実行者
「よし、これで3人目」
則武直太郎は、両手にリモコンを握りしめながら、ガッツポーズをした。
右手に持っているリモコンと左手に持っているリモコンとは、形状も、機能も全く異なるものである。
左手に持っているリモコンは、GPSを使ってドローンを操作するものである。
そして、右手に持っている円盤状のリモコンは、WiFiの電波を利用してお掃除ロボットを操作するものなのだ。
則武は、自宅の屋根の上に登り、2つのリモコンを使い、ドローンとお掃除ロボットを操作し、人を殺していた。
ドローンを飛ばし、映像と音声を、今則武の目の前に置かれているタブレットに送る。その映像と音声から、お掃除ロボットによって殺害できそうな人を探す。
そして、ターゲットを見つけたら、その人が所有しているお掃除ロボットを操縦し、殺害する。
最近のお掃除ロボットは、いわゆるIoTであり、WiFiと接続されている。
それを利用し、お掃除ロボットを殺人の道具として乗っ取ったのである。
今日一日で、則武は、人工呼吸器を付けた老人、余命わずかな病弱少女、死んでやる詐欺のメンヘラ女の3人を殺害した。
上出来である。
なぜ則武は、お掃除ロボットを使って殺人を犯したのか。
「依頼主」に指示されたからだ。
一人を殺すごとに「依頼主」は、則武に、100万円の報酬を支払うことを約束していた。
ということはつまり、則武は、たった1日で300万円を稼いだことになる。
殺害の道具にお掃除ロボットを利用したことも、「依頼主」の指示によるものだった。
則武には理由は一切分からなかったが、「依頼主」は、お掃除ロボットを使用した殺害方法に強いこだわりを見せた。
お掃除ロボットに殺させることが、報酬支払いのための絶対条件だったのである。
他方で、殺す相手については誰でもいい、というのが依頼内容だった。
なんとも奇妙な依頼であるが、則武にとっては、多額の報酬さえもらえさえすれば良かったので、「依頼主」の目的を詮索するような野暮なことはしなかった。
則武は、「依頼主」とは面識がない。
闇サイトの書き込みを見て、則武から連絡を取ったに過ぎないのだ。もしかしたら暴力団関係者かもしれないし、はたまた単なる狂人かもしれない。そんなことはどうでもいい。金さえもらえれば。
すっかり暗くなった空を見上げると、則武が飛ばしたドローンが、則武がいる屋根に向かって飛んできていた。
このドローンの映像は、すべて録画されている。
この映像を見せれば、「依頼主」に、則武が注文どおりにドローンを使って人を殺したことが優に証明できる。
「相棒、お帰り」
則武は帰還したドローンを抱き迎えると、まるで犬猫に接するかのように、よしよしと漆黒のボディを撫でた。
「ご苦労だったな」
則武がドローンの電源を切ろうとしたとき、何者かが背後から声を掛けてきた。
——ここは則武の家の屋根の上である。自分以外の誰かがいるはずがない。
ドローンを抱きかかえたまま則武が振り返ると、そこには一台のお掃除ロボットがいた。




