表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある希少種の日常 その後━  作者: 紅林雅樹
235/239

第二百三十四話 『最後の裏切り』

「ひゃっ!? ちょ、そ、そこは…あはは、あははは!!」


ラフィンとディエルに体中をくすぐられ、メデルは身をよじって笑い転げている。

バリアは何度も消失と展開が繰り返され、ディエルが隙を見て突撃を試みていた。


笑うメデルはすっかり大人の余裕はなくなり、歯を食いしばってくすぐり攻撃に耐えている。

頼みの綱のダインは未だに気を失っているはずのシンシアに拘束されており、彼女の体温や柔らかさから抜け出せていない。


試合は拮抗しているように見える。

彼女たちの楽しげな様子に、観客席にいたニーニア、ティエリア、ルシラにレフィリスも体がうずく。


自分たちも参加したくなったようだ。

同じようにメデルをくすぐったり、シンシアの腕の中でもがくダインを一緒になって抱きしめたい衝動に駆られている。


だがそれができない。

二度の参戦は不可というルール以前に、彼女たちは体が動かなかった。


何故か、全身に力が入らなかったようだ。

それほど激しい戦闘をしたわけでも、魔法を使ったわけでもないのに、全身が気だるい。


何かを吸われているような感覚がずっとある。

その違和感はニーニアたち全員が感じているようだが、原因が分からない。


ダインはシンシアの中でもがき続けており、何かしている様子は見られない。

だが、誰かから何かしらの干渉を受けていることは感じられる。


「ふぅ、ふぅ…ら、ラフィンさん…」


どうにかラフィンとディエルコンビのくすぐり攻撃に耐えつつ、メデルが話しかける。


「ラフィンさんに触れられ、分かりましたが…もしかして、“成功”されました?」


メデルの集中力が途切れかけている。

同時にバリアの強度も落ちているようで、ディエルが様々な攻撃魔法を浴びせて突破しようとしている。


徐々に余裕がなくなってきたメデルだが、ラフィンのある“変化”について、指摘せずにはいられなかった。


「…そう、ですね」


メデルへのくすぐり攻撃を止め、自分の手元を見つめていたラフィンは呟くように言う。


「うまくいったみたいです」

「ぜぇ、ぜぇ…な、何の話?」


魔法を使いすぎて疲れた様子のディエルが戻ってきた。


「手を止めて、メデル様と何を話してんのよ…」

「いえ…ディエルのおかげで、っていう話をしていたの」

「は?」

「それより、やけに疲れてるわね、あなた」


ディエルの疑問を無視して、ラフィンは彼女に笑いかけている。


「大丈夫?」


こいつは何を言っているんだろう。

ディエルはそう突っ込みそうになったものの、確かに“異常なほどの疲労感”はある。


魔法の使いすぎだろうと、自分では思っていたのだが…。


やけに重たい疲労感。

違和感から疑問に転じたディエルは、視線のみを動かして右側の奥を見る。


そこではまだダインがシンシアから抜け出せないでいた。

シンシアの中でもがくばかりで、彼女の体温や柔らかさからろくな抵抗ができていない。


この違和感の原因はダインではない━━。

そう思った次の瞬間、ディエルははっとする。


こちらに笑いかけているラフィン。

悪戯っぽそうな笑顔に見えた…そのラフィンの“中”から、ディエル自身の魔力の存在を感じたのだ。


そのときディエルの脳裏に去来したのは、ラフィンたちと共同で開発した“禁忌の薬”のことだった。


獄界で知り合ったサキュバスの『リエル』から、特殊な知識と魔力が込められたノートを授かった。

そのノートに込められた魔力を介すれば、あらゆる倫理を無視した薬を作り出すことができる。


リエルが作り出した魔法、『ヤリマクリマ』。

その禁忌の術を応用して薬を作り、魔法が使えないヴァンプ族でも魔法が使えるようにすることができた。

秘匿性の高いノートは、ラフィンが保管していたはずだが…。


「…あなた…まさか…」


エンジェ族としての誇りとプライドを強く持っているラフィンだから、絶対にそんなことをするはずがないと思っていた。

だが、いまディエルの頭の中に渦巻いている疑念は、ラフィンの全身に立ち上る“禍々しいオーラ”を見ているとますます強まっていく。


いや、もはや確信に近かった。

いつもこれ見よがしに広げていた、ラフィンの自慢の真っ白な翼が完全に消失してしまっているのだから。


「悪いわね、ディエル」


顔面に怪しい笑みを貼り付けたまま、ラフィンは言う。


「これも、ダインを倒すためだから…」


観客席にいたニーニア、ティエリア、ルシラにレフィリスは、全員が椅子に座ったまま気を失っていた。

彼女たちの魔法力も、ラフィンの内側から感じる。


ディエル自身の体からもどんどん魔力が奪われているようで、体から力が抜けていく。


「う…裏切った…わね…」


声すら張り上げられなくなったディエルは、そのまま地面の上に倒れこんでしまった。


「…良かったのですか?」


メデルがラフィンに尋ねる。


「シンシアさんも気を失ってしまいましたし、残すところはラフィンさんのみとなってしまいましたが」



一方、ダインはようやくシンシアの拘束から抜け出すことが出来たようだ。

「ふぅ」と息を吐いた彼は、シンシアから吸い取った聖力を使い、彼女を安全な場所へ魔法でワープさせる


「始めからこうしとけばよかったじゃん…」


自分自身に突っ込んだダインは、観客席側を見て違和感に気づく。


ニーニアたちが気を失っている。

誰も声を発さず、周囲は静まり返っている。


「え…? ど、どうしたんだ?」


何かトラブルが起きたのかと近づこうとしたが、「問題ありません」という声が聞こえ足を止める。


「ダインを倒すことが出来れば、それでいいですから」


もはやそれ以外にないかのような、ラフィンの言い方だった。


そんな彼女を遠巻きに見ていたダインは、「え」と固まってしまう。

信じられない姿だった。


「ミャ?」


リリもラフィンの姿を見て、首をかしげている。


彼にも見えていたようだった。

ラフィンの手から、透明な触手のようなものが生えているのを。


「ら、ラフィン…?」


ダインの声に気づき、ラフィンがそちらへ顔を向ける。


「ああ、脱出できたのね、ダイン」


ダインに微笑みかける彼女の目は、妖しい光を放っている。


「みんな気を失って少し寂しいけれど、対決再開といきましょうか」

「い、いや、お前…なんか…魔族っぽいオーラが…」

「緊急事態です、ダインさん」


ダインの近くへワープし、メデルが言う。


「ラフィンさんには、あらゆる魔法が通じなくなってしまいました」

「え?」

「それどころか、私たちの魔法力を根こそぎ奪う力を手に入れてしまった」

「え?」

「触手で」

「え?」


何が起こっているか分からないままに、「ですので」とメデルが続ける。


「ダインさんの罰ゲームはここで終了します。本来の力を解放してください」

「い、いや、状況がまだよく分かってないんすけど…」

「戦うしかないのです!」


ゆっくり歩んでくるラフィンを見据え、メデルが演技っぽい口調で言った。


「ヴァンプ族のダインさんしか、ラフィンさんに抗うことは出来ません」

「ど、どういうこと…」

「ダインさんが“エッチな目”に遭わないためにも!」

「だ、だからどういうことっすかねぇ!?」


普段のラフィンからじゃ想像もつかないスピードで、ダインに迫る。

無数の触手が彼の全身に伸びていく。


どうも、エンジェ族のラフィンは禁忌の薬により、魔族であるヴァンプ族になってしまったようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ