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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「目覚めし者」前編

「アンシュカ!出来たよ!」

ドルタスが最初に向かったのはアンシュカの下だった。嬉しい気持ちを発散させる相手はエルフの仲間以外には居なかったから。振り返ったアンシュカは他のエルフやプライトリアと人達とチョコバナナパーティーをしていた。

「あのテムネルの、意識が消滅して、ただのテムネルになったんだ」

「やったわね!食べる?」

「え、あぁ、うん」

ドルタスが手に取ったのは、ホワイトチョコをコーティングしてアーモンドを散りばめたバナナ。一口かじれば美味しそうに表情を綻ばせたドルタスにアンシュカは満足そうに微笑む。

「浄化の濃縮魂子で魔法をかけたんだ。テムネルを消せるかと思ったけど、予想外に意識の方が消えたんだ」

「多分、標的より、魔法がかかってる意識の方に魔法の作用が引き寄せられたんだと思うよ?」

ジヴォーフが解説したところで、スッチーがチョコバナナを差し出せばジヴォーフはそれを一口。笑顔を見せ合うジヴォーフとスッチー。そんなパーティーをふと遠くから見ていたスレダはドルタスを見つければすかさず歩み寄る。

「進展はどうなんだ」

「さっき、あのテムネルの意識を消滅させる事に成功したよ」

「それで今後は?」

「あの状態なら、きっと普通の分離の魔法でテムネルを離れさせる事が出来ると思う」

「今回は浄化してから分離なのね」

「うん、それじゃあ、みんな!なるべく早く大勢の人を助けたいから、みんなで濃縮魂子を集めて欲しいんだ」

パーティーが片付けられると、それから沢山のエルフが濃縮魂子を作り始めた。濃縮魂子を入れる容器は何でもいい。あるエルフはポケットサイズの四角い容器。あるエルフは細長い容器。でもそんな状況を見兼ねてか、あるエルフが色を付けた光壁ボールを提案し、そして濃縮魂子ボールは順調に量産された。薄い黄色い濃縮魂子ボールは(ソーン)、薄い水色の濃縮魂子ボールは浄化(オーチス)

「ドルタス、やっぱりあなたは天才よ。濃縮魂子は今後の魔法の在り方を変えるわ」

そう言ったのはプライトリアの女性兵士。

「さっき試したけれど、(オージャ)の濃縮魂子を用いて(オージャ)の魔法を使えば、層術(ソイスクス)よりも遥かに強力だった。ハイクラスの精霊がパートナーに居ない者でもハイクラスの魔法を扱えるほどにね」

「それって、危ないわね」

アンシュカがそう言えばドルタスも神妙に頷く。

「科学とはそういうものよ。使い方で道具の価値は変わる。まぁ少なくとも、濃縮魂子を悪用する者はこのキャンプ場には居ないけどね」



第59話「目覚めし者」



(ソーン)!・・・・・浄化(オーチス)!」

ホープを纏う紫がかったテムネルの意識は消滅した。頷き合うドルタスとアンシュカ。そしてまたドルタスは紫がかったテムネルに向けて意識を集中させる。

分離(ラズデーレ)!」

ブクブクと蠢き出したテムネル。それは魔法に忠実に影響している証拠だった。でもテムネルが消えていく訳ではない。かけた魔法はあくまで引き離すものだから。

「んん・・・」

「ホープ!」

それからホープはゆっくりと目を開けた。紫がかったテムネルはまるで消えない水蒸気のように漂う。

「ホープ、分かるかい?」

「うん、私、あれ、ここは・・・」

「禁界のキャンプ場よ」

起き上がる前からホープは紫がかったテムネルを振り払う。フワッと漂っていくテムネル。

「これは・・・」

「ただのテムネルだよ。何も害はないよ」

「でもこれ、カルベスの」

「うん、でもこれに関しては、無力化したんだよ」

煙たがりながら起き上がるホープ。するとその眼差しは当然隣のベッドに向けられる。

「ヒーター」

「ルアからは、ヒーターがホープを庇ったけど、一緒に眠らされたって聞いてるわよ?じゃああたし、シャーク呼んでくるわね?お見舞いに来てるから」

アンシュカがテントから出ればそこにはシャークとミキーナとニュウニュウ、テルビオとシークフィンが居た。

「あら、みんなも来たのね」

「どう?」

シャークよりも前のめりで問いかけるミキーナ。

「大丈夫よ。ホープが起きたわ」

「やった!やったねシャーク」

「あぁ。すぐにルア達を呼んでくる」

「え、顔見ないの?」

「ルア達だって見たがってるだろ。早く知らせてやりたい」

ルア達が来た頃にはもうテントの天井の隙間から紫がかったテムネルがふわふわと洩れていた。それをヘルが何かと見上げている傍らで、ホープはルアやアルファ達と安堵を分かち合い、ヒーターはテリッテやクロム達と微笑み合う。

「独立自警団アルテミスのリーダーは」

そこに入ってきたのはニクオス。

「私、です」

「別の大陸に、カルベスのテムネルに毒された者が大勢居る。その者達の為にその魔法を使って欲しい」

「あ、はい。見つかったんですか?飛燕と翼人支援チーム」

ニクオスは知らないが、スレダとは顔見知り。情報共有も同意した。だからルアがそうスレダに問いかける。

「あぁ。だが戦った者は全て眠らされた」

「(そりゃ行方不明になる訳だ。でも誰が運んだの?)」

「俺だ。戦いの最中、戦えない者は向こうの世界からこちらの世界に手早く避難させた。だが俺が様子を見に行った時にはすでに戦った全員が眠らされていた」

「(そうだったんだ。でも良かったね。あのテムネルも消す方法が出来て)」

「じゃあ、すぐ行こう、濃縮魂子の準備も出来てる」

ドルタスがスレダと頷き合えば、そして彼らは転移した。ガグナの転移でスレダ、ニクオス、ラインメイ、それからドルタスとルアとヘルがテンベカの街エンタガの冥王院へ。歩きながら、ドルタスから借りた濃縮魂子ボールをクウカクの手でつまむヘル。

「(これが濃縮魂子ボールかぁ。これを使ったら、誰でも強い魔法が使えるの?)」

「うん。でも逆に気を付けて扱わないといけない」

「(そうだね。ねえスレダさん、どうするの?これから。集落あんなだし)」

「これから考える」

表情1つ変えないような声色でそう応えたスレダを背後にしながら、ニクオスは本堂の内陣で待っていたヒカリリアと小さく頷き合う。

「犬!」

ピクッとするヘル。それは子供の声で、見れば縁側のような場所で寛いでいた子供達が駆け寄ってきた。

「でかっ。何で?」

スレダが独立自警団アルテミスだと言えば、セージとユウロウは遊び相手が来たかのように興奮し出した。

「(もしかして、砂漠の子供達?)」

「そうだよ?集落行ったの?どうなってた?」

家の事を聞いただけのセージ。しかしヘルの眼差しはふとスレダへと向けられた。スレダもヘルを見たが、首を横に振る訳でもなくただ悲しい表情を伺わせただけ。

「(えっと)」

「話は後だ、眠らされた者達を治しに来た」

「え!治せるの!」

「あぁ」

「やったあ!」

子供が眠らされた人達を治しに来たと走り回れば、当然他の飛燕や先に避難してきていた集落の人達、別の場所で遊んでいたアルティア達、全員が集まってきた。

「君達は独立自警団アルテミスだな」

月の羽一族の長老がやってくれば挨拶が始まり、長老と知ればルアも物々しく挨拶を返す。臨時救護室にはもう人が密集してきて、そのむせ返るほどの期待の目は緊張せざるを得ない。

「みんなは魔法は出来るの?出来るなら手分けした方がいいけど」

ドルタスはスレダに問いかける。

「いや、精霊の魔法は出来ない」

「そっか、じゃあ僕達でやろう」

ドルタス、ジヴォーフ、ルア、ペルーニ、ヘルで手分けして、それから(ソーン)が1人ずつ施されて、全てのテムネルが眠れば続いて浄化(オーチス)が施される。アルティアは見つめていた。2回も魔法をかけても黒いモヤモヤはパッと消える訳じゃないのかと。でも全員に2回も魔法をかけて、むしろルア達が安堵したのを見ると不安の中で期待が高まる。

分離(ラズデーレ)!」

まだやるのか。もしかしたら手術みたいに、メスで切って腫瘍を切って止血してと、魔法にも沢山の工程があるのかも。アルティアがそんな風に思ったその時だった、黒いモヤモヤがみんなから浮き出し、みんなが目を覚まし始めたのは。

「パパ!」

ニーメルが駆け寄っていけば、目を覚ました父親はキョロキョロして言葉を失う。しかし敵は居らず目の前には家族が居て、ここが安全な場所だと何となく認識出来ればニーメルの父親はニーメルを抱き止めた。臨時救護室はそんな家族の再会で満たされた。ルアとヘルとペルーニは微笑み合い、ドルタスはジヴォーフと満足げに頷き合う。

「どうなった」

アルティアは父親に抱き着くほど幼くはないが、バルサリクに手が届く距離まで歩み寄っていた。しかしバルサリクの眼差しと声はスレダに向けられた。

「あのカルベスモドキに皆眠らされたんだ。ロードスターもな。レーヴァテインは全滅だそうだ」

ため息混じりに小さく頷いたバルサリクの表情はすでに戦いの顔だった。そうアルティアが思った矢先、反射的に起き上がった戦いの顔はすぐに安堵に染まった。

「アルティア」

「ん?」

「悪い。集落、守れなかった」

「うん」

アルティアの脳裏に甦った、ニクオスの切迫した表情。集落の全員が集まって、迅速に異世界に避難して、それからアルティアはバルサリクが普通に帰ってくる事を期待していた。でもそうはならなかった。

「どうだった」

砂漠から帰ってきたニクオスは長老の問いに首を横に振った。

「黒いモヤに覆われていて、皆気を失っている」

「生きておるのか!?」

「あぁ、呼吸はある。一先ず皆を寝かせる場所を作る」

私が初めて眠らされた飛燕の5人、ロードスターの10人、ディアズーを見たのは、臨時救護室に移動させられてからだった。大人達も動揺していて、ニーメルは母親に抱きついて泣き出した。

「どうなったんだよ」

震える声でユウロウがニクオスに問いかけるが、答えは返ってこない。

「オレ達も戦っていれば」

「いや、多勢に無勢だったろう」

「これは、そもそも魔法なのか?」

「分からない。だがカルベス一派の仕業には違いない」

「陽光の血剣術であれば何とかなるかも知れません」

ヒカリリアの言葉に、みんなの動揺が落ち着いたような気がした。避難する為だし、きっとすぐに帰るだろうから、ここが異世界だという事なんて気にする余裕はなかったけど、今日は帰れないって分かったら急に気になってきた。これからどうするか、誰に聞こうか迷っていたから、何となくニクオスと長老や飛燕の人達が別の部屋に行ったのが分かったから追いかけた。

「いつ集落に敵が来るかも分からないようじゃ、下手に戻れまい──」

長老の声がしたところで私は隠れて聞き耳を立てた。

「それで集落の被害はどうなった」

「・・・壊滅だ。家屋という家屋は全て。しかし分家の方々の生活はこの冥王院が保障する」

「仕方ない。一先ず世話になろう」

「管理下に残っている、スレダさん達にはどう伝えますか?」

「我々では異世界に行けない。ディアズーもあれではニクオスに任せる他ない」

「すでにロードスターが動いてるでしょう。それにガグナも居ます。少し時間を置いては」

「スレダ達も襲われるやも知れん。時間を置くにしても、明日には向かって貰わねば」

「分かった」

臨時救護室に戻って、ふと私はディアズーのそばに立った。すごい傷だらけだった。服もボロボロで、血もすごい。飛燕やロードスターの人達と違って、ディアズーだけは死んじゃうんじゃないかと思うくらい。それから大人達は子供達には大丈夫としか言わなかった。私は子供の中では1番年上だから、漠然と何とかしてあげないとって思った。でも美味しいご飯を食べたらもう子供達はみんな落ち着いてた。

「兄ちゃん、明日ここ探検しようよ」

「あぁ」

「動き回っていいのかな」

「だって、オレ達と同じ血の剣の種族なんだろ?街に出たって問題無いよな?」

「せめて皆を治療してからにしなさい」

冥王院の中なら動き回っていいって事になったから、翌朝になって遊んでたら、突然スレダさん達が来た。

そんな風に過ごしてた事をバルサリクに話していた傍らでは、ラインメイがグラバードの下に歩み寄った。

「初出動で全滅だなんて先が思いやられる」

「エンガオ少将が言いそうな事ですね。でもまぁ、生存確認しに来てくれた事には感謝しますよ」

「禁界の磁場を軽減させる話は現場で聞いたから、報告は不要です」

「ああ、そうですか。アルテミスとのデブリーフィングが済んだら帰投しますが、先に送りますか?」

「頼みます」

一方、ガグナが歩み寄ればディアズーは微笑んだ。とは言えディアズーは起き上がれず、その微笑みは力無いものだった。

「少し寝てれば治るだろ」

「うん」

「けどダークエルフなのにテムネルにやられるなんてな。どうにも出来なかったのか?」

「うん。なんか、テムネルのようで、テムネルじゃないような感じ」

「ふーん、そうか」

無事に全員が目を覚ました。その安堵があるからこそ、ニクオスはふと思い立ちドルタスに歩み寄る。

「この黒いモヤは何なんだ?」

「今この状態は無害なテムネルだよ。意識を持ったテムネルだったから普通の魔法じゃダメだったんだ」

「意識を持ったテムネル。それで、これは消えないのか?」

「んー。多分、その内自然と消えるのかな」

「ここは神聖な場所だ。こういったものは放っておく訳にはいかない」

「そっか。じゃあ、浄化(オーチス)

ドルタスが意識を向けた“一定範囲”のテムネルがプクプクと弾けて消えていくと、そんな魔法にセージがマジシャンの客のような声をあげる。

「すげー。もう1回やって!」

浄化(オーチス)

「消えたー!もう1回!」

「じゃあ今度は広く、浄化(オーチス)

「うおー。全部消えた。もう1回」

「え、もう無いよ?」

「無いと出来ないの?」

「うん」

「なんだ。・・・母さん、みんな治ったんだから遊び行っていいでしょ?」

「ここは砂漠とは違うから、気を付けてね」

「・・・兄ちゃーん」

「独立自警団の皆、この度は世話になった。皆を助けて貰い、ありがとう」

いつの時も、堅苦しいお礼というものにルアは適切なリアクションは取れない。戸惑いながら、助けられて良かったですと素朴な態度を返すだけ。でもそれがルアらしいと、ドルタスは内心で微笑む。

「お礼は改めて、然るべきものを用意する」

「あ、はい」

「グラバード」

スレダから簡単な事情を聞けば、それからバルサリクはグラバードを呼んだ。ラインメイはもう居ない。すでにキリッとした顔で腕を組んでいるバルサリクに、グラバードは不意を突かれたように緊張を抱く。

「ロードスター経由で、陽光から情報が欲しい。カルベスの居場所だ」

「全面戦争ですか。確かにアルテミスの支援があれば恐れるものは無いですが。しかしそれには及びません。カルベスの居場所は前にガグナに突き止めて貰ってるので」

「そうか。このまま砂漠に戻っても、元を断たなきゃ安心して暮らせないんでな、それに反撃しないと気が済まない」

「分かりました」

頭の中が少し混乱しただけで体は無傷なので、休んでいる暇はない。まるでそう言われた気がした。

「あちらの血剣の人達、アルテミス、それらの戦力を我々ロードスターなら束ねられる。本来ロードスターにも因縁があるので、この作戦は我々ロードスターが仕切ります」

「あぁ。任せる」

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