感謝と感謝と感涙と
言わずとした試験の解答は。
全てが曖昧で。
十人十色の頭でしかない。
◆
床に腰を据えたままの翁を見下ろすかのように。
双竜は椅子に腰を据えて翁を見据える。
「あのなー~~? 別に疚しい真似をする為とかじゃねぇかんな!? 勘違いすんなよ??」
煙草の先端を向けて上下に振る。
灰が、ハラハラと舞うのを、翁が視線で追ってしまう。
なんの反応も返さない翁に双竜も。
っふぅうう~~と白い煙を吐いた。
特別授業:③ 《翁》講座 臨時講師 群青双竜
「制御が出来なくなるっつぅう。初期化設定後のMAX発動で完全覚醒を武器に行えることが出来る翁ってのは。誰もがうらやむこったぜ? どんな攻撃にも反応以前に、無敵になんだかんな。それが行えるのは唯一の翁一族だけだ。だが、それは《恐怖》でしかないのは確かだろうさ。最悪、倉庫が死体で溢れるかんな、……だが。そうならないようにする方法を、私は考えたって訳だ」
そう言うと双竜は背中に手を回し。
A4用紙ほどのタブレットを出し。まるで石板のように翁は見えた。
翁の目がタブレットと双竜に視線を向ける。
「こ、これは一体なんなんですか? 双竜さん」
「私が趣味で集めた《武器記録》が、こん中に凝縮されて入ってんだ。武器の性質に、能力のよしあしやLv.順における性能が記されてんだよw つまりは、このタブレットは君にとっての《教科書》になるってことなんざぜ? 全従業員の武器が載っていて、一切の漏れはないはずだ。新作が出たら誰よりも早く耳に入るし、こっそり教えてもらってるんだぜぇ!」
喜々として翁に双竜が告げる言葉に。
「こ、の中に?」
タブレットに手を伸ばした翁に双竜が手渡した。
受け取ったタブレットの液晶に触れると、
――ようこそ! ワルツへ!
中にはラッコのマスコットが手を振っていた。
それは明らかに双竜が創ったキャラクターのだが。
気配りと優しさを翁が分かるはずがない。
食い入るように魅入った翁に、
「そいつを君に貸すぜ。そして、学ぶんだ――《翁》を超えろッ!」
双竜が両肩に手を置き、激を飛ばした。
「く、くれんの?! っこ、このお宝をッ」
「貸すんだよ! 貸すんだっつぅ~~の‼」
「双竜さぁ~~んンん♡♡」
嬉しさに翁は双竜の首へと腕を回して抱き着いた。
その勢いに「っぎゃ!」と椅子から翁へと倒れてしまう。
しかし、それでも腕に力を込めて翁は。
双竜の肩に顔を埋めていた。
「い、ってぇ~~つぅのにw 莫迦野郎wwww」
◆
落ち着いた翁は、一切の機械系が苦手な人間である為。
双竜とベッドに背中を預けて教わっていた。
だが、流石に双竜も時計を見ると帰って行った。
『明日も来るかんなぁ』と言い残して。
1人になった翁は双竜が残した、説明書の紙にも目を通す。
部屋に付属されている机へと向かい。
頭を掻きつつ、膝の上の落下の頭を撫ぜる。
「なんか。思い出すなぁ、前の職場w」
翁の前の倒産する前の職場は図書館だった。
決して大きくもなかった場所で、恋人は同僚で。
職場を失うと、結婚を約束した恋人は消えてしまっていた。
なんの別れの言葉もないままに。
「……やっばぁ~~萎えたー~~っっ!」
ラッコの人形を机の上に置くと顔を乗せた。
彼女は高校での寄宿舎からの一歳上の先輩で。
どうして翁が選ばれたのかが全く分からない程に、学校での人気者だった。
あの職場には、その先輩の紹介でもある。
そして、長い交際期間を経ての、念願の結婚というときにだった。
不幸に見舞われた訳だ。
そんな折に、長年未連絡で疎遠になっていた実家から連絡があった。
番号を知った経緯は恐怖でしかない記憶は、まだ、新しい。
電話の先の主は――翁頭首でもある雫だった。
◇
――『職先がなくなったりましたらしいなぁ? 一度、実家に戻り再出発されまし。安心するへ。貴方の罪は赦されたへなぁ』
◆
顔すらも翁は思い出せないのだが。
おっとりと、芯のある口ぶりには記憶がある。
「思い出すな! 馬場翁ぁあ! 忘れろっ、忘れるんだよっ‼」
ラッコの人形を膝の上に戻した。
「今のおれに過去なんかないっ!」




