1日目 一本杉の下で
昼下がりの陽射しを避けるように、夏生は丘の上の一本杉の根元に腰を下ろした。
何気なく視線を落とすと、木の根の脇にある拳ほどの石が目に入った。彼は特に理由もなくその石を拾い上げ、ぽいと遠くへ投げた。
その下で、土を押し上げようともがく小さな命があることに、夏生は気づかない。
──
暗い。
土の重みと湿気に包まれた世界。長い間そこにいたが、時は来た。幼虫は硬い前足で土を掘り上げ、出口を探す。
だが、その先には動かない壁が立ちふさがっていた。押しても、引いても、びくともしない。出口はすぐそこにあるのに──。
その時、突然、光が差し込んだ。頭上の重みがふっと消え、土の匂いと共に新しい風が流れ込む。
──誰かが、この壁を退けてくれた。
幼虫は、そこにいる大きな影を見上げた。太陽を背負った若者が、無造作に石を投げ放つ姿が見える。
その仕草は何気ないものだが、幼虫には救いの手のように思えた。
そしてゆっくりと、幼虫は地上へ這い出した。木肌は温かく、ごつごつして、確かな道を示してくれる。
ゆっくりと地上へ這い出した幼虫は、木肌に手をかけて登り始める。
夏生は木の下で目を細め、やがて居眠りに落ちた。
蝉は静かに羽化を始め、殻を脱ぎ捨てる。透き通る羽を広げ、朝の光を浴びながら、ふわりと空へ舞い上がる。
「ありがとう」
小さな声が、風に溶けて消えた。




