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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「目覚めし者」後編

アルティアはふと見つめた。父の横顔を。目覚めた事による安堵と、家どころか集落をめちゃくちゃにされたという怒りと闘志。それらが混ざった真剣な顔だ。私は実際にはあの後の集落を見てない。だからまだ実感は無いけど、戻れないって事は分かるから何となく災害にでも遭ったかのよう。

「お父さん」

「ん?」

「集落、元に戻るの?」

「・・・1から建て直しだ」

「そっか。ロードスターが守ってくれるんでしょ?だったら砂漠でもここでも同じじゃない?」

「カルベスさえ倒せばまた砂漠で暮らせる」

「え、だって、別の血剣の人達は?長年戦争してるって」

「それはロードスターが間に入る。だから問題はカルベスだ」

そうバルサリクが言えば、聞こえている周りの人達も空気感で同意してるように静かだ。アルティアはもどかしくなった。自分も戦いたいと言う気は無い。でも何も出来ないと思うと急に虚しくなる。そんな娘の内心を知ってか知らずか、するとバルサリクはアルティアの肩に優しく手を置いた。

「待ってろ。必ず何とかする」

「・・・うん」

禁界の合同キャンプ場。翼人支援チームは人手を分けた。それはカルベス討伐作戦の一環。ジュレイク達は“エンタガの警備員を増やす為の相談”でラインメイの下へ、そしてグラバード達は作戦会議の為に禁界へ。

「これより、カルベス討伐に向けて作戦会議を行う。元々はロードスターの問題だが、まぁ色々と縁があって独立自警団アルテミスに支援して貰える事になりとても心強い」

「作戦会議って、カルベス殺すだけだろ」

「アーサー、静かに」

ホープがそう言ってアーサーをツンツンする。

「共有すべき情報ってのがあるんだよ。本作戦は我々翼人支援チームが仕切る。知っての通り、カルベスは元々ロードスターに潜伏していた。しかも潜伏している血剣の族はまだ多い。実際、新しいシューガー首相のパルデグはこの世界の人間だ」

「(え!そうなの?)」

「カルベス討伐作戦は、ロードスターから異世界人を全て排除する為の足掛かりになるんだ」

「(ロードスターにも事情があるんだね)」

「あぁ。この世界の血剣の族は内部戦争をしていて、グトウ砂漠に住む血剣の族を狙っている。この前の集落強襲はそのせいだ。我々はその血剣の族の内部戦争を仲裁する事になった。そうすれば、ロードスターから血剣の族を追い出せるようになるからだ」

「(どうやって?)」

「簡単に言えば、この世界の血剣の族はロードスターを中継基地にしてる状態だ。だからむしろロードスターは、血剣の族全体の裏切り者であるカルベス討伐に協力し、この世界の血剣の族に恩を売り、同時にグトウ砂漠の血剣の族にとっての壁になる。つまり、この世界の血剣の族にとって、ロードスターを居づらい場所にする」

「何で俺らに?関係ねえよな?」

アーサーが問いかける。

「せっかく協力して貰うんだ、この戦いの根底にあるものくらい打ち明けさせて貰おうと思っただけだ」

「そういや、禁界を攻めようって話はどうなんだ?禁界とロードスターの因縁だってあるんだぞ?」

「あの山を崩した作戦を指揮した司令官は異動となった。確かにロードスター内部でも禁界への対応には意見が分かれてるが、少なくとも翼人支援チームである我々は友好的な交流を望んでる」

そんな時だった、アンシュカが寸胴に入った野菜スープを台車に乗せて押してきたのは。何故なら“もうそろそろ”昼食の時間だから。出汁とスパイスの香りが広がっていくと、やがて会議の緊張感は香りに押されていった。まだ“前振り”が終わっただけなのに。そうグラバードは器によそって貰った野菜スープをエルフから受け取る。

シエネイラ、カルベスが管理する軍事施設。ラングエイはふと骸鬼を見上げる。その向こうに見えているのは野下の鉄人の親分。つまり今、骸鬼の頭には爆弾があるという事だ。身の振り方を考えろという言葉が妙に頭から離れない。カルベス族長の頭には一体何が描かれているのか、そこには果たして“黙ってついてきた部下”の姿はあるのだろうか。自分はカルベスがシューガー首相になる3年前、ロードスター潜伏組としてカルベスの直属の部下になった。ロードスター潜伏組の中で1番の“変わり者”。そう聞いていて、実際良い意味でそうだった。確かに今、あのカルベス首相はもう別人だ。例えば暴君であればこっちも後腐れなく陽光に投降しただろう。でも別人でありながら掴み所の無い感じは変わっていない。

「ラングエイさん?」

我に返ったラングエイはそれから食堂にやって来た。今日のメニューはカレーだった。ふとラングエイはカレーを食べている部下達を見渡した。皆は何故ここに来たのだろう。ツレザネは見せしめにされたが、それからは少なくとも誰一人として見せしめにはなってない。カルベスは山賊の親分のような“力と人脈をコントロール出来る者”でもない。カルベスの部下である自分は、今はもう恐怖というより、仕方のなさの延長でここに居る気もする。

「ラングエイさん。山賊のトップに何か言われたんですか?」

声をかけたのは1つ飛ばして隣に座るノウセル。

「大したことはない。骸鬼をハッキングされて、不利な交渉をさせられただけだ」

「でもハッキングって、テムネルですよね?」

「族長もそう言ってた。問題無いと」

「それでどうするんですかね?」

「え?」

「砂漠への急襲は成功したんですよね?」

「逃げられたけどな」

ケンディがそう言いながらカレーを一口。

「そうだけどさ。まだ見つかってないんですよね?」

「恐らくはもう砂漠には居ないだろう。クージ政府が匿ってるか、或いはロードスターか」

禁界の合同キャンプ場。野菜スープで昼食を終えたグラバードはそれからそもそも並んではいない皆の前に立った。まるでアルバイトの朝礼のようにただ集まっている皆はリラックスしながらもグラバードを見る。

「カルベスの潜伏場所はすでにガグナが突き止めてくれている。後は攻めるだけだ」

「おいおい、やっぱり作──」

「アーサーっ」

「重要な事が1つあるだろ。特異なテムネルに対しての対抗策だ。眠らされる前に大元を断つ。今回は濃縮魂子ボールが1番の肝だ。特異なテムネルを持つ本体を無力化したら、同様にカルベスにもそれを行えば確実に勝機を手に出来る。ただカルベスを倒せば良いという訳じゃない。カルベスを倒すのは、血剣の族に恩を売る為。つまり本作戦は血剣の族と共に行う事とする。血剣の族はマガツエルフのグループと同盟を組んでいて、その戦力もカルベスにぶつけたい」

「(マガツエルフのグループ?)」

「元々は血剣の族はエルフと戦争関係にあったそうだ。マガツエルフも血剣の族と戦う為のグループだったが、和解したという情報を聞いている」

「(イエンみたいな人達のグループって、それでカルベスは倒せなかったのかな)」

「それについての情報は持ってない。この後は本作戦を伝える為にその血剣の族の下へ向かう。アルテミスの団長には同行を願う」

「え、あ、はい」

「(何かさ、最近ルア、“あ”はい人間じゃない?)」

「何それ」

「(えっへへへ。ボクも行きたい)」

「私も」

ヘルに便乗したのは、テリッテだった。何故ならアルテミスの翼人組のリーダーはテリッテだから。そんな事を言えばデュープリケーター組のリーダーは俺だと、アーサーも声を上げた。

それから翌日。改良型無人ギガス、ライザーがエンタガの街に配備される手筈も整う一方、禁界の合同キャンプ場に集まったルアとヘル、テリッテとアーサー。

「(昨日ガグナにアポ取って貰って今日行くって、あっちも暇なのかな)」

「あっちの人も、一緒に戦いたいんだよ、きっと」

テリッテがそうヘルに応えたところで翼を振りながらレイカが駆け寄ってくる。

「聞いたわよ。これから遠くの大陸に行くって」

「(うん)」

今朝のキャンプ場の朝食はバーベキューだな。ヘルが内心で確信していく中、ルア達はアンシュカ達と一緒にまったり過ごしていく。

「山の道ってどこまで進んだの?」

レイカがそう聞くと、テリッテは嬉しそうに屈んで顔を近付ける。

「5分の1くらいだって聞いたよ?」

「まだまだかかりそうね」

「おーい」

いつの間にか来ていたガグナ。ルアが振り返れば、ガグナはアンシュカが配っている野菜ジュースを片手にしていた。

「そろそろ行くぞ」

「うん」

グラバードと合流すればガグナに転移させて貰って、そしてシエネイラ。

「この国の人口の半分以上は血剣の族だそうだ。そして血剣の族には種類がある。全ての血剣の族のリーダーを勤めるのが陽光の一族で、これから会いに行くのは陽光のリーダーだ」

「グラバードさんは会った事あるの?」

問いかけたのはテリッテ。

「いや、オレも初めてだ。けど情報収集は問題ない」

公民館のような印象の、悪く言えば地味な建物に入っていったグラバード達。受付は無いが、そこには待ち構えている人達が居た。人数までは知らされていなかったのか、ヘルやアーサーの姿に表情を強ばらせる3人の血剣の人達。

「急な訪問を失礼します。オレがロードスターの翼人支援チームのリーダー、グラバードです」

するとグラバードの握手に応じたのはその中で1番の年寄りの男性だった。

「陽光の長を勤めるスディングだ。彼らは補佐だ」

「こんにちは。私はテリッテです」

「うむ」

「この者達は独立自警団アルテミス。本作戦の援軍で、カルベスのテムネルを抑える決定的な戦術を提供してくれます」

「それは心強い」

「ジェクスは?」

「今呼んでいる」

ガグナの問いにスディングが応えたところで丁度良く、陽光本部の入口に歩いてやって来たかのように姿を見せたジェクス。ヘルが振り返ると、大きな犬と目を合わせたジェクスはふと固まった。

「お前らは」

「(ボク達はイエンの友達だよ)」

「そうか」

「来たか。彼はジェクス。マガツエルフのグループを仕切っている」

それからエントランスから多目的室に場所が移されれば、大きな長テーブルに各々が座っていく。椅子に座るには体が大きいヘルとアーサーが並んで佇むと、それをテリッテは宥めるように微笑む。

「先ずは、カルベスのテムネルを抑える武器がこれです。彼らの仲間のエルフが開発した、濃縮魂子ボール。これでテムネルを無効化し、カルベスを弱体化させる」

テーブルに出された濃縮魂子ボールをジェクスがふと手に取る。

「これは、なるほど。魔法の種を集めて固めたのか。これで、どんな魔法を?2つあるが」

「黄色い方で、眠らせて、水色でテムネルそのものを消滅させる」

まるで宝石商に品定めされてるような緊張感。ジェクスは聞いてるのか聞いてないのか分からないくらい濃縮魂子ボールを凝視すると、やがてテーブルに戻した。

「眠らせて、浄化、か」

浄化という言葉を聞かずに理解した。その未知なる能力にグラバードは思わず小さく眉間を寄せる。──見ただけで分かるものなのか。

「ふーん、よく作ったな。だが、カルベス1人にこんな大事にする必要あるのか?オレらが全員出れば、無人ギガスとやらもカルベスも敵じゃない」

「敵はカルベスだけじゃない。今日はその報告もある」

「え?」

「無人ギガスを巨大化させた骸鬼というもの、そして姿はカルベスだがカルベスではない、テムネルそのものが意思を持った未知なるもの。その2つの特異的な脅威が生まれた。更にカルベスのテムネルは、普通のものとは違う」

グラバードはふと鋭くスディングの顔を伺った。補佐と顔を見合わせたその態度は“一般的な危機感”。

「今回、本作戦を立ち上げたのは、日蝕の族の集落の1つが壊滅したからです」

「・・・何だと」

「これからロードスターは、日蝕とあなた方の間に入ります。カルベスもあなた方も探してる、我々の世界の日蝕の集落、そこはカルベスに襲撃され壊滅しました。しかし人は死んでいない。今は、あなた方に取っても、日蝕に取っても、ロードスターに取っても目下の敵はカルベスです。それは分かりますよね?」

「勿論。カルベスは、最早自我の無い獣と同じ。ただ、間に入るというのは。ロードスターの軍人ならば、パルデグの指示がある時には逆らえないのでは?」

「それは問題ありません。翼人支援チームは、新しいシェルドフですから」

「シェルドフ」

「と言っても、実状はテッドランの指揮下なので」

「なるほど」

「それに少なくとも、ロードスターは日蝕を守ります」

「集落を潰された者達は、ロードスターが保護を?」

スディングの補佐がそう聞いた時のグラバードの横顔はどこか強気で、ルアはふとこれは世間話なのかと、この場に漂う緊張感に違和感を抱く。

「勿論。集落の復旧も手伝いますよ。因みに、本作戦は翼人支援チームが取り仕切るので、カルベス討伐の為のギガスアーマー部隊や無人ギガス部隊の使用の際は、指揮系統の簡略化も鑑みて我々が手配しますので、申し付けて下さい」

スディングという人の顔色が、何となくグラバードに圧されているように見える。そうルアが観察する中、スディングは小さく頷いた。

「んで?いつ行くんだ?こっちはいつでも行けるぞ」

「まぁ待ってくれ。カルベス側にも無人ギガス部隊があるからな。それには少なくともこっちからも同じ物をぶつける方がいい」

「明日までに準備を整える」

スディングがそう言ったのでとりあえず作戦会議はお開き。皆が席を立っていく最中、グラバードの眼差しは人知れずジェクスを捉える。

「ジェクス。少し時間を貰っていいか?せっかくだからそっちのメンバーを紹介して欲しいんだが」

「あぁ・・・」

スディングが感情の無い眼差しをグラバードに刺し向けている事など、グラバードは気にしない。何故なら口実は完璧だから。陽光本部を出れば、そのまま皆を連れてジェクスは自分の住み処に転移した。

「(ボク達もいいの?)」

「あぁ。一緒に戦う者との顔合わせだからな」

ヘルはふと、グラバードの読めない感情を気にしていた。場を取り仕切るのはしっかりしてる。でも何を考えてるのか掴み所がない。いつも遠くを見ているようで、でも綱渡りでもしているかのような緊張もある。古びた空き屋敷のダイニングでは1人の女性マガツエルフが本を読んでいた。

「ん?何?誰?」

「オレはグラバード。カルベス討伐作戦を取り仕切る、ロードスターの人間だ。突然悪いな」

「取り仕切る・・・・・あー、分かった。はーい」

「(受け入れ早っ!)」

「こいつはイシュレだ。あとは呼んでくるから待ってろ」

「あぁ」

栞を挟むとパシンと本を閉じたイシュレ。

「私はテリッテだよ?よろしくね?」

「うん。見たことない獣、え、何?」

「(ボクはヘル。こっちはアーサー)」

「私はルア」

面々を見ながら、イシュレは瞳をフワッと虹色に光らせた。それが何の事かは分からないが、するとイシュレは口角を引っ張っただけの“真顔の笑顔”で頷いた。

「はーい」

やがてレヴァク、エストーン、ゼフォンが2階から下りてきて、自己紹介も交わされた。顔合わせならもう終わり。でもそこでようやくグラバードは微かな深呼吸をした。

「ジェクス、頼みがある」

「何だよ」

「カルベスを倒して一段落したら、陽光の族を始め、血剣の族は日蝕の族に狙いを定めるだろう。ロードスターは日蝕を守る。というか、血剣の族の内部戦争というものを止めたい。その際にもし血剣の族がロードスターを敵視したら、間に入って欲しい。もし協力してくれるなら、血剣族がエルフを襲った時にはロードスターが壁となる」

すると直後、グラバードを見ているイシュレは瞳をフワッと虹色に光らせた。

読んで頂きありがとうございました。

いよいよ決戦への狼煙が上がり、クライマックスです。 果たしてロードスターはシューガーを取り戻す事が出来るのか。

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