魔導船ヤ・マト
駆け足で桟橋に着くと、物資の積み込み、積み下ろし作業は終わっており閑散としていた。しかし逆に甲板上は乗組員が慌ただしく動き回っている。自分達が乗船すれば出航するのかもしれない。
「乗船券を手に入れたようだな」
兵士に乗船券を差し出した。
「ダイゼロシダンか。ギルドカードを見せてくれ」
「了解!」
確認のためギルドカードを提示した。少し遅れて到着した肩で息をするポーラと、準備運動にもならないと言いたげなイフリートもギルドカードを提示する。
「……間違いないみたいだな。良し。乗船してくれ」
挙手の敬礼をして、桟橋に架けられている舷梯に足を掛けた。
「ゼンジ待って下さい!まだ何の準備もしていません。せめて回復薬だけでも購入しておきましょう!」
不安げな表情のポーラを一瞥するが体は言うことを聞かない。
「ポーラすまない!勝手に体が動いてしまう!上官の命令に服従する義務が発動してるんだ!」
受付嬢から『魔導船ヤ・マトにご乗船ください』と言われたから、おそらく乗船するまで自由に動く事はできない。
「戯け!!アハトゥーム大陸に行くのじゃ!万全の準備が必要なのじゃ!根性で回れ右なのじゃ!!」
ポーラの喋り方が変わった。
「だがすまない!止まることすら出来ないよ!」
行進するように、舷梯をリズミカルに登り続ける。
「ならば妾が戻ってアイテムを購入してくるのじゃ!」
振り向いて走り出そうとしたポーラに、兵士が立ちはだかった。
「どこへ行く?乗船券は受け取ったんだ。お前達はもう戻れないぞ」
「準備をするだけなのじゃ!直ぐに戻ってくるのじゃ!」
「規則だ。それに他のハンター達も間も無く乗船する。そうなれば、お前だけを待ってられないぞ」
そこに追い打ちをかけるようにボルーテンが走り込んで来た。
「待ちやがれ!そこを動くな!」
「面倒なのが来た!ポーラ諦めよう!」
「むぅ……どうなっても知らんのじゃ!」
ポーラも渋々、舷梯を上り始めた。ボルーテンは兵士に止められ誰何されている。しかし、こちらに向かって大声で叫び続けているため、乗船はまだ出来ないみたいだ。
「逃げるのか!止まれ!聞いてるのか!!」
「あんたの命令は効かないよ!」
そう。ボルーテンの命令は聞かない、ではなく文字通り効かない。上官でない限り効果が無いのは不幸中の幸いだ。
「ご主人様。俺が潰そうか?」
「相手にしなくていいよ。ああいう輩は相手にするだけ無駄だよ。さっ!みんな!あんなのほっといて乗船乗船」
『何が乗船乗船だよ。自分の意思で乗船しているようにしてるけど、受付嬢の命令で動いてるんでしょ?全く迷惑しちゃうよ』
「メロンちゃんの言う通りなのじゃ!少しは反省するのじゃ!」
「どうして自分が反省しないといけないんだよ!自衛官だから仕方ないだろ!」
そうだ!全ては、上官の命令に服従する義務が悪い。職業が自衛官だから仕方ないんだ。……と、この時は思っていた。
「自分に続いて前へ進め!」
上甲板に到着すると行進を止めた。目的が達成され、上官の命令に服従する義務が消えたみたいだ。ホッと息が溢れる。何はともあれ無事に乗船できて良かった。
「魔導船ヤ・マト……まるで護衛艦だな」
前甲板には巨大な主砲が一門搭載されている。と言っても砲身が細長いため、大砲のような威圧感は無い。もしかしたら、主砲とはまた別の武器なのかもしれない。
両舷にはそれぞれ大型弩砲が設置されている。大型弩砲とは、固定された巨大な弓の事だ。俗に言うバリスタ。しかし近代的な船に見えるが、バリスタとはまた古風な武器だな。
「凄いのじゃ!!バリスタが並んでおるのじゃ!」
「そうか?バリスタよりも主砲の方が凄いだろ」
「ん?シュホウじゃと?どれの事じゃ?」
「あれだよ。知らないのか?」
「知らんのじゃ。でも言われてみれば、確かにゼンジのショウジュウに似ている気がするのじゃ……まさかこのシュホウとやらは、ショウジュウのような強さがあるのか?」
「自分が知ってる主砲とは形が随分違うけど、この船の主力になる武器だと思うよ。おそらく小銃よりも威力は格段に上だ。飛距離も比べ物にならないはずだぞ」
「それは凄いのじゃ!魔族が攻めてきても安心なのじゃ」
中央には、見上げる程の船橋が聳えている。護衛艦では艦橋と言い、一般的にはブリッジと呼ばれることが多い。そして護衛艦だとマストや煙突が続くはずなのだが、魔導船にはそれらが見当たらない。代わりに船橋が後甲板まで続いている。動力はやはり魔法ということか。
両舷には、主砲の小型版が等間隔で設置されている。
後甲板はこの位置からは見えないが、何やら半球体のような物が甲板に生えている。
「ご乗船されたハンターの方はこちらへお入りください」
乗組員の先導で船内に入った。
船内は思っていたよりも広く、通路も充分な幅があり、護衛艦のそれとは違っていた。
ラッタルを下り第ニ甲板を船尾に向かって進んだ。長い通路の途中、第三食堂、レストエリアと表示されている区画を通り過ぎ、扉が並ぶ通路の手前で乗組員が足を止めた。
「この先が客室です。一人一部屋となりますので、お好きな部屋を使ってください。案内があるまで、各々の部屋でお待ちください」
乗組員は説明を終えると、笑顔を向けたまま喋らなくなった。早く部屋に入れと言う意味だろう。
「それじゃあ自分達はこの三部屋にしよう」
船首から一番近い部屋にした。
それぞれの部屋に入り、束の間の休息を取ることにした。
(女神様、こちら自衛官、
魔導船ヤ・マトに乗船しました。いよいよアハトゥーム大陸へ向けて出航します。詳細については聞いてないので何とも言えませんが、それ程危険は無いと思います。何事もなければ良いのですが。どうぞ)




