翁は行くことにした
いつも、いつまでも……いつまでも――……
執念は生きる糧となって人を変える。
◆
「っか、っはー~~生き返るぅうう~~」
疲れた翁は庭にある露天風呂に浸かっていた。
翁はキレイ好きではないが。
お湯に浸かることが一番のストレス解消なのである。
宙を見上げれば空があって星も見える。風を肌に感じて気持ちがいい。
こんなに贅沢なことはない。
「今日は。本当に疲れちゃったなぁ~~……おれ、倉庫勤務が無理って分かっちまったらどこに配属されちまうのかなぁ~~荷受け? 仕分け? 配達かなぁ~~?? ぁ、ぅうう~~」
ブクブクとお湯の中に身体を沈ませる翁。
視界は温かく揺れる、夜の色の染まった世界が広がっていて。
目を閉じれば自身の鼓動を感じられる。
ドックン。
ドックン――……
(ま。おれには百目鬼君がいて、双竜さんが仲間にいて。たとえ、同じ土俵にいられなくたって、……いられなくたって……たって、って)
バッシャぁアア! と翁は跳ね上がった。
「いーやーっだー~~嫌だ! 嫌だ! 嫌だっっっっ‼」
顔の左右を手で抑えた。
身体を滑り落ちるお湯のくすぐったさも気にならない程に。
高ぶっている精神は不安定で。
顔面蒼白で、心拍も上昇してしまう。
「おれだって! おれだって! 百目鬼君と一緒に働きたいんだ! 一緒に‼」
翁は浴槽にゆっくりと腰を戻した。
体育座りをして、膝に顔を埋めて悩むことしか出来ない。
そして、思い立ったことがあった。
「おれみたいなの、どこかにいるんじゃないのか?」
どこかで自身のように《変態化》が出来ないが。
騙し騙しとか、誤魔化して従業員をしている人間が、と。
それを知るには、情報が必要。
得るにはと思い張り巡らせた。
「ネットの掲示板、……裏も見よう。あとは――……」
ここで翁は「あ!」となった。
「そっか。アルバイトか、臨時収入で百目鬼君にもご馳走出来るしな!」
拳を握った翁は顔を大きく縦に振り決めた。
思い立ったあとは行動あるのみで。
浴槽から上がるとタオルもそこそこに、部屋の地下にある《骨壺》に乗り込んだ。
行き先は――
◆
ワルツ要塞最大にして最上の中核都市――《カマクラ区》
上品で賑やかなカマクラ区に降り立つと、
「ぇえっと? った、確かこっち、……あっち?」
正規の格好で来たことがない翁は、顔を左右にやり濡れたままの頭を掻いた。
どこがどうだとか。
どうやってあの店に行ったのかが思い出せない。
無気力に無意識で行ってしまったからだ。
そして、ここで翁も思い出した。
便利道具であり、会社からの支給品の携帯電話を。
「あ゛」
しかし、ここで翁は思い出した。
「ぉ、おれの部屋に。残した、ままだっ」
その場に折れ崩れてしまう翁を。
好奇な視線で、行き交う人の群れ。
風呂から直で行動した翁は。
タンクトップで、下はボクサーパンツのままだったからだ。
この明らかな変態な格好を。
翁自身が気づいていなかった。
「ぃ、一旦! っと、取りに帰ろうっっっっ‼」
立ち上がった翁の目の前に。
男が立っていた。
「どうかしたのか? そんな格好でさぁ?」
切れ長の目に長い睫毛、そして整った顔に生える無精ひげが勿体無い。
翁は、彼を見たときそう思ってしまった。
そんな彼に指摘された格好をここでようやく。
見直して翁の口が、大きく戦慄いていく。
「格っこ、お゛ぉうぅうう!」
また折れてしゃがみ込んでしまう翁。
慌ただしい翁の動きに、
「俺は千啄木鳥って者だ。こんな場所に何しに来たんだ? 迷子なのか? ……携帯に地図のアプリ入ってんだぞ??」
苦笑交じりに啄木鳥が羽織っていたコートを翁に掛けた。
紳士的な行為に翁も「すいません。ありがとうごじゃまふぅ」と言う。
手を差し伸べる啄木鳥の手を握り、翁も立ち上がった。
「携帯、忘れちゃって……取りに帰ろうと思ってたんです、おれェ」
「そっか。でも、もう来ちまったんだし。どこに行きたいんだ? 案内してやるよ」
「っけ、携帯貸して頂ければ、……その、あっちの人に確認して行きます、から」
コートで顔を覆い隠して言う翁に、
「で? どこなんだ行きたい場所ってのは」
啄木鳥は煙草を咥えて火を点けた。
「言いなよ」
~ここはる妄想セレクト声優様~
千啄木鳥Cv:うえだゆうじさん イメージです。




