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黒戦艦

紺碧の海鳥亭で受付を済ませ、そのまま食堂に向かい早目の夕食を取った。

海沿いの街という事もあり、食事は魚がメインだった。見た事もないカラフルな外見で、毒でもありそうな魚だったが、マグロのような食感と味でなかなか美味かった。

食事後それぞれの部屋へ別れると、自分はそのまま泥のように眠った。


次の日、言葉遣いが変わったポーラの声と、ドアを乱暴に叩く音で目を覚ました。


「ゼンジ!起きるのじゃ!ゼンジ!」


「ん……」


窓から朝日が差している。外は特に変わった様子はない。


「いつまで寝ておるのじゃ!大変じゃ!」


「どうしたんだよそんなに慌てて」


ドアを開けるのと同時にポーラが部屋に飛び込んで来た。


「一大事じゃ!外を見るのじゃ!早うせい!」


ポーラは自分の前を通過して窓に駆け寄ると、窓辺の縁に隠れて目元だけ出して外を覗いた。


「何だよ。特に何も無いみたいだけど?」


「海じゃ!海を見てみるのじゃ!」


「海って……」


朝日を反射してキラキラと輝いている。水平線は海霧で見えないが、特に昨日と変わった様子はない。


「違うのじゃ!向こうじゃ!」


「ん?出島の方か?」


紅葉の葉に似た島へと続く桟橋が昨日の倍以上の人で埋め尽くされている。


「……何が始まるんだ?」


沖の方を見ると、薄っすらと何かが見える。黒い塊が1つ、海霧の向こうに現れた。


「あれは……双眼鏡!」


スキルで現れたそれをキャッチして目に当て覗き込んだ。


「……な、何だあれは!!」


海に浮く巨大な黒い塊は、まるで戦艦のような出立ちをしている。波飛沫をあげてかなりのスピードで接近しているが、煙突や帆は無く外輪やパドルも見当たらない。原動力は分からないが兎に角速い。


「黒戦艦……格好良い……」


「攻めて来たのじゃ!!」


ポーラが言うように、攻めて来たと言われればそのようにも見える。


「落ち着くんだ!」


「落ち着いてる場合ではないのじゃ!ここは危険じゃ!逃げるのじゃ!!」


「待ってくれ!様子が変だ」


「何がじゃ!魔族が攻めて来たのじゃ!」


「それにしては静かじゃないか?」


桟橋は人は多いが慌てている様子はない。それどころか、宿の前の道を行き交う人々は笑顔で挨拶を交わし、普段通り買い物をしている。窓から見えるギルドも、混雑してはいるが混乱しているようには見えない。いたって平常運転だ。


「情報収集をしよう」


「そんな暇はないのじゃ!!」


黒い戦艦が近付くにつれ、ゴウンゴウンと腹に響く低音が聞こえ始めた。焦燥感が無いと言えば嘘になるが、危険は無い気がする。


「イフリートは!?」


「飛び出して行ったのじゃ!」


「何だって!?」


『握りつぶすって喜んでたよ』


「おそらくあそこじゃ!」


ポーラは出島を指差した。


「問題事は起こさないでくれよ!」


双眼鏡で出島の桟橋を確認する。


「……いた」


桟橋の付け根で止められている。


「ポーラ行くぞ!」


「了解なのじゃ!」


『行ってらっしゃい』


「メロンも行くんだよ!」


『え〜!』


自分達は部屋を飛び出し、イフリートが居る桟橋の付け根へ向かった。


〜〜〜


「邪魔だ!!俺が握り潰してやる!」


「ここは関係者以外立ち入り禁止だと言ってるだろうが!」


仁王立ちのイフリートが、桟橋の兵士と口論になっている。


「イフリート!!」


「おう!ご主人様遅かったな!」


「遅かったなじゃない!やめてくれ!」


「あれを握り潰……何をする!モゴモゴ……」


イフリートの口を押さえて、兵士に平謝りする。


「申し訳ありません」


「何なんだこいつは!」


「自分達は昨日来たばかりで事情を良く分かってないんです」


「何っ?説明を聞いてないのか?」


「説明?……ですか?」


「ああそうだ。アハトゥーム大陸に行く志願者の説明だ」


「アハトゥーム大陸に行くじゃと!?ど、ど、ど、どう言う事じゃ!!?」


「ったく!お前達ギルドに行ってないのか!?門番は何をしていたんだ!」


そう言えば門番はギルドに行くのが正解だと言っていた。自分達は従わなかったけど。

黒戦艦が速度を落とした。湾内に入ったのだろう。既に目と鼻の先だ。


「あれに乗って行くんですか?」


「そうだ」


「な、な、何をしに行くんじゃ!?」


「魔族領の侵攻だ」


「「え〜〜〜っ!!」なのじゃ!!」


聞いてないぞ!魔族領の侵攻?魔族は強いんじゃないのか?そんな魔族を相手にする事なんてできるのか?


「魔族と戦うんですか?」


「そうだ」


「何のために?」


「決まってるだろ。アーティファクトの奪還だ」


「アーティファクトの奪還じゃと!?」


「魔族から取り戻すのさ。あの魔導船もそうだが、アハトゥーム大陸には古の大戦時のアーティファクトが数多く眠っている。いわば宝島なのさ」


あの黒戦艦は魔導船というのか。原動力は魔法か?魔導船自体がアーティファクト?


「魔族と戦うなどできんのじゃ!魔族は恐ろしく強いのじゃ!戦えるのは勇者だけなのじゃ!」


「そりゃいつの話だよ。魔王が封印されて以来、魔族の力は半減している。バルメタ帝国も、もう直ぐ堕ちるって話だ」


「そんな話は聞いた事ないのじゃ……」


「だろうな。シュトロバウルの機密事項だ」


「馬鹿な!それでもどこからか情報は必ず漏れるじゃろ!」


「それが漏れる事は無い。ここから外に出る奴は居ないし、アハトゥーム大陸から帰ってくる奴も居ないからな。ここの生活も最高だが、あっちの生活はもっと最高なんだろう」


「だとしたらロックジョーさんは知ってたけど言わなかったって事か?」


「有り得るのじゃ!からかって楽しんでおるのじゃ!」


そうなのか?もしかしたら、言いたくても言えない理由があったりするのかも。


「ご主人様!勿論行くよな?」


「そうだな……」


「ダメじゃ!!危険じゃ!」


「ん〜……でも、ポーラの呪いを解く方法がバルメタ帝国にはあるかもしれないんだろ?」


「それはそうじゃが……」


「決まりだな!行くぞご主人様!」


「待て待てお前達!乗船券も無いのにここを通せるか!ギルドで説明を受けて出直して来い!!」


「了解!」


兵士達に押し返された。

イフリートが何か言いたそうだが、ここは黙って従った方が無難だ。兵士達から距離を取った所で話し合う。


「良かった。昨日直接ギルドに行ってたら、上官の命令に服従する義務が発動して、有無を言わさずアハトゥーム大陸に行かされてたかもしれない」


「そうじゃな。しかし、今の話全ては飲み込めぬ」


「なんだかまるで魔族はヌルいみたいな話ぶりじゃないか!」


「でも、あの兵士達の言う事が本当なら、魔導船に乗るだけでアハトゥーム大陸に行けるんだろ?」


「そうみたいじゃ。しかもバルメタ帝国はもう直ぐ堕ちると言っておった。怪しすぎるのじゃ」


「まあな。ギルドで話を聞いて乗船券を買うか貰えれば、あの魔導船に乗れるってことだろ?んで、アハトゥーム大陸に渡ればポーラの呪いを解く方法も分かるかもしれない。自分は行きたいと思う。皆んなはどうだ?」


「妾は……」


「ポーラ心配するな!魔族は俺が握り潰してやる!」


「むう……しかしじゃな……」


『あんまり悩む事ないんじゃない?簡単に行けそうだよ』


「だな。バルメタ帝国に行くには、もっと危険が伴うものだと思ってたから案外拍子抜けだったよ」


「……分かったのじゃ!バルメタ帝国へ行くのじゃ!」


「良し!そうと決まればギルドに行ってみよう」


魔導船が紅葉の葉の先端に接岸すると、腹に響く重低音が止まり静かになった。対照的に、桟橋の人達は慌ただしく動き始め、魔導船に掛けられた舷梯から次々と乗り込んで行った。



(女神様、こちら自衛官、

黒船が来航しました!もとい、黒戦艦来航です!格好良い!そして、なんと乗艦出来るみたいです!しかも目的地は魔族のいる大陸です!どうぞ)

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