいい街の穴の女性保安官マイネ。

「あぁ、今日、カルベスを討伐する作戦が開始されるんだが、その前にあっちから攻めてきたんだ」

「そうなんだ。勝てればもう街の穴は安心なのかな。結局ギガスアーマーの全世界配備は大幅に改革するからって見送られてるし、世論でもさ、カルベスが独善的過ぎたって感じだし。何かカルベスさえ居なくなればいいって言われてるし」

「でもあれだぞ?パルデグも異世界人だぞ?なあ?」

マイネよりも目を見開いたのはグラバードだった。同時に無意識にマイネと目を合わせる。

「ほんとに?」

「まぁいづれ分かる。ロードスターから異世界人を排除する計画は終わってない。くれぐれも口外はしないでくれ」

「そうだったんだ。でもメディアだって本当はまだ異世界人が潜んでいるんじゃないかって言ってるし、そんなに極秘にしても意味ないと思う」

そう言うと冷静にマイネはスープを一口。

「ガグナ、誰から聞いたんだ」

「ラインメイ」

「そうか」

1番なのは、悪気なく口の軽いエルフという人種を早く連れていく事。そう計算を弾き出したグラバードは朝食を食べ終えたイエン、そしてガグナをさっさと禁界の合同キャンプ場に連れ出した。

「ああ、ルア達も全員連れてくのか」

「オレ達は別行動だ。骸鬼は恐らく囮だろうからな。カルベスのところに行く」

キャンプ場に独立自警団の誰かが居ればすぐに招集をかけられるが、居なければ自分が直接禁界に入ればいい、そうグラバードが視点を飛ばしていくと、キャンプ場の外れにはアーサーが居た。

「アーサー」

「ん?」

「燃えてる」

イエンがボソッとそう言えば、オージャソウルの姿のアーサーは自慢気に笑う。

「良いだろ」

「正午の予定だったカルベス討伐作戦、これより緊急的に開始する。カルベスが先手を打ってシエネイラに骸鬼を送り込んできた」

「何だって」

「すぐに独立自警団を集めてくれ」

ロケットのように禁界の中に飛んでいったアーサー。それからルアとヘル、アーサー、アルファ、ホープ、シャーク、グズィール、メア、テリッテ、ヒーター、クロム、ロックエル、マスカットがパッとやって来たのは数分後だった。

「シエネイラでは翼人支援チーム、血剣の族、ジェクス達が骸鬼を食い止めている、その間にオレ達はカルベスを叩く」

そしてシエネイラの山奥にやって来たグラバード達。しかしそこには建物ごとカルベスの姿は無く、グラバードは呆然とした。

「・・・何だと」

「おい、どこだよ!カルベスの野郎は!居ねえじゃねえか」

「(ていうか建物ごと夜逃げされてるし)」

いや、囮を出す意味はこういう事だったのか。しかしそう納得出来たところでどうしようもない。そうグラバードが突っ立っていると、テリッテが歩み寄る。

「ねえ、少しだけ離れて実は近くに隠れてるって事ないかな?」

「かも知れない。各自手分けして索敵を頼む」

索敵を始めて1時間、成果は無かった。近くには居ないと判断したグラバードは皆を連れて骸鬼の下に向かった。その頃には街の被害は500メートルまで広がっていたが、骸鬼は“石と化していた”。

「ジェクス」

「戻ったか、カルベスは?」

「見つけられなかった。建物ごと消えていた」

「そうか。その為の囮だったんだな。でもま、骸鬼はもう“消えた”ぞ」

「消えた?」

「ほら、あのボールのやり方、眠らせて、浄化。それで骸鬼は止まった」

被害の大きい街並み。そのど真ん中に石像のように立っている骸鬼。紫がかったテムネルは微塵も無く、それはまるで何かのオブジェのようだった。もう戦いは終わっていた。そんな静寂にアーサーは1人落胆した。

一方その頃、野下の鉄人のアジトにて。

「親分は!」

その問いかけに、男は首を横に振った。

「助からなかった」

そんなやり取りの傍ら、ブルース、バン、タンクロ、メンタは呆然と眺めていた。台風でも過ぎ去ったかのように壊滅したアジトを。天井は落ち、戦車も武器も、オオカミ型無人ギガスも全部ペシャンコ。誰の仕業かは分かっていた。

「ねえ、これからどうなるのかな?またフリーキッズハウスかな」

メンタに生返事しながら、ブルースは聞こえてきた話を小耳に挟む。どうやら親分が死んだようだと。元々派閥があったし、親分が居なければ“野下の鉄人達”はまとまらないと。

「別に、オレ達は機械いじくれる仕事があればいいだろ?なあブルース」

「まあな」

とある山奥。その足音は地面を轟かせ、その巨体は歩くだけで木々を薙ぎ倒す。野下の鉄人のアジトから重機が通ったかのような跡を引きながら、やがて小山の頂上に立てば、その眼差しはシエネイラの街を見渡した。

読んで頂きありがとうございました。

さすがにマガツエルフ達は強いですね。遂に動き出したカルベス。果たして決戦の行方はいかに。

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