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プロローグ
夏の疎開先で出会った一人の少女。
でも本当にそこにいたのか、それとも幻だったのか。
夏の蝉時雨とともに過ぎ去った、少年の初恋の物語です。
「じいちゃん、なんか怖い話して!」
居間に集まった孫たちが、わいわいとせがむ。
縁側からは夏の夜の虫の声が流れ込んできて、古い柱時計の針の音が静かに部屋を満たしていた。
夏生は湯呑を置き、目尻の皺をほころばせる。
「怖い話か……いやぁ、怖いかどうかはわからんが、ちょっと不思議な話ならあるぞ」
孫たちが顔を見合わせ、期待に満ちた瞳を向ける。
「わしがまだ若い頃の話だ。この家にきたばかりの、暑い暑い夏の日のことじゃった──」




