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ある希少種の日常 その後━  作者: 紅林雅樹
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第二百三十七話 『ゲームの結末』

「ん…?」


目が覚めたダインの視界に飛び込んできたのは、夜に染まりつつある夕焼け色の空だった。

一面雲が無く、ここはどこだっけと周囲を見回そうとしたところで、誰かの頭がにゅっと視界に飛び込んでくる。


「おはよう、ダイン」


妹、ではない、姉のほうのルシラだった。

可愛らしい笑顔でダインを見下ろしており、緑色の長い髪が垂れ下がってダインの頬をくすぐっている。


「…もはや定番だよな、この展開」


封印地でメデルと対峙し、捕まえるどころか色々と翻弄されて最後は眠らされる。

起きたときにはルシラに膝枕されている。

これでもう七度目だ。


「ダインも大変だね」


ルシラは笑い声を上げながら同情を寄せた。


「今日のゲームの様子もずっと見させてもらってたけど、ほとんどダインはおもちゃ状態になっちゃってたね」

「そうなんだよ…」


視界の端に、切り立ったような氷の壁が見える。

どうやらここはアイスマウンテンの頂上だったようだ。


頂上だから常に風が吹いており、凍えるほど寒い…はずが、不思議と全身が暖かかった。

どうやらルシラに膝枕されてるだけでなく、自分の左右にも誰かがいるようだ。


そちらに顔を向けたかったのだが、首が動かない。

いや、首どころか手足すら動かせられない。


「やっぱり、まだ力が戻ってないみたいだね」


ダインの表情から察したらしく、ルシラが言ってくる。


「メデルとラフィンちゃんに、たんまりと力を吸い取られたみたいだからね~」


そう言われ、ダインもメデルとのゲーム終盤の出来事を思い出す。

迫り来るラフィンの触手に掴まってしまい、力を吸われてそのまま気を失ってしまったようだ。


目だけは動かせられるようなので、左右に誰がいるのか確認してみる。


右に真っ白な髪と、左にブロンドの髪…そして胸の上には小さなドラゴン。

どうやらダインに添い寝をして暖めてくれていたのは、レフィリスとラフィン、そしてリリのようだが…。


「おはよう、ダイン」


レフィリスはすでに目を覚ましていたようで、青く輝く目でダインを見上げてくる。


「あ、ああ、おはよう…レフィリスは大丈夫なのか?」

「ん?」

「いや、お前もラフィンに力を吸われて気を失ってたろ」

「レフィリスは全然平気」


そう言って、彼女は上半身を起こした。


「レフィリスにはそんなに魔力がなかったから。回復も早いよ」


すでに全快していたようで、言葉どおり元気そうな表情だ。


「他のみんなはお家に帰したよ」


ダインの質問を先に察知して、ルシラが言う。


「家庭によっては、もう晩御飯時だからね」

「気を失ったまま、じゃないよな?」

「さすがにお家の人がびっくりしちゃうだろうから、お家の前で起こして自分の足で帰ってもらったよ」


ルシラは笑いながら言い、「みんな、すごく楽しかったって言ってたよ」、と続けた。


「レフィリスもすごく楽しかった」


ダインの右手を両手でもみもみしながら、レフィリスが言う。


「色んなゲームを体験して、謎解きとかも面白かった」


ダインに力が戻ってないのを良いことに、彼の手を頬擦りしたりして存分に彼の手の感触を堪能している。


「私も視てたけど、確かに謎解きは面白かったねぇ」


ルシラがまた笑い声を上げた。


「秘密の扉の…ひーちゃんだったかな? あそこでみんなが自分の秘密を打ち明けあってるの、すごく良かったよ」

「うん。みんなのこと、とてもよく知ることができた」

「なんかとんでもねぇことになってたんだな…」


ダインはどよめくシンシアたちのリアクションが脳裏に浮かぶものの、「逆に結束力が高まったんじゃないかな」、とルシラが言った。


「私からしてみれば全部可愛い内容だったし。そんな性癖もあるんだ、みたいな」

「性癖…?」

「でも最後の数字の意味が分からなかった。ルシラお姉ちゃんは分かったの?」

「数字…?」

「あー、あれは…」

「10回とか30回とかいう回数が暴露されてたけど、あれは何をしてる回数だったの?」

「う、う~んとねぇ…」


顔を赤くさせたルシラの答えづらそうな反応を見て、察しの良いダインは何となく聞くべき話題ではないことが分かった。


「そ、それより、メデルさんは? ゲームの結果ってどうなったんだ?」


レフィリスが詰め寄りそうだったので、無理やり話題を変えた。


「ああ、メデルもとっくに帰ってるよ」


少しホッとした様子のルシラが答える。


「最後はラフィンちゃんも気を失ってたから、ゲームはメデルとダインの勝ちってことになってたね」

「ああ、やっぱそうなるか…」

「みんな私の子供になりましたって、喜んでたよ」


レフィリスが思い出しながら言い、「チームで買ったから、ダインにもご褒美があるって言ってた」とレフィリスが続ける。


「ご褒美って?」

「後で分かるって」

「なんか怖いんだけど…」


ご褒美ではなく罰ゲームなんじゃないだろうか。

メデルからされた仕打ちを色々と思い起こしていると、ルシラが無言のままこちらを見つめていることに気づいた。

やけにニコニコ顔だ。


「なんだ?」

「次で二人きり旅行も最後。その最後は、私とだよね」


ようやく自分の番が回ってきたのだと、ルシラは期待を隠しきれないようだ。


「最後は確か…」

「エティン大陸だよ」


ダインの頬を優しく撫でながらルシラが続ける。


「エティン大陸の上に浮かんでいる、『天空迷宮サンダレイズキャッスル』が、ナナの…『ディグダイン』の元封印地。メデルは最後にそこに行くって言ってたよ」

「ああ、あそこか」


以前、七竜討伐作戦に参加した際に訪れたことのある場所だ。

姉のルシラから初めてコンタクトをとれたり、倒れたガーゴの兵士たちを助けたりと、色々と思い出深い場所だったが…そこを封印地めぐりの最後に選んだメデルには、何か思惑があるのだろうか。


「…ミャフ…」


ダインの胸の上で眠り続けているリリが寝息を漏らしている。

彼の可愛らしい寝顔を見ていると、ふと先ほどまで見ていた夢のことを思い出した。


あの夢も、きっとリリの記憶…になるのだろう。

登場人物から考えて、相当昔の記憶になるのだろうが…。


「んん…」


と、今度はダインの左側から声。

ラフィンが少し動いている。そろそろ目を覚ましそうだ。


「じゃあ、私たちはもう帰るね」


膝枕していたダインの頭部をそっと地面に降ろし、ルシラが立ち上がる。


「ここからはダインとラフィンちゃんの二人きりの時間だし」


ずっとダインの手の感触と匂いを堪能していたレフィリスも立ち上がり、眠るリリを持ち上げて抱っこした。


「またね、ダイン」

「あ、ああ…」


ダインの困惑したような返事を受け、「どうしたの?」、とレフィリス。


「いや、まだ力が戻らなくてな…」


体を動かせず、いつまでこのままなのかとダインは不安がっている。

そんな彼の顔を見つめるレフィリスの目が赤く変色した。


「よわよわダイン。可愛い」


何故だか興奮しているようだ。


「ルシラお姉ちゃん。レフィリスもよわよわダインをもっと堪能したい」

「そうだね~。近いうちに何かしよっか」

「二人とも怖いこと言ってんぞ」


ダインが突っ込むと、ルシラは笑いながら手を振って“雲のゴンドラ”を呼び寄せ、リリを抱っこしたレフィリスと一緒に乗り込んだ。


「ダインはヴァンプ族なんだし、間もなく回復すると思うよ」


ゴンドラの窓からルシラが言ってきた。


「でも“ご褒美”には気をつけてね?」

「え?」


どういうことだと尋ねる間もなくゴンドラが浮かび上がる。


「ダイン。また明日」


手を振るレフィリスと一緒に、夕空にフェードアウトするかのようにゴンドラが消えた。


「…ご褒美に気をつけてって、どういうことだ…?」


疑問を抱いている間に、ルシラの言った通り徐々に全身に力が戻ってきたのが分かった。

手足が動かせるようになり、上半身も起こせる。


「ああ、良かった…」


ほっとため息を吐いていたところ、「ダイン…?」と下から声がした。


ラフィンがようやく目を覚ましたようで、彼女もむくりと上半身を起こす。

小さくあくびを漏らしつつ空を見上げ、夕方であることを確認してからダインのほうを見た。


「終わっちゃってたのね」


周囲には誰もいないからか、少し寂しそうだ。


そんな彼女を、ダインは内心警戒しつつ伺っていた。

まだ“ヴァンプ族状態”なのではないかと身構えていたのだが、背中に翼がある。


「薬の効果が切れたか」


エンジェ族に戻れたのかとホッとするダインに、「あなたも力が戻ったようね」とラフィンが言う。


「残念そうに言うなよ」

「残念なのよ。あんたの弱々しい状態をもっと味わいたかったのに」

「あれ以上俺をどうする気だったんだよ」


まだ諦めきれない様子のラフィンをなだめつつダインが立ち上がり、ぐっと全身を伸ばした。


「あ~…今回はいままで以上に長く封印地にいた気がするな」

「でも楽しかったわ」


ラフィンが手を伸ばしてきたので、それを掴んで彼女も立ち上がらせる。


「久しぶりだと思うわ。こんなに“遊んだ”っていうのを実感できたのは」

「生徒会の仕事とか習い事とか、ずっと根詰めてたもんな」

「そうなのよ…」


ラフィンは数週間前のことを思い出したのか、珍しくげんなりした様子を見せている。

しかし大変だった分、今日という日を思い切り楽しめているようで、満足した表情でダインを見ていた。


「頑張ったご褒美だな、今日は」

「そうね。それにそのご褒美はまだ続くし。むしろいまからが本番みたいなものなんだもの」


ラフィンが予約していたという宿に向かい、そこで今日一日の疲れを癒やす。

ここからは完全に二人きりの時間となるため、それがラフィンが最も楽しみにしていた時間ということなのだろう。


ダインも同感だったので、「そうだな」とラフィンに笑いかける。


「で、予約していた宿っていうのはこっからどこの方角になるんだ?」


近くに置いてあった二人分のリュックを背負うと、ラフィンが「はい」とダインに向けて両手を伸ばした。


「私が連れて行くわ」

「え?」

「寒いでしょ?」


そういえば、コンフィエス大陸を巡ってるときは寒さ対策としてラフィンに抱かれたままだったことを思い出す。


「誰に見られる心配もないんだし、チェックインの時間も差し迫ってるんだから早く行きましょ?」


ラフィンにとっては、もう移動時はダインを抱くということが当たり前だという認識でいるようだ。


ここで押し問答しても時間の無駄だ。凍えるほど寒いのは事実だし。

ラフィンの提案を聞き入れるしかないダインは、できるだけ人目につかないようにしてくれと要望しつつ、ラフィンの方へ近づく。


抱きつこうとしたとき、どこからか突風がやってきてダインたちを襲った。

凍てつくような風にダインは「さむっ!?」とまた体を震わせてしまう。


つい足を止め、周囲を見回す。


「どうしたの?」

「いや…」


雲ひとつない夕空や、切り立った氷の壁を見上げつつ、「寂しい場所だなと思ってさ」とダイン。

さきほどまでシンシアたちやメデルがいて、ずっと賑やかだった分、誰もいないときの静寂がより強く感じられる。


封印地とされてから、ここには誰一人訪れてこなかったのだろう。


「ここにリリは数千年もいたんだなって、ちょっと思ってな」


これだけ寂しい場所だが、ずっとこの場所にいたリリは懐かしさを感じてしまっている。

氷の像を作ったりして、それなりに思い出もあったのだろう。


「また今度、みんなで遊びに来てもいいかもしれないわね」


ラフィンが言った。


「またしてくれるか分からないけど、メデル様に山をデコレーションしてもらって」

「最初ここに来たときは神聖な山が穢されたって、ショック受けてなかったか?」

「中に入ってみれば普通の山だったんだもの。リリの寂しい記憶も、楽しい思い出にアップデートして欲しいし」

「そうだな。ラフィンの言うとおりだ」


また来ようと約束しつつ、ラフィンを正面から抱きしめる。

と同時に、ラフィンから「んふ」という満足げな声が漏れる。

そして彼女のほうからもダインを抱き返し、「しっかり掴まってなさいよ」と言った。


ばさっと背中の翼が広げられ、はためかせた瞬間にふわりと全身が浮かび上がる。

先ほどまで立っていた地面が瞬く間に遠ざかり、山全体を一望できる距離まで飛翔した。


「お~…」


遠くまで広がる銀世界。

見晴らしがよく、ダインの口から感嘆の声が上がってしまう。


「ほんとに時間があまりないから、ちょっと飛ばすわね」

「ああ、頼む」


ダインを落とさないようしっかり抱きしめ、ラフィンが高速移動を始める。

周囲に遮るものが何もないため、全身に常に強風が当たってくる。

もうその時点で凍えてもおかしくなかったのだが、ラフィンのおかげでどれだけ強風に晒されようと暖かかった。

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