梟の監視下での誓い
目を開けるのが苦痛だった。視界に入ったのは、吐き気がするほど清潔な白い天井。消毒液の臭いが鼻を突き、自分がまだログアウトできていないことを教えてくれる。運が悪い。どうせなら、あのままシステム終了していれば、このひどい二日酔いのような激痛を味わわずに済んだのに。
「やあ、やっとお目覚めか。眠り姫さんよ」
アクセルがベッド脇で、信じられないほど手際悪くリンゴを剥いていた。その顔は、まるで自分の臓器でも切り出しているかのような悲壮感に満ちている。
「アクセル……お前の顔を見てると酔う」
喉が砂漠のようにガラガラだ。アクセルは「その顔のおかげで命拾いしたんだぜ」と憎まれ口を叩き、俺が死にかけていた様子を「全然ロマンチックじゃなかった」と一蹴した。
笑おうとしたが、胸に鋭い痛みが走った。引き裂かれた両親の残像が脳裏をよぎる。だが、俺の防衛システムはそれを「内なるジョーク」として処理することにした。
(まあ、いいさ。これで数学のテストも、クソ高い学費の心配もしなくて済む。孤児っていうのは、究極の断捨離だからな)
警察は「腹を空かせた熊」の仕業だと言っているらしい。
「狼は鳥に化けたりしないぞ、アクセル」
俺がそう言うと、アクセルのふざけた空気が消えた。彼は剥きかけのリンゴを置き、真面目な顔で俺を諭し始めた。誰も信じてくれないこと。もし「フクロウの怪物」なんて言い続けたら精神科送りになり、あそこの便所よりも不味い、悪夢に出るレベルの「緑色のピューレ」を食わされる羽目になること。
「この請求書を払うくらいなら、精神病院の方がマシだな」
俺が呟くと、アクセルは「臓器を売っても麻酔代を稼ぐのに脾臓まで売らなきゃならなくなる」と、俺の破産を祝福してくれた。正式に安っぽい悲劇の主人公になったわけだ。
ドアが開き、サマンサが目を真っ赤にして駆け込んできた。その後ろから白衣を着た男が入り、金属音を立ててドアを閉めた。医者は氷のように冷たい声で、その話を二度とするなと警告した。この町にとって犯人は熊であり、怪物なんて噂は「パニック」という名のバグを引き起こすだけだと。
(おいおい。この医者、絶妙なタイミングで警告を吐き捨てる謎のサブキャラか? 設定がベタすぎて、逆に安心するぜ)
医者は俺を直視し、「あれ」が監視しているなら仕事を終わらせにくるだろうと宣った。この町を立ち去れ、ここにいれば全員が危険だと。端的で、残酷で、そして最高に「脚本通り」のセリフだった。
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数日後、葬儀の日。空気は湿った土の匂いがした。
二つの新しい墓の前に立ち尽くす。住人たちが台本通りの慰めを置いていくが、俺の胸に空いた穴を埋める役には立たない。
誰もいなくなった墓地。枯れた大木の枝で、一羽のフクロウが俺たちを監視していた。黄色い瞳が、まるで「次のチャプター」を待っているかのようだ。
「あなたが行くなら……私も行くわ」
サマンサが言った。狙われているのは俺だ、お前らには普通の生活があるだろ、と俺が「主人公らしい」拒絶をしてみせると、アクセルが苦笑した。
「ドラマチックすぎるんだよ、オリバー。一人で行かせるわけないだろ。俺にはバイクがある。それに、実家には何年も前からうんざりしてたんだ。あそこを脱け出す絶好の口実だよ」
サマンサも「家族はあなたたちだけ」と微笑む。
灰色の空を見上げた。フクロウが首を傾げ、音もなく羽を広げて雲の中へと消えていった。
俺の日常は死んだ。だが、これでせいぜい「自由」になれたわけだ。このウサギの穴がどこまで深いのか、バグの正体を見届けてやろうじゃないか。




