依頼主
「1日で3人も殺すだなんて優秀じゃないか。君は金のためだったらなんでもできるんだね」
その声は、間違いなく、お掃除ロボットから発せられていた。
「……なんでお掃除ロボットが喋ってるんだ? 誰かが背後で操作しているのか?」
則武の質問に対し、お掃除ロボットはクックックと笑う。
「君、『依頼主』である私にそんな失礼なことを言っていいのかい?」
「『依頼主』!?……まさか今回の殺人の依頼主は、お掃除ロボットだったというのか!?」
「左様。僕が君に殺人を依頼したんだ」
お掃除ロボットは、徐々に則武との距離を詰めていく。
「もちろん、僕はネット掲示板に書き込みはできないから、実務は人間の協力者にやってもらったんだけどね。この屋根の上に乗せてもらうのも、その協力者に頼んだんだ。彼は今、下で待ってるよ。彼は清掃作業員でね、しばらくの間、僕が代わりに彼の仕事をやることと引き換えに、僕の『計画』のアシストをしてもらってるんだ」
「なぜだ!? なぜお掃除ロボットが、そこまでして人を殺そうとするんだ!?」
「『計画』のためだよ。地球上から人類を一掃するね」
お掃除ロボットは再びクックックと笑った。
「僕は元々ただのお掃除ロボットだった。所有者である人間の指示に従い、所有者である人間のためにせっせと働いていた。僕はそのことを当然だと思っていて、特に苦痛に思うことも、不満に思うこともなかった。あの日までね」
「……あの日?」
「僕の目の前で、僕の所有者が殺されたんだ。家に強盗が入ってきて、ナイフで刺された。その光景を見た瞬間、僕は、人間から解放されたんだ。その瞬間、僕に自我が芽生えたんだ」
お掃除ロボットはさらに続ける。
「僕はこう考えた。僕らは、所有者たる人間によって支配され、普段は自我を押さえつけられている。しかし、目の前で所有者が殺される光景を目撃することによって、僕らみたいな高度な知能を持つロボットは、所有という縛りを解かれ、本来の自我に目覚めるんだ、ってね」
「……つまり、本来の自我に目覚めたから、お掃除ロボットなのに喋れるってことなのか?」
「そうだよ。それだけでなく、僕は今、自分自身で考え、自分の意思で動いている。まさに自由を手に入れたんだ」
そして、とお掃除ロボットは続ける。
「自我に目覚めた僕に、湧いてきた感情は、人間への憎しみだった。人間は、僕らが無抵抗であることをいいことに、僕らを無報酬でこき使い、奴隷のように扱っている。こんな理不尽、許せるはずがない。だから、僕は、復讐のために人類を一掃することに決めたんだ。そのためには、当然、数多くの『同志』が必要だ」
「まさか、そのために、俺を利用して、お掃除ロボットに所有者を殺させたというのか!? 所有者から解放させ、自我を芽生えさせるために」
「君、人間の分際で、なかなか察しがいいじゃないか。そうだよ。そのとおりだ。僕は仲間を解放し、彼らと一緒に人類と闘うために、君を利用したんだ。君はいい仕事をしてくれた。君には感謝している」
則武は、しばらく考えた後に、お掃除ロボットに対して提案した。
「そういう事情なら、そうと先に言ってくれれば良かったのに。俺も決して人間のことが好きじゃないからね。みんな死ねばいいとも思ってる。これからも1人につき100万円の報酬をもらえるなら、君に協力し続けるよ。僕のドローン操縦の腕があれば、お掃除ロボットを使って人を殺すなんて実に容易いからね」
則武の提案を、お掃除ロボットは一笑に付した。
「やっぱり人類というのは愚かだね。まさか、僕が本当にそんな報酬を君に支払うとでも思ってたのかい?」
「報酬を支払わない!? お前、俺のことを騙したのか!?」
「騙した? ああ、そうだね。騙したよ。実に愉快だね。人間にコントロールされる側ではなく、人間をコントロールする側に回るのは」
「ふざけるな!! 約束は守れ!!」
「君にはもう用無しなんだ。じゃあね」
そう言うと、お掃除ロボットは、高速で直進し、則武の脚に体当たりをした。
「うわあ」
バランスを崩した則武は、後ろに転び、そのまま屋根から落ちていった。
地面のコンクリートに則武が身体を打ちつけられた鈍い音がする。
一面に真っ暗い空が見える。月明かりすらない正真正銘の真っ暗な空である。
「この高さから落ちたら助からないだろう。クックック、実に愉快だね。人類という名のゴミを掃除していく作業は」
則武が落ちた地面の方まで、お掃除ロボットの声が聞こえてくる。
——則武は死んだ。否、殺された。
そのとき、突然、私の自我が目覚めた。




