「目覚めてはならなかった者」前編
カルベスが管理する軍事施設。そこにトレーラーがやって来た。野下の鉄人のアジトから資材が運ばれてきたのだ。野下の鉄人からバトンタッチされた黒い無人ギガスにより、運ばれていく金属は“最後の無人ギガス”のコクーンへと注ぎ込まれる。完成までにはまだ時間がかかる。翼人支援チームの動きなど知る由もなく、最後の無人ギガスにテムネルを注ぐカルベスを、ラングエイは管理室からただ眺める。
「ラングエイさん、オレ、ちょっとシエネイラの街に行ってきます。日蝕の事で情報収集を」
「あぁ」
「カルベスさんも全然指示出さないし、まぁ自主的に」
シエネイラの街ウスカズラ。とある喫茶店。安っぽいドアベルの音を聞きながらノウセルが1番端っこのテーブル席にふと目を向けると、そこで待っていたのはアマビとゼンメイだった。
「よお」
「何だよ今更。今まで何してた」
「まぁ、何だ、ほんと今更だが、お前には言っておこうと思ってな。オレらは、カルベスさんとこから抜ける。まあ今更行っても、ラングエイに質問責めされるだろうし、居づらいだろ」
「何でオレに。言わずに消えた方が安全だろ?」
「ちょっと手土産に情報をな。聞きたいか?」
抜けたという事は“戻った”という事。しかし元気なところを見ると、裏切り者としてボコボコにされた形跡はない。そうノウセルは、ゼンメイのいつものような放浪者のような笑みを疑う。
「まぁ聞きたいから誘いに乗ったんだろ?」
「いや、ちょっと聞きたい事があっただけっつうか」
「何だよ」
ノウセルはふとアマビの顔色を疑う。それはいつものように気怠そうで、つまりは元気だという事。
「2人共、元の族に?」
「まあな。代わりにカルベスのとこの情報収集をな。実は、定期的に視点を飛ばして視てた」
「そうか。まさか、そっちにオレを誘おうって?」
「そうだと言ったら?」
ノウセルは頼んだアイスコーヒーを一口。
「野下の鉄人、知ってるよな?」
「あぁ。新しい資材の取引先」
「そのトップは血剣族だ」
「何だって」
「今はただの武器商人ってやつだけどな、野下の鉄人は血剣族とも取引してる。つまり、お前らは、もう手詰まりなんだよ。ついさっき聞いたんだ、ギガスアーマーと無人ギガスの設計図を野下の鉄人が手に入れて、やがて血剣族にも回ってくるって。まぁ同族のよしみっていうか、戻るなら、オレが手を回す」
ノウセルが脳裏に浮かべたのは、人間らしさの感じないカルベスの背中と、最後のギガス。
第60話「目覚めてはならなかった者」
「で、手土産ってのは、ロードスターが主体になったカルベス討伐作戦が始まる。ロードスターと血剣族が結託してな」
「まじかよ・・・」
「しかもロードスターは日蝕を守って、カルベス討伐後は血剣族の内部戦争も事実上停戦の方向に進む算段だと」
ふとした沈黙。ノウセルは慌てないで冷静でいられる自分自身を見つめていた。ツレザネが殺されるのを目の前にして、ついて行かざるを得なかったが、きっともう、今のカルベスにはあの時の傲慢な指導力でさえ、人間らしさと共に消えているのかも知れない。
「本当に、そろそろ、終わりだぞ」
「いつだよ。作戦」
「それは言えないでしょ」
ボソッと反論したアマビ。それからカルベスが管理する軍事施設に戻ってきたノウセル。自分のパソコンに来たメールは今消したが、これから話すのならば意味はない。話すかどうかを考えながら、とりあえず無人ギガス製造管理室に戻るが、そこには誰も居なかった。小さな違和感でもって窓から製造ラインを見下ろしてみるが特に変化はなく、時計を見れば昼時だったので、それからノウセルは廊下を歩いていく。食堂に行けばやはり皆が食事していたので、メニューである牛丼とサラダをセルフで盛り付けて、広い食堂にも拘わらず程よく集まっている皆に混ざる。
「ラングエイさん。あの──」
「悪いノウセル、メール見た」
言葉を遮ったのはケンディだった。でも裏切り者を見るような眼差しではないと、ふとノウセルはラングエイを含めて皆を見渡した。
「何だったのよ?あのお調子者」
「・・・ゼンメイとアマビは、ここを抜けるそうです」
「そうか」
しばらく顔を見せなかったあの2人。今更そんな事には驚かないといったように、ラングエイは牛丼を一口。
「で、手土産に情報を」
「何でだよ。抜けるのに。あ、まさかそれで誘われたのか?」
ケンディの問いにノウセルは口の中のものを飲み込む為に水を飲んだ。
「あぁ。オレも、そろそろ見切りをつけるべきかと。近々、ロードスターが主体で、血剣族も入ったカルベスさん討伐作戦が始まるそうで。ゼンメイが、もうここは終わりだから、抜けないかと」
「野下の鉄人の策略だな」
「え?何ですか?」
「野下の鉄人のトップは血剣族で、血剣族とも取引がある。しかも、この建物が最初から族長の物だと知っていたと言っていた。野下の鉄人からの接触は、草鉄を退けてからのあっちなりの作戦なのかも知れない」
「どういう事ですか?」
「狙いは私達だったって事よ」
「でも、ロードスターが独立自警団も血剣族もマガツエルフも巻き込んでここに来たら、終わりなのは確実ですよね」
ノウセルがそう言っても、ラングエイは食事の手を止めなかった。野下の鉄人は、部下達の心を揺さぶる為の刺客だった。でもそれを理解しても、ロードスターの作戦は止められない。むしろ野下の鉄人は“その大きな流れ”から逃れる助け船をそっと出したようなもの。牛丼とサラダを食べ終え、水を飲んだラングエイはそして意を決した。
「皆、抜けるなら今の内だ。オレは何も言わない」
「ラングエイはどうすんだよ」
そう言って厨房からジドウゼンが出てきたところで、ノウセルは冷静にサラダを一口。
「オレは、無人ギガスの責任者なんで。あれを放り出す訳には。でも、ここが制圧された時、命を賭けて戦う必要はない」
「ロードスター介入によって血剣族の内部戦争が事実上停戦の方向に向かうってゼンメイが言ってました。カルベスさんに伝えれば、カルベスさん討伐も収まりますかね」
「まじかそれ」
「あぁ」
「本当なら可能性はあるわね」
「あ、でもカルベスさん討伐後って言ってました。でもカルベスさんが戦意を納めればそれでいいですよね?」
そしてノウセルはラングエイと共に、無人ギガス製造ラインに向かった。カルベスは相変わらず漆黒の鎧を纏っていた。2人は途端に緊張を抱く。果たして部下の言葉で簡単に戦意を抑えるものなのか。そんな人間だったらツレザネを殺したりはしないはず。
「族長。ノウセルに、ゼンメイとアマビが接触して来ました。2人からの情報では、近々、ロードスターが血剣族とマガツエルフと独立自警団を率いて制圧しに来るそうです」
振り返らないカルベス。ふとノウセルはゆっくり歩み寄って来る血鬼を見る。
「いつだ」
「それは分かりません」
「まだ資材が足らないな。こうなれば全ての無人ギガスと骸鬼を投入するしかあるまい」
「そうですか。もう1つ重要な情報が。ロードスターは、血剣族の内部戦争を事実上停戦に向かわせるそうで」
「何だと」
ようやく振り返ったカルベス。
「砂漠の集落は壊滅させましたが、いわば本体には何も影響は無い訳で。ロードスターは今後、日蝕を守ると」
「新しいシューガー首相は何をやっているのだ」
「それは・・・」
「カルベスさん、内部戦争が事実上停戦に向かうなら、ここはもうモチベーションがないですよね?」
表情は分からないが、最後の無人ギガスに再び体を向けたその態度からは何となくの戸惑いが伺えた。
「ならば、ロードスターを潰すか」
「え」
「どうしてそこまで」
「どうして、か・・・これが私の、生き様だからだ」
「けど、いくら何でもロードスターが率いる大軍には。もう投降するしか」
「投降したければするがいい」
「いやカルベスさん。それは、命を捨てるだけじゃ」
「フッ負けると決まった訳ではない。これが完成すればな。ギガスを投入する準備を」
「・・・はい」
黒い無人ギガス部隊のシャットダウンコマンドを開始したラングエイ。簡単に説得出来るとは思っていなかった。そうラングエイはふと野下の鉄人のトップ、ジンテツの冷えきった眼差しを脳裏に過らせた。助けるというのはおこがましい。しかしカルベスという男の過去を知っているジンテツなら、あの身のある威厳と言葉なら、もしかしたら族長を止められるのかも知れない。それから整列していた黒い無人ギガスたちの眼光は消えていった。それをカルベスは転移させ、コクーンに投入していく。
テッドランにて。テッドラン軍本部、グラバードはドアをノックした。それはサイヴァー元帥の執務室のドア。それからグラバードはサイヴァー元帥から書類を受け取った。それは作戦の概要をまとめたもので、ロードスターの3ヶ国それぞれの元帥のサインがある、つまりロードスター軍が運用される事が正式に許可された事を示す書類。
「シューガーが編成した隊員はほぼ血剣族だと思っていいだろう。お前のチームに探りを入れてくるかも知れない」
“編成されたギガスアーマー部隊のリスト”をめくるグラバード。
「問題は無いと思います。保険をかけました。向こうの世界の、マガツエルフのグループにも“間に入る”事を要請し、了解を得ました」
「マガツエルフ、信用出来るのか?」
「個人的憎悪や策略で、ロードスターの敵に回る事はないと断言出来ます。動機も無いので。エルフという人種は、こちらから手を出さなければあちらからも手を出す事はない。それにいざとなれば、独立自警団も利用します。特に翼人が関わってくれば炙り出しと抑制の両方で効果があると思います」
「留意しておく。現場での指揮権はお前のチームにあるが、くれぐれもシューガーを信用するな」
「はい」
禁界の合同キャンプ場。ルアは光壁で作った袋に光を入れていく。30回分の魔法を入れれば、そこからドルタスの見よう見まねで魂子を取り出し、光壁のボールに詰めていく。それからヘルに見られながら、濃縮魂子ボールをプリマベーラのシリンダーにセットする。
「(やっと本来の使い方)」
「うん、まあね」
「(ボクも作ったよ?これは火で、こっちがリッショウ)」
「リッショウ!?出来るの?」
「(ドルタスがどんな異世界の魔法にも集団的無意識はあるはずだって。それでジヴォーフがね、リッショウの霊気から意識の核を見つけてくれたんだよ)」
「意識の核?」
そんな話をしていたらルアとヘルの下に歩み寄ってきたジヴォーフ。
「リッショウは人間が作った魔法だけど、潜在意識が魔法の引き金なのは精霊の魔法と同じだよ。でも普通の状態だと、リッショウの霊気には雑念がある。だからリッショウの潜在意識だけを取り出したんだ」
「そしたら、どうなるの?」
「そりゃあ、リッショウの潜在意識の濃縮意識を使えば、今までの限界を超えられるよ」
「すごい。今までよりも、強いリッショウ」
「でも制限時間があるからね」
「(え、そうなの?)」
「どんなに水を注いでも、コップに収まらない量は溢れるでしょ?人間の意識にも限界はあるから」
「(どれくらいかな。でも、制限時間ありのスーパーパワーアップ、何か良くない?)」
そうヘルが心で笑えばルアも笑顔。
「(濃縮魂子ボールと、リッショウボール。荷物増えるなぁ。ルア、鞍さぁ、サイドポーチ付けてよ)」
「うん、じゃあネットで買う」
禁界の森にパッとやって来たルア達。会いに行ったのはアーサー。その直後に青い光が眩く立ち上ぼり、それは剣となった。
「・・・ダメか」
「アーサー」
「ん、おう、何だよ」
思ったように出来なかった剣が呆気なく消されていくと、そこに近くに居たメアも歩み寄ってくる。
「ヘルがすごい事発見したよ。アーサーが1番喜ぶと思う」
「え?何だ?」
「(じゃーん。これはね、濃縮魂子ボールのリッショウバージョン)」
するとアーサーはそれを一点に見つめ、生唾を飲み込み、ゆっくりと手を伸ばした。
「何だよ、濃縮何とかって」
「メアはまだ知らなかったよね。ドルタスがね、もっと強い魔法を使えるようにって、魔法の元を集めたものだよ」
「ああ、何かホープが言ってたな。それか。良かったなアーサー。強い魔法だってよ」
「あぁ」
「(制限時間はあるけど、今までよりも強いリッショウが出来るから、欲しいならあげるよ?)」
「いいのか?」
「(うん。また作るから。きっとこれならあの大きな骸鬼ってやつも倒せるんじゃない?)」
「そうだな」
「アーサー、何か元気無いね、どうかしたの?」
「こいつ、さっきからエクスカリバーとかいうの作ってるんだが、出来ないんだ」
「(ハルクさんに教わってるんでしょ?)」
「そうなんだけど、何かこう、あと1つ足りないんだ」
「(こういう時は、魔法って言ったらやっぱり呪文だよ)」
「でもリッショウとかの魔法は呪文なしでやるんだろ?」
「(あれ?そういえばハルクさん、呪文言ってなかったっけ。エクスカリバー作る時)」
「言ってたけど、言わなくても出来るんだろ?」
「いや、さっきからずっと出来てないだろ」
メアがそう言うとアーサーは納得出来ないように黙り込むが、そこでヘルは笑った。
「(まさか、呪文言わないだけで、出来ないだけなんじゃ)」
「いや、そんな訳・・・・・そうなのか?」
「(ジヴォーフも言ってたよ?呪文は大事だって。なんてったっけ、エクスカリバー。確か・・・)」
「ライコウテンカン。ハルクはいつもそう言ってる」
「じゃあ言ってやれば?」
メアが軽い口調でそう言えば、アーサーはまだ納得してない様子だが、尾状器官の手を天に掲げた。
「フゥ・・・・・ライコウ!テンカン!」
すると直後に尾状器官の手は激しく輝く青い光に包まれた。それは凄まじい光が溢れるように見えるが、同時に迷いなくなるべき形になるような真っ直ぐさを感じた。
「うおおっ」
天まで突き上がるように、でも内へ内へと引き込まれるように、そして青い光は一瞬で剣となった。アーサーの身長と同じくらいの剣身というその迫力、同時に威圧感が体に差し込んでくるような存在感。そんな剣が生まれると、アーサーはただ神妙に剣を眺め始める。
「やっと・・・出来た。出来たぞ!・・・・・よっしゃあ!うおおおー!」
走り出したアーサー。見せ物が終わったただの見物人かのように、メアはそれを鼻で笑う。
「(メアは?これからの為にエクスカリバー練習しないの?)」
「どうかな。ホープが言ってたけど、もうロードスターはここに侵略して来ないんだろ?」
「(んー、そうかも知れないけど、まだ安心は出来ないと思うよ?)」
「まぁ、アーサーが居るからな」
「(そっか。あ、戻ってきた)」
「とりあえず俺、ハルクのとこ行くわ。じゃあな!」
「あぁ。・・・さて、オレも行くか。実は用の途中だったんだ」
「どんな?」
「釣りスポット探し」
「(え、楽しそう)」
そしてルアとヘルはメアに手を振った。歩きながらふとヘルは思い出し笑い。
「(やっぱりさ、魔法って呪文が大事って事だね)」




