↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/4

1日目【鶴岡八幡宮】

◇◇◇◇

そのまま紬は東京駅へと向かった。

普段の東京駅とは姿が真逆で、駅全体が静まり返っている。


「朝1番はやっぱり、すがすがしいわね~」


そんなことを言いながら、ホームへと上がっていく。


心を入れ替えようと、空気を胸いっぱいに吸い込んだ。


そして、深く息を吐く。


始発の横須賀線が遠くから近づいてくると、一気に周囲が騒がしくなる。

放送の音、周囲の話声……


紬が乗った車両はほとんど無人で、そっと窓際の席に腰を下ろす。

列車がゆっくりと動き出し、東京の町、ビル群、スカイツリーが次第に遠ざかる。

そして、空が少しずつ色を変える。

携帯電話は電源を落とし、ただ静かに景色を見つめる。

◇◇◇◇


「やってきましたぁ!鎌倉っ!」


鎌倉駅に降り立つと、潮の匂いがした。


参道へ向かうと、人はまばらでまだシャッターも開いていない。


紬は一人で参道をのんびりと進む。


まだ多くの店ではシャッターも開いていないが、紬の目には1つの店が目に留まった。


古い日本家屋を改築したような、古民家風の食事処だった。


そこに入ると、70代くらいの老夫婦が店番をしている。


「ご注文はどれにするの?」


席に着くなり、丁寧そうな高齢の女性が紙とペンを持って現れた。


「じゃあ、鯵の焼き魚定食でっ!」


注文したのはお店のおすすめの一番上にあったものだ。


「はいよ。鯵定一つ~!」

「ん」


そのまま、女性はお冷とおしぼりと箸を持ってきてくれた。


しばらくして、奥から高齢男性がお盆に乗せて持ってくる。


「わぁっ!」


紬は思わず口元を抑える。


出来立ての味噌汁の湯気が宙に立ち上る。


紬はその香ばしい匂いにつられたまま、箸で鯵に触れる。


「っ……!!」


箸でほぐした鯵の身はふっくらとしていて、箸を当てるたびに弾力で跳ね返ってくる。


口の中に入れた瞬間、磯の味が広がる。


(こんなにも美味しいものを、どうして今まで食べなかったのだろう)


紬は、あまりのおいしさに箸が止まらない。


その横で老夫婦は嬉しそうに微笑んでいる。

店を出る頃には、参道に少しずつ人が増え始めていた。


紬はスーツケースの取っ手を握り直し、鶴岡八幡宮へと歩き出した。


◇◇◇◇


紬は参道をきょろきょろ見渡しながら歩く。


そして、ふと立ち寄った骨董店で古い茶碗を手に取った。


「わぁ……伊賀焼に信楽焼、美濃焼っ!なんて素敵なの...特にこの美濃焼は私の家の食器と合いそうだなぁ~」


そう呟きながら茶碗を棚に戻す。


(今割れ物を買って、割れたら大変だものっ!)


紬はそう思った。


「その茶碗気に入りましたか?」


会計のところにいた一人の女の人が近づいて来る。


「はい!ですが、まだ旅の途中なもので……」


紬は正直に答える。


「配送も承っておりますが、いかがでしょうか?」


女の人の提案に紬の心に花が咲く。


「お願いします!」


そのまま、勢いに任せて買ってしまった。


◇◇◇◇


長い参道を歩くと、鶴岡八幡宮の大きな門が見えてくる。


神楽殿の前を通過する


階段を上るたびに、息が切れる。

だが、紬の心のうちはどこかすがすがしいような感じだ。


境内の空気はどこか不思議で神聖な感じがしてくる。


やっとの思いで着いた本殿に手を合わせる。



紬は心の中でそっと願った。


「自由でありたい」と。


その願いは、朝の光に溶けていった。

◇◇◇◇


再び、電車に揺られて小田原駅に着く頃には、すっかり太陽が昇っていた。

新幹線の改札を抜ける。


そして、そのまま次の電車のホームへと向かおうとしている時、駅弁売り場の前で足が止まる。


色とりどりの弁当が並んでいるが、紬が選んだのは「小田原名物・鯛めし弁当」

電車内で机を出し包みを開く。


すると、ふわりと鯛の香りが紬の鼻へと運ばれる。


白身はしっとりとしていて、噛むとほのかな甘みが舌に広がっている。

また、柚子がとってもいいアクセントになっていて美味しい。


窓の外では、街が良く見えないような速度で駆け抜ける。


紬は鯛めしを止まらない箸で口に運びながら、ふと昨夜の志木の声を思い出す。


【え……ちょと___?】


あの時志木は何を言おうとしたのだろうか。


紬の胸には罪悪感という名の物が刺さる。


「途中で切ってしまったから、詫びも込めてお土産買おう……職場にも変わってもらってるだろうな。仕事……」


◇◇◇◇


京都に着く頃には太陽が赤く染まっている。


紬は宿に荷物を置くと、貴重品だけ持って夕食探しに出かける。


直前で宿を取ったせいで夕食が付けられなかったのだ。

そのかわり、直前割ですごくお得。


近隣で有名だという店舗に並ぶ。


30分ほどで入店がかなった。

周囲の人の話し声から普段はもっと並ぶということがわかって、紬は内心驚く。


紬が、注文したのはこの店で定番の湯豆腐定食。


鍋の中で白い豆腐が揺れ、レンゲでそっとすくう。


口に含むと、滑らかで、とろける。

大豆の濃厚な甘みが口の中いっぱいに広がる。

そして、胡麻だれの風味もとってもマッチングしている。


「かまなくてもいい……飲み込めるんじゃないかしら?」


そんなことを思いながら、あっという間に食べつくす。


食べ終わり、外に出ると足元を街灯が照らしていた。


◇◇◇◇


紬は、携帯電話を取り出し明日の予定を確認する。


木の温かみを感じながら布団に入る。

そして、静かに目を閉じた。


読んでいただき、誠にありがとうございます。


本作を読み「本作が面白い!」「続きが気になる!」と感じていただけましたらぜひ【ブックマーク】や【評価】で応援してくださると幸いです。


また、誤字脱字等ありなしたら誤字報告をポチッとお願いします!


次は、今日中に投稿します!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。