翁はアルバイトを決めた
見よう見真似でやらかしたことが。
いつかは。
誰にも真似できない技術になる。
◆
「あの、……千さん。本当にいいんですか? おれェ」
「いいさ! 出世したら返して頂戴w」
コートを羽織らせた啄木鳥は。
翁を連れ回して背広一式にコートと買い与えた。
思いがけない行為に翁は戸惑った。
(こんな初見のおれなんかに、っこ、こんなっ。怖いっ! 怖いぃいい~~)
ガクブルで、口をへの字に啄木鳥の後ろに翁はついて行く。
啄木鳥も後ろにいる翁に振り向くと、
「ほら! ほらほらぁ! 着いたぜ~~食事何処にw」
肩に手を置くと店を指差した。
「‼ ぁ、ありがとうございましたぁ~~」
翁が目を輝かせて啄木鳥に礼を言う。
それに啄木鳥も「いいさ。出世したら頼むぜw」と親指を立てた。
大きく頷く翁だったが。
(おれが翁だって知っても、そう言ってくれるのかな?)
訊きたくなった口を、ぎゅっと閉じた。
「あのさ? 俺、君の名前訊いてなくないか?」
ギク! と翁の身体が、顔が強張った。
「ぉ、おれの名前は――……」
言い淀む翁に、
「!? あー~~ッ! ダンマルじゃないか‼」
買い出しから戻って来た叶かなめ子が、袋から手を離した。
落ちた袋に翁は視線がいってしまう。
「本当に来たんだ! 旦那が言った通りになった♡」
目を輝かせる叶を啄木鳥が見て、
「ダンマル君て言うの? 君は」
改めて翁に訊く啄木鳥に。
「尾田ダンマルです」
翁は嘘を吐いた。
「ささ! ぅんじゃま、一緒に働こうな♡」
◆
日中の昼間は食事何処であるが。
夜間では一変して、
「ぅお!」
酒場に変わるのだ。
食事は昼間のものが引き継がれるのは言うまでもない。
啄木鳥は中に入らずに、そのまま手を振って帰っていた。
恐らくは店内がこういう状況だと、知っていたからだろう。
「店内。結構暗いんですね」
「ああ。一応、雰囲気はあるだろう? 客の要望でもあるからなw」
「そういうもんなんですか」
「飲み屋とか行ったことないの? お前」
叶の言葉に翁は顔を横に振った。
「飲めるのかい? お酒は」
それに翁は手を軽く横に振った。
「缶の半分も飲めないんですよ。おれェ」
苦笑する翁に、
「っはっはっは! っほぉらなぁ! かなめちゃん♪」
厨房から顔を出し、翁の顔を確認した百足蝉が駆け足で出向いた。
「私の勘は当たるんだよっ! やぁ、ダンマル君。こんばんわ」
両腕の二の腕を掴むと百足は被り振った。
「で? アルバイトは短期? 長期? それとも――正社員?」
真っ直ぐに見据える百足の顔を。
翁も真っ直ぐに見据え返した。
「っふ、不定期でもいいですか?」
翁の言葉にきょとんとなったが。
噴き出すと、肩を揺らして笑った。
「いいさ。歓迎するぜ、ダンマル君」
◆
「なんだ。こんな夜に行くとか、てっきり飲みに行くかと思ったんだけどなぁ」
煎餅布団に内伏せ、腕を伸ばして携帯を視るミドリ。
横には息子の翡翠も枕に肘を点いて。
「飲めないって書いてあるじゃないか、あいつ」
一緒に視ていて、つっけんどんに声を吐き捨てた。
彼らは。
何も纏わない真っ裸に毛布を乗せている。
まだ4月でストーブを止めて寒く身体を寄せ合っていた。
「あのねぇ? なんでもかんでも視るなんざ行儀が悪いぜぇ? 翡翠君w」
軽く注意されてしまった息子の翡翠は上半身を持ち上げて。
毛布を羽織って立ち上がると、
「父さんに言われたくない、っね!」
リビングに行ってしまった。
ピシャリ! と閉じられる襖に。
「確かにw オイラが言えた義理じゃねぇわなぁ~~……っはぁー~~」
ミドリは顔を枕に乗せた。




