2日目 青い浴衣の少女
翌日も夏生は、丘の上の一本杉の下に座っていた。風に揺れる葉の音と、遠くで鳴く蝉の声が、昨日と同じように耳に届く。
「早く戦争終わらんかな……」
夏生は小さくつぶやいた。疎開でこの村にやってきて、もう数日が過ぎていたが、心はまだ落ち着かない。
すると、木漏れ日の向こうから声がした。
「こんにちは!」
振り向くと、青い浴衣を着た少女が立っている。夏生と同じくらいの年齢に見え、手には桃を二つ抱えている。
「食べる?」
少女は微笑みながら差し出す。
夏生は少し驚きつつも、手を伸ばして受け取った。
「も、もらう……ありがとう」
桃はずっしりと重く、甘い香りが指先に伝わる。
夏生は一口かじって、夏の光と桃の甘さを同時に味わった。少女はその様子を見て、にっこりと笑う。
「この村の桃、甘いんだよ」
「そうか……うまいな」
夏生は桃をかじりながら、少女の笑顔を胸に刻む。
風に揺れる木々の葉や、蝉の声に気を取られ、ほんの一瞬、少女から目を離した。
──その間に、青い浴衣の少女はすっと消えてしまった。
夏生は桃を口に含んだまま、目をこすって少女のいた場所を見渡した。
──あれ?
さっきまでそこにいた青い浴衣の少女は、もうどこにもいない。ただ、木漏れ日の影と、甘い桃の香りだけが残っている。
夏生は小さく首をかしげ、眉をひそめながらも、胸の奥に、なんとも言えない不思議な気持ちが湧き上がるのを感じた。




