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京都到着と基地の血約



悪夢の残滓のような風景だった。丸二日間、俺たちはただひたすら距離を貪り続けた。光を忘れたかのような濃密な森と, 永遠を約束するような暗いトンネル。


アクセルは、自分に兵士の制服がどれほど似合っているかという阿呆な自問自答と、列車の軋む不快な音は「前衛音楽」なのだとサマンサを説得する試みを交互に繰り返して時間を潰していた。サマンサは何も言わず、俺も口を閉ざした。時として、沈黙だけが崩壊を食い止める唯一の手段になる。


三日目の夜明け、レールの刻むリズムが変わった。重く、硬く、工業的な響き。霧の中から姿を現したのは、歴史書に記された雅な都などではなく、石と鉄の怪物だった。巨大な煙突が黒煙を吐き出し、ありえない形の塔が虚空に向かって指を指すようにそびえ立っている。


俺は吐き気と高揚が混ざり合った気分でその光景を眺めた。スチームパンクと悪夢のような工業地帯が、禁断の恋に落ちて産み落とした落とし子のようだ。灰色で、広大で、魂が欠落している。ここには安らぎの日曜日など存在しないと、街全体が叫んでいるようだった。鋼鉄の街、京都へようこそ。


鼓膜を突き破らんばかりの軋み音を立てて、列車が止まった。

「準備はいい?」

サマンサが問いかける。彼女の指は、恐怖からくる力強さで俺たちの手を握りしめていた。


いいや、全く。錆と血の臭いが立ち込めるこんな場所で死ぬのは御免だと毒付くこともできたが、扉は既に開いていた。空気は、俺たちが一歩踏み出す前にその味を確かめようとするかのように、重く湿った鉄の香りで俺たちを迎えた。


群衆の中を歩き、慣れた手つきで箱を積み上げている男を見つけた。

「すみません……呪術の訓練センターがどこにあるか知っていますか?」

男は手を止め、絶滅危惧種の標本でも見るような目で俺たちを舐めるように見た。

「拠点へ? お前たちがか?」


その視線は、直接殴られるよりも鋭く刺さった。分かっている。俺たちがパッケージから出したばかりの濡れたうどんのように見えることくらい。だが、この青白い肌の下には、何かしらのポテンシャルが眠っているはずだ。そう信じなければ、正気を保てない。


「本気か?」男は乾いた笑い声を漏らした。

「何がおかしいんだよ」

アクセルが拳を握り、一歩前に出る。

「俺たちが馬鹿に見えるのか、それともこの街の煙で脳みそが溶けちまったのか?」


アクセルを殴り飛ばしたくなった。現地の人間を挑発するのは、非常口の場所を確認してからにするべきだ。彼のヘイトコントロールの欠如は、いずれ俺たちを殺すことになるだろう。


男はアクセルに冷徹な視線を向けた。

「馬鹿に見えるんじゃない、坊主。生気があるように見えるんだ。あそこじゃ、そんなものは真っ先に消えちまう。あそこは戦い方を学ぶ場所じゃない……『耐え抜くこと』を学ぶ場所だ」


耐え抜くことを学ぶ。文句を言う気力が失せるまで殴られ続ける方法を学ぶ、という文学的な言い回しだろうか。素晴らしい。毎日俺の存在を破壊してくれる契約書はどこにある?


男は工場の裏にあるサービスロードを指し示した。そして、気づかぬうちに首を掴んでくる「静かなアノマリー(異形)」に気をつけろと警告した。今週のホラービンゴを完成させるのに足りなかった最後のピースだ。反対方向に逃げ出したい気持ちが二〇〇パーセント上昇した。


工業地帯に足を踏み入れた途端、静寂が引き裂かれた。金属質の茂みが鳴り、生物学的な論理を無視した唸り声が響く。虚ろな瞳のアノマリーが俺たちを捕捉した。それは恐ろしい速度で突っ込んできた。


歓迎委員会には休暇がないらしい。俺はサマンサの手首を掴んで走り出した。アクセルは自分の足に躓かないよう必死に走りながら、その怪物の容姿について独創的な悪態を吐き散らしていた。カリフラワーのような顔がどうだとか、夕食の誘いは断るだとか。


その時、世界が止まった。


一筋の黒い閃光が空を切り裂いた。速すぎる。鋭い一閃が空気と、そしてアノマリーを両断した。怪物は二つの肉塊となって崩れ落ちた。


俺たちの前に立っていたのは、凍りつくような眼差しをした一人の少年だった。その立ち姿は完璧で、自分はこの世界には美形すぎると誇示しているかのようで、いっそ侮辱的ですらあった。高ランクキャラクターの具現化。その退屈そうな顔は、先ほどの怪物よりも数千倍も威圧的だった。


子供のように迷子になって歩いている俺たちを叱り飛ばすと、彼は案内を申し出た。拠点の正面玄関に着くと、彼は足を止めた。

「俺の役目はここまでだ。……せいぜい、生き残れ」


生き残れ? それだけか? 「最初の五分で死ぬなよ」と言われた方がまだ誠実だ。まあいい。あばよ、天才さん。


アクセルは青ざめていた。

「あいつ……手元すら見えなかったぜ。オリバー、もしここを仕切ってる奴らがあんな化け物揃いなら、俺たちは実質、バックパックを背負ったアリ同然だぞ」


俺たちは拠点の内部へと、決定的な一歩を踏み出した。そこは規律と磨き上げられた金属の聖域だった。受付には、数年前に心が死んだような顔をした男が待っていた。

「術師の訓練に来たんだ」

アクセルが強がりの仮面を取り戻そうと、ぶっきらぼうに言った。


男は数枚の書類を差し出してきた。それを読んだサマンサの顔から血の気が引いた。重傷、死亡、そして脱退不可の条項。だが俺はさらに素晴らしい「お宝」を見つけた。「市民権の完全放棄」。


要するに、人間をやめるならここにサインしろ、死んだら肥料にしてやるぞ、ということだ。史上最高に、そして残酷なほど正直な契約書だ。俺は今、一足のブーツと引き換えに魂を売り飛ばした。


俺たちは署名した。もう後戻りはできない。灰色の制服を着た女が、俺たちを更衣室へと連れて行った。五分以内に済ませろ、と彼女は冷酷に言い放った。


タクティカルベストは、俺の生きる気力よりも重かった。アクセルはブーツを検分していた。

「マジかよ? これじゃまるでお祭りのロボットみたいな歩き方になっちまうぜ。まあ、死ぬときも足首だけはしっかり保護されてるってわけか」


俺は履き古したスニーカーを脱いだ。それを片付けるとき、古い自分を埋葬しているような気分になった。新しいブーツは硬い革の枷のようだった。鏡に映る俺はもう学生ではなく、オープニングクレジットが流れる前に死ぬ戦争映画のエキストラだった。


愛想の悪い少年が、この装備は守るためではなく、体力を削るためのものだと教えてくれた。わざと設定された重量デバフだ。

「聞いたろ。これは鎧じゃない。テストだ」

俺は仲間に言った。アクセルは苦しそうに立ち上がり、低い声で毒づいた。クソ野郎どもめ、戦う前に存在することに疲れさせようってわけか。


俺たちは他の志願者でいっぱいの広間へ連れて行かれた。全員が同じベストを着て、全員が屠殺場を待つ家畜のような顔をしていた。オスカーという少年が近づいてきて、アノマリーに家族を殺された話をしてくれた。


すると、堰を切ったように他の連中も話し始めた。母親を殺された、兄が行方不明だ、すべてを失った。

なんてパーティーだ。どうやらこの部屋にいるのはヒーローではなく、壊れた物語と戦争孤児たちばかりらしい。俺たちには共通の悲劇的な過去がある。チームじゃない、噛みつき返すことを決めた被害者の会だ。


サマンサは泣き出しそうだった。アクセルは無関心を装って壁に寄りかかり、拳を握りしめていた。俺は巨大な装甲門をじっと見つめた。俺たちは皆、深淵に宣戦布告するためにここにいる。ただ、あの忌々しい門が開く前に、深淵に疲れ果てさせられないことを願うばかりだ。


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