だよな……。
ギルドのロビーにはハンターが数名集まっている。ガヤガヤと仲間同士で会話中だ。
「何だ!まだいたのか!遅ぇよ!」
その中の一人で、体格の良い男が自分を見て怒鳴り声を上げた。何だか嫌な予感がする。
「女を侍らせて時間ギリギリに登場か〜?あ?目立ちてぇのかぁ?」
分かりやすく絡んで来る。だが、頼むからそれ以上絡んで来ないでくれ。
「はっ!無視かよ!根性無しが!!だがまぁ、俺にはこっちのねぇちゃん達が居るからよ!なぁ?」
男の隣には、顔を曇らせた女性ハンターが4人いる。
「ちょっと……」
明らかに嫌がっている。
「このボルーテン様が相手してやるってのに断るのか?あ?」
ボルーテンと名乗った男は、両腕を広げ2人の女性に無理矢理肩組みをして抱き寄せた。
「やめて下さい!」
「触るな!離せ!」
「そんなに喜ぶな」
セクハラだ!女性は2人共嫌がっている。自衛官として見過ごせない!関わりたくはなかったが、ボルーテンの目の前まで詰め寄り睨みつけた。
「おい!」
「あ?」
「その手を……」
「間もなく時間となります。受付を済ませていない方はお急ぎ下さい」
カウンターから受付嬢がアナウンスをした。
「……」
自分は流れるように左向け左をして受付に向かった。体が勝手に動く……。上官の命令に服従する義務だ。てことは、受付嬢は自分よりランクが上か?
「その手を?何だ?あ?どこに行くんだ?もう逃げるのか腰抜けが!ははははは!」
ボルーテンの後ろにいる3人の男達も笑っている。仲間だろうか。くそっ!恥ずかしいじゃないか。
「ギルドカードの提示を」
受付嬢は満面の笑みだ。
「了解」
挙手の敬礼をしてギルドカードをすかさず提示した。また上官の命令に服従する義務が発動したみたいだ。ポーラ達も嬉しそうにギルドカードを提示した。
「Eランクですね。では、あちらの列にお並びください」
「了解」
まただ、体が勝手に動いてしまう。つまり受付嬢のランクは自分より上が確定した。
受付嬢の指示した列の最後尾に並んだ。列と言っても1列に並んでいるわけではなく、4人ずつで固まっている。パーティー毎に集まっているみたいだ。
集まってる場所は2箇所ある。自分が並んだ場所には16人。その中にはボルーテンもいる。もう一方は4人だ。
「何の説明もありませんでしたね」
ポーラが不安そうに辺りを気にしている。受付で情報収集できなかったのが痛い。
「見てください。クエストボードが何処にもありません」
「本当だ……」
言われるまで気付かなかった。クエストの羊皮紙が何処にも見当たらない。壁には何も貼っていない。
「どういうことだ?聞いてみるしかないか」
自分達の前にいるハンターに詳しい話を聞いてみよう。今後、共に行動するかもしれないので、気分を害する様な態度を取らないように注意しよう。ここは第一印象が肝心だ。そう、今からが第一印象だ。さっきのは決して第一印象にはなってないはずだ。何も無かった。まだ何も起きていない。
「お話し中に申し訳ありません。少し……」
「そんな所で何やってんだ腰抜けぇ〜!とっとと帰りやがれ!」
ボルーテンだ。現実逃避は無理だった。あいつのせいで第一印象が最悪になってしまった。
「はぁ……面倒臭い奴に関わってしまった」
しかし、ボルーテンの命令には従わない。同じEランクみたいだ。そう思い視線を向けると目が合った。ニヤニヤと笑いながら自分の前まで歩いて来た。
「聞こえてるのか?あ?ビビって声も出せねぇか?」
うるさい奴だ。少し黙ってて欲しいもんだ。
「あのなぁ。少し……」
その時ロビーの中央まで、さっきの受付嬢が出て来た。
「皆様お静かに」
「しっ!」
喋れなくなった。上官の命令に服従する義務だ。
しかも、自分が話し掛けている途中に命令を受けた事で、『少し』の『し』の部分が大声となってしまった。
ボルーテンはコメカミに青筋を膨れ上がらせた。『しっ!』と言われれば、静かにしろと言ってる様なもんだ。でも、喧嘩を売られて『しっ!』は、あまりにもダサ過ぎる。
「……」
誤解を解こうにも喋れない。
「何様のつもりだ?あ?」
ボルーテンが自分の胸ぐらを掴んだ。反対の手は拳を握っている。殴られる。しかし動けない。
「皆様注目して下さい。まだお話をしたい方は前に出て来て下さい」
「!!」
自分は勢い良く右向け右をした。勿論、体が勝手に動き、頭中の敬礼をして受付嬢に注目した。
「ぐはっ!」
胸ぐらを掴んでいたボルーテンは吹き飛び、見事な顔面着陸を実施してくれた。
「ボルーテン!」
仲間が声を掛ける。吹き飛んだ先は受付嬢の目の前だ。
「お話は何でしょうか?」
「痛てて……あ、いや、これは……あいつが悪いんだ!!」
ボルーテンが自分を指差すが、受付嬢が笑顔でプレッシャーをかける。
「お話がなければ列にお戻り下さい」
「ちっ!」
恥ずかしさのあまり、真っ赤な顔になったボルーテンが戻って来た。
「それでは、皆様おはようございます。早速ですが乗船券をお配りいたします。先ずはDランクのパーティーリーダーの方は受け取りに来てください」
もう一方の4人の中から、魔道士風の男が前に出た。
つまり、あっちの4人がDランクで、こっちの16人はEランクの列だろう。
「次にEランクのパーティーリーダーの方は受け取りに来てください」
自分は行進時の様に、背筋を伸ばし顎を引き前進を開始した。隣でボルーテンも前に出た。こいつもパーティーリーダーみたいだ。ずっと自分を睨んでいる……。
「ふんっ!」
ボルーテンが道を塞ぐように自分の前に移動した。子供か!
しかし、自分は何故か駆け足を始めた。
「??」
そうか!3歩、歩いたからだ。3歩以上は駆け足が基本だ。
「ぐぼっ!」
ボルーテンを突き飛ばした。最悪だ……。自分の方が子供みたいじゃないか……。
一番に受付嬢の前に着くと、駆け足をやめて不動の姿勢をとった。つまり気を付けだ。すると満面の笑みで乗船券4枚を渡された。それを賞状でも受け取るかの様に、右手左手の順で機敏に両端を持ち、一瞥すると左手に持ち変え、一歩下がり、挙手の敬礼を行った。
「いい加減にしろよ!!」
背後からボルーテンに左の肩を掴まれた。
「……」
何も言えない。受付嬢の『お静かに』が、まだ効いている。
「こっちを向け!!」
ボルーテンに左肩を強く引かれた。
「受け取られた方は元の位置にお戻りください」
受付嬢のその言葉を受け、引かれた左に振り向くのではなく、反対方向へに素早く回れ右を行った。勿論、無意識だ。
「ぬおっ!!」
左の肩を掴んでいたボルーテンが反動で吹き飛んだ。二度ある事は三度ある……。顔面着陸だ。
そして体が勝手に行進を始めてしまう。
「待ちやがれ!!」
待てと言われても3歩進むと駆け足を開始してしまうんだ。そして元の位置に戻った時、再びボルーテンに左肩を掴まれた。それはやめた方が良い……。
「馬鹿にするのも……」
案の定、回れ右をして不動の姿勢をとった。そして頭中をした。
「ぎゃっ!」
顔面着陸。本日4度目の悲鳴だ……。ボルーテンの顔は、りんごの様に真っ赤に染まってる。今度は流血で文字通り真っ赤だ。
「許さんぞ!!殺してやる!」
「今回の乗船は5組でよろしいでしょうか?」
受付嬢がそう呟くと、ボルーテンは歯軋りをして回れ右をした。ちなみに、今の挙動は0点だ。
「ちっ!!」
舌打ちじゃない。大声の「ちっ」だ。ボルーテンは受付嬢の元へ向かった。
「ご主人様やるじゃないか!」
「でも、ちょっと可哀想でした」
『不味そうなりんごだね』
「……」
喋れない。
「あの……ありがとうございました。あの人達にはずっと迷惑してたんです」
「ありがとう!胸がスッとした。でも良いのか?あいつらはもう直ぐDランクに上がるらしいぞ。逃げるなら早いうちが良い」
ボルーテンに絡まれていた2人の女性に礼を言われた。
答えたいが、不動の姿勢で頭中をしたまま動けない。
「それでは魔導船ヤ・マトにご乗船ください」
は?もう?何の説明もなしに?
「了解!」
だよな……。上官の命令に服従する義務恐るべし。
「あ、ゼンジ待ってください」
だよな……。3歩以上は駆け足が基本。自衛官恐るべし。
自分は一人駆け足で魔導船に向かった。
(女神様、こちら自衛官、
自分の意思ではありませんが、ボルーテンに赤っ恥をかかせてやりました。それが格好良いのか悪いのかは分かりません。いや、きっと格好良かったはずです。それなのに、真っ先に駆け足で飛び出すなんて。ボルーテンから逃げたみたいになってしまいました……。どうぞ)




