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逆襲のアルテミス  作者: 加藤貴敏
第3章「ロードスターの進撃」

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「救済への道筋」後編

霊気が入ってる箱を何だか神妙に見つめるドルタス。そういう感じになると声をかけづらいので、アンシュカはチョコバナナを一口。

「この霊気で1回テムネルボールを作る」

「大丈夫かしら。テムネル、無いけど」

「もしかしたら、この霊気はテムネルに干渉出来るようになってるかも知れない。テムネルの性質を記憶してるのかも」

「うーん。そうかも」

それからホープとヒーターが寝かせているテントにやって来たドルタス達。2人のちょうど間に箱の霊気を入れたボールを落とせば、それはテント内に広がった。相変わらず2人にまとわりついている紫がかったテムネル。箱の霊気を媒介にして、紫がかったテムネルに霊気干渉させられるのだとしたら、そうドルタスは魔法をかけた。

「おかしい」

口を開いたのはジヴォーフだった。振り返るドルタス、そしてアンシュカはチョコバナナを一口。

「箱の霊気、テムネルにくっついてない」

「え、どういう事?」

「テムネルが自分の意思で拒絶してるんだ」

「そんな、事が」

「それじゃあ、どうしたらいいのかしら」

また1から考えなくちゃいけない。そうドルタスは落胆した。

シエネイラ、野下の鉄人のアジト。魔法で作られた吹雪が機械を鈍らせ、視界を遮る。山賊達が身動きを躊躇っていると、そこに吹雪の中から飛び出していって骸鬼が狙い打ち。

「オレがここの頭だ──」

響いたのは館内アナウンスだった。

「話を聞いてやる」

ラングエイが吹雪を止めれば、自然と戦いも収まり、ラングエイの顔を伺った骸鬼もラングエイが首を横に振れば拳を下ろす。

「ただし、1人で上がってこい」

顔を見合わせるラングエイとノウセル。すぐにラングエイが頷けばノウセルも頷き、ラングエイ達は皆変身銃を腰に戻した。変身を解かないのは屈した訳ではないという主張。コツコツと鎧の足音が上がっていく。その先は2階の管理室。1歩入ればラングエイは足を止めた。何故ならそこに居る全員がそれぞれ様々な銃を構えていたから。すると1人の男が銃口で奥を差した。そこには階段があり、そこを上がれば野下の鉄人のトップであるジンテツの部屋がある。歩きだしたラングエイ。と思いきや“消えてみせた”。たった50メートルほど転移して、入口から階段の手前までやって来た、そしてそこからはゆっくり歩く。それも屈した訳ではないという主張。ガシャガシャと銃を構え直す者達など振り返ることすらせず、そしてラングエイはジンテツと対峙した。そこは広くて豪華な応接間のような空間。その奥にジンテツは座っていた。ジンテツの上には大きく書かれた格言が飾られている。コツコツと近付くラングエイをジンテツは冷えきった眼差しで見つめていた。

「派手に暴れてくれたなあ?三流の賊共」

「確かに賊ではないと言ったら、嘘になるだろうな。だが──」

変身銃を抜いたラングエイ。しかしジンテツはそんな銃口を鼻で笑った。

「手を出したのはそっちが先だ」

「あんたら、陽光のはぐれもんだろ?」

「何故それを。いや、調べる時間はあったか。流石の情報網だな」

「あんたらも大変だよなぁ。カルベスはな、幼い頃に両親を失くして、族を転々としてたんだ」

「は?・・・」

「だから異世界に行くのもむしろ楽しそうだった」

「おい、待て」

「あの坊主にとっては、そもそも血剣族なんて概念は大した問題じゃないんだろうよ」

「何なんだお前、まさか」

「ま、それはオレもそうだけどな」

「お前、血剣族か?」

「違う」

「は?」

「元だ。血剣なんてもんは心の奥底で錆びちまった。オレは魔法よりも機械いじりが好きだったんだ。だから機械を拾い漁り、それを直しては売って暮らしてた。そんである時に企業のエンジニアとして拾われた。そこでオレは気が付いたんだ。これなら、世界を支配出来るってな」

「世界を支配だと」

「あんたらだって、血剣で生きてる訳じゃない。文明の発展、技術革新、それらの中で生きてるよな?血剣なんざ何の金にもならん。吸血鬼だってそれは同じだ。血は違うが同じ人間だからな」

「何が言いたい」

「今お前が銃を向けてるのは、世界だ。野下の鉄人はな、表の世界にも通じてるし、血剣族とも取引がある」

ジンテツは真っ直ぐラングエイの顔を見ていた。銃口は無意識に下がっていた。

「オレに何かあれば、表の世界も裏の世界も、血剣族も、一体どれだけのもんが立ち上がるだろうな?」

ようやく息を飲んだラングエイ。下げた変身銃をどうしようか迷っていた。腰に戻そうか、変身を解くべきか。

「ここで暴れた事、目を瞑ってやろうか?」

「・・・取引か」

「あぁ」

「要求は」

「それ」

「・・・は」

「それだ、ギガスアーマー」

「こちらからも要求がある」

「おう」

「ギガスを作る為の金属。チタン、タングステン、アルミニウム。無人ギガスのフレームはその3つで出来ている」

「まぁいいだろう。だがこれで、あんたらはオレらの傘下だ」

「それは、オレが決める事じゃない」

「ふっ・・・はっはっはっは!」

「・・・何だ」

笑っているのに怖い。もうすでに、山賊の頭の雰囲気に呑まれている、それをラングエイが自覚すれば、ジンテツは緩い表情の中にまた殺し屋のような眼差しを光らせた。

「・・・小僧、自分の立場をわきまえろ──」

そう言うとジンテツはイヤホンマイクを見せつけるようにちょんちょんとした。

「あのデカブツは担保だ。目を瞑ってやるってな。今通信が入った。あのデカブツのハッキングが完了したってな」

「くっ・・・」

「欲しいもんはやるよ。今作ってるっつうあれの完成はオレも見たいからな。だが、下手な真似をすりゃ、いつでもデカブツは言うことを聞かなくなる」

変身銃を握る手が震えていた。この会話自体が罠だった。しかし殺しはせず、まんまと利用された。これは完全なる敗北。そうラングエイは、ようやく目の前の老人が只者ではない事を理解した。

「何でカルベスにこだわる」

ジンテツがそれを聞いたのは、ラングエイが背中を見せた時だった。

「カルベスはあんたらの事など見ちゃいねえ。道具としか思ってねえ」

「黙れ」

「カルベスが何を目指してるのかは知らねえが、敵に回るなら殺るしかねえってのが血剣族共の意見だ。それはオレも賛成だがな。だがオレは、壊れたもんを拾って生きてきた。だから拾ってやった」

「・・・・・どういう、意味だ。最初から、族長を狙ってたのか?あの施設が何か、最初から分かってたのか」

「小僧、肝に銘じろ。これはチャンスだ。ツレザネのようになりたくねえなら、身の振り方を考えろ」

テンベカ、日蝕の一族が暮らしてる街、エンタガ。日蝕の一族であるニクオスからテンベカという国の名前、エンタガという街の名前を聞いていたから、スレダとレンシウはそうガグナにオーダーしたのだった。転移してきたのはスレダとレンシウ、ガグナ、そしてラインメイ。転移してきて早々、ガグナは感知した。街の中にある数々のテムネルを。足を向かわせた先は冥王院。参拝に来た観光客がちらほら居る中で、ふとスレダは目を凝らした。遠くで、まるで自分の家の庭で遊んでいるような子供達に。

「ん、あいつら、おお、集落の子供達じゃないか?」

ガグナが冷静に問いかけた矢先にもスレダは小走りしていく。

「アルティア!」

「スレダさん。あれ?何で?」

「バルサリクは!」

すると途端に楽しそうだった子供達は静まり返り、アルティアは黙り込んだ。それから子供達に案内されたのは冥王院の中の、臨時救護室。途中に警備の人間と話し、ニクオスとヒカリリアと合流したが、スレダはそれよりもとにかく安否を確かめたかった。そしてスレダはスレムと対面した。スレムは眠っているように動かない。結局、あの時、砂漠での戦闘に参加していた飛燕と翼人支援チームは全滅したのだと、スレダは理解した。ここに来る道中、ニクオスは自分が来た時には手遅れだったと言っていたのをふと思い出した。

「私達の魔法ではどうする事も出来ません」

ようやくニクオスとヒカリリアに振り返ったところでヒカリリアが申し訳なさそうに口を開く。

「まるで分厚い壁にでも覆われているように魔法が届かないのです。陽光の人間が作り出したものなので私達の魔法であればと思いましたが、これはダークエルフの霊気そのもののようなもの。更にはその霊力は強く、数人の魔力を合わせても歯が立たないのです」

「あいつらも今このテムネルを消す為に色々やってるだろうけど」

ガグナがそう言えばニクオスとヒカリリアが顔を向ける。

「それは誰の事だ」

「禁界でキャンプしてる奴らだよ。独立自警団の。あいつらは普通のテムネルを消せるように新しい魔法を作った。だからこのテムネルも消せるように出来んじゃないかな」

「独立自警団アルテミス。スレダさん、アルテミスの中にあなた方のもう1つの同胞が居ると聞いたが」

「あぁ、そうだ。だがアルテミスとは何も交流はない」

「しかしこの状況だ。頼らざるを得ないのではないのか?」

「そうだな」

禁界のキャンプ場。ホープに纏わりついている紫がかったテムネルを新しく採取して、それからドルタスは眠らせる魔法「(ソーン)」の霊気を別の箱に詰め込み始めた。三層での(ソーン)を何回かやって、もうその箱の中には30回分の(ソーン)が入っている状態。続いてドルタスはその箱から魂子を抜き取る。それは眠るという概念が濃縮されたもの。それをまた別の箱に保管して、今度は「分離(ラズデーレ)」でも同じ工程を行う。そうしてそれぞれ(ソーン)分離(ラズデーレ)の濃縮魂子が入った2つの箱を並べたその時だった、ジヴォーフがテントに入ってきたのは。

「お客さんだよ」

「え?」

ドルタスの下にやって来たのはガグナとスレダ、ニクオスとラインメイだった。各々の自己紹介、そしてテンベカでの状況を聞けば、ドルタスは代わりに紫がかったテムネルが入った箱と濃縮魂子が入った2つの箱をガグナ達に見せた。

「これから新しい実験を始めるんだ。でもこれでどうなるかは分からないけどね。普通のテムネルとこれの違いは、ただの霊気か意識か。霊気には霊気で対抗出来るけど、意識には魔法で対抗しなくちゃいけない。だから先ずはこれを眠らせる」

説明しながら紫がかったテムネルの箱を開けてそれから、ドルタスは(ソーン)の箱を開けた。濃縮魂子に手をかざせば魂子は浮き上がり、そして紫がかったテムネルに狙いを定める。

「普通の魔法は空気中に漂う魂子が魔法を具現化するけど、それだと魂子の消費量は多くない。だからこそ“前もって質を高めながら魂子を集める事で、より強力な魔法を出せるようにした”んだ。(ソーン)!」

濃縮魂子が弾け、微かな光となって消えていく。それは酸素が消えて火と変わるよう。でも目では見えないからそこにはただ静寂が流れた。紫がかったテムネルを覗き込むドルタス。すると直後、紫がかったテムネルはそのキラキラとしているモヤモヤの速さ、形を変化させた。

「これは・・・やった」

「うん、何か変わったっぽい」

ジヴォーフがそう言うのなら確実だと、ドルタスは思わず笑みを溢した。ポカンとしているガグナ達。でもその嬉しさと安堵が混ざった笑みは良い結果が出たんだと、あえてガグナ達は見守る中、続けてドルタスは分離(ラズデーレ)の箱を開け、同じように紫がかったテムネルに魔法をかけた。

「・・・何か変わった?」

「んー、眠ってる意識はそのままかなぁ」

「分離だけ効かないのか。状況と魔法が合わなかったのかな。あ、そうだ」

「浄化の方なら何か変わるかもって?」

「うん。でもただの浄化じゃなくて、このテムネルの質を変えられるかも」

「質を変える・・・テムネルを浄化したら、それはつまり魂子の状態に戻して普通の霊気に染めるって事だよね。このテムネルを浄化したら、意識は消えないけど、このテムネル自体が普通の霊気を干渉するようになる、って感じかな」

「そう、理論的には出来ると思う」

先ずは濃縮魂子を作るからと、一旦ジヴォーフはガグナ達をテントの外に連れ出した。

「あの状態が続けばどうなるんだ?」

問いかけたのはスレダ。その眼差しの先はジヴォーフ。

「それは分からないよ。でも本当にただ眠ってるだけだからそこまで負担は大きくないと思う」

シエネイラ、カルベスが管理する軍事施設。骸鬼と血鬼、ラングエイ達は帰還した。骸鬼はメンテナンスの為にドックに入り、血鬼は特に何も無く、そして報告する為にカルベスの下にやって来たラングエイ。

「山賊から金属を供給させる手筈は整いました」

「そうか」

骸鬼の事を言おうか一瞬戸惑った。するとその時だった。

「骸鬼の事は問題無い」

「え」

「色々頭をいじくられたようだが、ただのAIじゃない。プログラムごときにテムネルを制圧する事は出来ない」

「それなら安心ですが。それでもあの作成中のギガスが出来るまでは下手な事なしない方が良いでしょう」

「分かっている」

やがて大きなトレーラーが軍事施設にやって来た。その日の内どころか、“話が付いた直後の手付金のように”金属が届けられた。その仕事の速さは裏の世界の者だろうが感心せざるを得ない。必要な分の5分の1の金属が運ばれると、代わりにギガスアーマーの設計図のコピーを受け取りそそくさとトレーラーは去っていった。しかしこれは山賊の縄張りだからこそ為せる事で、それは恐らく“親切という名の圧力”なのかも知れない。この関わり自体がとても危険な匂いがする。それほど山賊の親分の存在感が強いのだと、ラングエイはふと親分の顔を脳裏に過らせた。

禁界のキャンプ場。ラインメイは山の道に立っていた。自分はエンガオのような“侵略派”ではない。自分が最初からシェルドフの指揮官だったら、山崩しではなく雷雲発生装置の使用で事を進めていただろう。そんな時にプライトリアの兵士とエルフのグループがラインメイを通り過ぎていく。

「見ない顔だね。プライトリアの人?」

ラインメイに話しかけてきたのはふらっと歩み寄ってきた女性エルフだった。

「いえ、私はロードスターの人間です」

「ロードスターって、翼人を支援する人達の?」

「そのチームは確かにロードスター軍のチームですが、私は翼人支援チームには在籍してません。彼らの間接的な上司です」

「ふーん。山を崩したのも、翼人を支援するのもロードスターって大変だね」

「ロードスターは3つの国の連合名ですので、内部対立は絶えません」

「そうなんだ」

「あの方達が持っていった物はなんですか?」

「知らないの?大型の設置型トゥマーレだよ。禁界の磁場を弱めるの」

「そんな事が出来るなんて」

翼人支援チームが出来て間もなく、あの砂漠での戦闘があったから、報告出来なかったのか。ラインメイがそう理解した一方、ドルタスがテントから出てきた。静かで和やかな大きなキャンプ場、周りにジヴォーフの姿はない。

「ジヴォーフ」

「ん?準備出来た?」

どこに居ても呼べば心で聞こえるのでパッと来たジヴォーフ。それからドルタスは眠っている紫がかったテムネルに、濃縮魂子を使った浄化の魔法をかけた。

「どうかな」

「あれ?あ・・・・・これは」

「変わった?」

「良いね。意識が消滅したよ。テムネルは消えてないけど、意識は消えた。つまりこれはもう、ただのテムネルだね」

「やった」

読んで頂きありがとうございました。

ようやくドルタスがカルベスのテムネルに対抗する術を見つけ、これから反撃の予感ですね。

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