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出島だ

ファビリオン山脈の峡谷を抜けた。


「みんな気を付けろ!この先はモンスターのランクも上がるはずだ!」


「そうですね。Eランクの資格が必要なエリアですから、それなりの強さが求められるはずです」


「どんなモンスターが出て来ても俺が握り潰す!」


『死なない限り我が直してあげるよ』


「恐ろしいこと言うなよ」


「ゼンジ見てください!」


ポーラが指差す場所には草が生えていた。


「緑だ……」


こちら側の黒い岩肌からは煙は出ておらず、代わりに草木や苔が生えている。足元にも緑がちらほら見え、木の付け根ではイボンヌフロッグがカラフルなキノコを食べている。

視線を上げると、背の高い木が視界一面に生えており、枝にはよだれを垂らすティーカルゴがゆっくりと進んでいる。どうやら、ファビリオン火山を挟んだあちらとこちらでは生態系が違うみたいだ。


「モンスターだ!」


『うん。でも弱いよ』


「……だな」


森の中に入っても、ゴブリンやトンボールのようなGランクのモンスターしか出てこない。


「Eランク以上の必要があるのか?」


強そうなモンスターはおらず、イフリートが魔雷香を起動しているため近付く者さえいなかった。

何事もなく森を抜けた。

すると突然自分の意思とは関係なく手綱を引いた。バイコーンはそれを受けて歩みを止めた。


『ブルル』


「止まったって事は……うっ!眩しい!」


視界一面キラキラと輝いている。


『わ〜ぉ!』


「この匂いは好かん」


イフリートが言うように不思議な香りがする。何故かとても懐かしい。そうか!これは磯の香り!


「ゼンジ!あれは!」


「ああ!海だ!!」


森を抜けて眼下に広がるのは、地平線まで続く青い海。太陽の光を浴びて、海面が眩く反射している。

下から噴き上げる風が、磯の香りを運んで来るのだろう。


「この海は全てスライムなのかな?……」


ミラが言っていたのを思い出した。しかしどこをどう見ても完璧に海だ。


『あっ!街だよ!りんごあるかな?』


「なかなかデカいぜ!」


「うわぁ〜!どこまでも続いてます」


「ここがシュトロバウルか」


今いる場所から急な坂道を下ると、そこはもうシュトロバウルの街だ。入り口の門にシュトロバウルと書いてあるから間違いない。

そこから数キロ先へ進むと美しい海だ。横一線に岸壁がどこまでも続いている。その岸壁に接するように、港町が建っている。


「不思議な街だな」


『どこが?』


「ご主人様!海沿いの街なんて珍しくないぜ?」


「いや違うんだ。なんて言うか、港町にしては漁師が住むような家じゃないと思うんだ。どちらかと言えば、鉱山の坑夫が住んでそうな造りじゃないか?」


『そう?』


「そうだよ。それに船が無い。おかしいと思わないか?これだけ岸壁が整備されているのに船が一隻も無いんだ」


「確かにそうだな。匂いも海と鉱石が混じってるぜ」


「岸壁も海水とは別の何かを防ぐような造りですし……」


「ああ、その何かは、おそらくあそこにいるんだろう」


『ん?あそこ?島?』


「そう!出島だ」


岸壁から少し沖の方に人工的に作られた島がある。扇形ではなく、紅葉の葉に似た形だ。そこまでは橋が架かっており、兵士が何人も立っている。見るからに、やり過ぎじゃないかと言わんばかりに厳重に警備されている。


「出島?ご主人様は、あの島を知ってるのか?」


「いや、知らないが自分の国にも似たような場所があったんだ。あれはきっと外国と貿易するための拠点だよ」


「外国?……まさか……魔族……ですか?」


ポーラは顔面蒼白だ。


「多分そうじゃないか?」


それを聞いて突然興奮し始めた。


「ありえんのじゃ!魔族は海を嫌っておるのじゃ!アハトゥーム大陸から出て来れんのじゃ!」


「自分もそう聞いたよ。しかし、ロックジョーさんは、自分の目で真実を見極めろと言っていた。もしかしたら違う真実があるんじゃないか?」


「ぐぬっ!……しかし魔族なのじゃ!魔王復活のために攻めてくるのじゃ!!」


「攻められてるようには見えないけどな」


街は争ったり破壊されたりしてはいない。それどころか、通りを行き交う人達が見える。のんびりとしているのが見て取れる。


「……魔族は好戦的な種族なのじゃ!今にも攻めてくるのじゃ!それに、あの島の形はネイビー教のシンボルに似てるおるのじゃ!そのような場所に魔族を入れるなどありえんのじゃ!!」


紅葉がシンボル?確かに教会の屋根にも紅葉に似たシンボルが掲げてあったな。


「ポーラ落ち着けよ。出島や魔族の話は自分の考えで、実際は魔族は何も絡んでないかもしれない。船も全て出航しているだけなのかもしれない」


「ダメじゃ!ここは危険なのじゃ!!」


「それも分からないだろ」


「嫌じゃ!帰るのじゃ!!」


「先ずは情報収集だ。帰るのはそれからでも遅くないんじゃないか?」


「ぐぬぬ……仕方ないのじゃ」


ポーラは口を尖らせ後をついて来る。おそらく納得していないんだろうけど、話を聞いてみないと分からないしな。

門へと続く坂道を下り、シュトロバウルに辿り着いた。

門番が2人立っている。


「ようこそ商業都市シュトロバウルへ」


しかしそれ以外は特に何も言ってこない。


「通っても良いんですか?」


「もちろんだ!この場にいるって事は、あんたらはEランク以上だ。強いんだろ?それ以上の情報は必要ない。ここは自由に通ってくれ」


「分かってるじゃないか」


イフリートが嬉しそうに門番の肩を叩いた。


「ああそうだ!この後どうするんだ?」


門番に聞かれた。情報収集と言えば酒場だな。


「ギルドに向かうつもりです」


「正解だ。気を付けてな」


「了解!」


正解だそうだ。ギルドで何か依頼があるのかもしれない。

2人の門番に挙手の敬礼を行い、その場を後にした。


「簡単に入れたな!」


イフリートが笑顔で力こぶを作った。


「そうだな。やっぱりここは平和なんじゃないか?」


「ギルドに行ってみないと分からんのじゃ!」


「それなんだけど……ギルドに行くのはやめとかないか?」


「何故じゃ!?」


「ご主人様も行くって門番に言ってたじゃないか?」


「それが……あそこに行くと、上官の命令に服従する義務が発動するだろ?なるべくそれは避けたいんだ。だから一旦宿に泊まって……それから考えないか?」


『そうだね!休憩しよう!』


「それならあそこが良いんじゃないか?」


イフリートが示す建物はギルドの隣に建っており、看板には『紺碧の海鳥亭』と書いてある。


「良さそうだ!」

 

「泊まるなんてダメじゃ!何を考えておるのじゃ!早う帰るのじゃ!」


ポーラは相変わらずプリプリと怒っている。しかしそのポーラの腹の虫が鳴いた。


「あの宿で食事にしよう」


「ぐぬぬ……ゼンジがそう言うなら仕方ないのじゃ」



(女神様、こちら自衛官、

見た事も聞いた事もないシュトロバウルに着きました。上官の命令に服従する義務も使いようだと思いました。ですがやはり、厄介なスキルです。情報収集もできません。上官だらけのギルドに入るのは恐ろし過ぎます。何か対策を考えないと……どうぞ)

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