失われた宝石
実話を元にして書きました。
1
あなたはどこへと行ったのか
忘却された我が宝石よ
奪い去られた残骸よ
あなたはどこへと行ったのか
私には金銭への愛は無い
それゆえに
私のもとを去ったのか
それとも、誰かに
宝石を奪い取られたのか
必要な時には手元になく
不要な時には雲隠れ
零れ出るは深い溜め息
幾度となく探しても
宝石の姿は映らない
記憶に過ぎる姿は
鮮明に思い描けるのに
目の前に満ちる
深い白霧に覆われて
宝石の姿は見えてこない
宝石よ
あなたはどこへと
行ったのか
私が探す場所が悪いのか
私の場所から離れて
別の場所で輝いているのか
宝石よ、あなたの喪失という隠れに
私は嘆いてばかりでは
いられない
私はあなたを見つけてやろう
あなたの姿を
この目に映して
あなたという宝石を
掴んでみせよう
そして、誰にも奪い去られることのないように
大事な不砕なるガラスの金庫へと
その姿を納めよう
2
失われた宝石があった場所は
白霧の中ではなくて
不砕なるガラスの金庫の
その最奥
金庫番からの伝達で
私はそのことを知り得た
私が白霧の中で
宝石を探していた時は
無駄だったのか
いや、前向きに捉えるのならば
荒廃していた鉱山を
微力だが整えられたと思えば良い
心に病みを根付かせるのではなく
心に病みを取り除いてゆけばいい
それだけのことだ
3
私は決めた、決めたのだ
もう二度と
白霧の中に置かれていた
あなたという宝石が
奪い去られることのないように
私はあなたのために
思慮を巡らせた
あなたという宝石の富へと至る鍵
あなたの片割れであるそれを金庫の最奥に
宝石の隣に
連れ添って眠る
時間凍結された夫婦のように
置いておく
そして、金庫の扉を閉めるのだ
そうすれば、あなたという宝石狙いの盗人は
鍵が無いために
ただ、嘆くしかない
静かにそっと眠りゆくあなたに
「お休みなさい」と言うように
我ながら良い案だ
宝石喪失の恐怖に
叱責の怒声に
良心の後悔と苛めに
私は逃避することが
できるのだから
やらない手は
打たない手は
一切無い
白霧にあると思っていた
あなたという宝石は
もう常しえには手に入らない
私は盗人たちを嘲笑おう
奪おうとしていた者たちを
そのために私は
白霧満ちる地面へと
この言葉を書き記した
「残念だったねぇ」と
[終]
最後の台詞は、サンホラの「エルの天秤」の影響を受けまくっています。
浸るより抜け出したほうが良いですかね?




