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義務

 国王としての立場上ユラスは剣を振るう機会は無くなったが、彼は戦闘においてもそれなりの才を持っている。

 さすがに鬼族の翡翠と比べれば劣るものの、一般基準と比べるとその腕は熟練者と同等だった。

「ズア!」

 剣の一線が閃き、相対していた魔族は地面へと沈む。

 これで最後、操り人形を含めると十体とまずまずの戦果だった。

「ふう」

 戦闘がひと段落したユラスは剣を下ろす。

 久しぶりに激しい動きをしたためか、もう息が上がっていた。

「だいぶ軟になった。これは鍛えなおしだな」

 と、ユラスは己の不甲斐無さにクツクツと笑ったとか。

「しかし、こいつらは高位の人物だな」

 ユラスは眼前の倒れ伏した魔族の衣装を観察する。

 目算二、三メートルある身長に枯れ木を連想させる細さ。

 青白い皮膚を隠すように黒いローブを羽織っている。

 通常なら飾り気のないシンプルな作りだが、ユラスが屠った魔族は様々な呪印や装飾が施された立派な代物だった。

 恐らく長老かそれに近い身分の魔族だろうとユラスは推測する。

「まあ、詮索はあとでいい」

 我に返ったユラスは首を振り、当初の目的を思い出す。

 今は奥の部屋から発せられる禍々しい空気を放つ根源――魔鏡台を破壊しなければ。

 ユラスは深呼吸を数回行って息を整え、警戒しながら奥へと歩を進めた。

 だだっ広い空間である。

 サンシャインの王宮の謁見室ほどあるのではないかと思うほどの広大な場所。

 天幕は日光を完全に遮断し、代わりの光源となる緑の炎に照らされるは血色のカーペット。

 祭壇を模した作りであろう、階段を登り切った果てにある中央に魔鏡台があった。

「一人か」

 この空間にいるのは魔族であろう人物ただ一人。

 ユラスと魔鏡台の中間にする位置、階段の最中に魔族が立っていた。

「……」

 その魔族は顔面を包帯で巻いているせいか表情は分からない。

 が、その隙間から除く瞳からは激しい怒りが浮かんでいるのをユラスは確認した。

「その傷は……」

 あくまで自然体。

 眼前の魔族を盟友であるヘレン宰相であるかのようにユラスは肩の力を抜いて歩を進める。

「俺の予想が正しければ、夢の中に現れて酒を勧めてきた奴か?」

「――ご名答」

 傷を負っている魔族はゆっくりと頷く。

「わが名はドーロ=イクスダス。魔族を統べる者、そしてレルムント地方の調停者」

「魔族のトップ直々に術をかけてきたのか、光栄だな」

 様々な疑問を胸に隠してユラスは嗤う。

「まあ、結果はご覧の通りだが」

 お前よりも俺が優れている。

 そんな優越感をユラスは隠そうともしなかった。

「好きなように言え」

 ユラスの挑発にドーロは乗らない。

「異端者である貴様に何を言われようとさざ波すら立たんわ」

「奇遇だな、俺も同意見だ」

 意外にもユラスは同調する。

「世界の真理について何も知らん輩にあれこれ言われようとも全く気が咎めん。むしろ無知なことに憐みの念すら覚える」

 階段に差し掛かってもユラスは歩みの速度を止めようとしない。

 だらりと下げた右手の先の剣が妖しく光る。

「クックック、まさかここで私の理解者に出会えるとはな」

 ドーロは一瞬目を見開いたものの、ユラスの嘘偽りなき眼光を確認すると一転喉を鳴らす。

「だが、悲しいことに私とお前とでは手を取り合って道を歩むことは出来そうにもない」

「当然だ」

 ドーロの言葉にユラスは肯定する。

「生物を見下す思想と生物を尊重する思想――どこをどうやったら共存など出来る? いや、ありえんな」

「全くだ、それこそ神でも不可能だ」

 この時ユラスはドーロと、そしてドーロもユラスの心境を理解していた。

 互いに己こそが正義という信条。

 その共通点ゆえに相互理解が進むのは一瞬であった。

 そして、だからこそ。

「さて、ドーロよ。俺がここに来た理由を知っているな」

 ユラスは剣を携えた右手を持ち上げる。

「お前の信条の根本であるその魔鏡台を破壊させてもらうぞ」

 共存など不可能であり、どちらか一方が下りるしかないと分かり切っていた。

「ユラス=アルバーナよ。そう簡単に破壊できるかな?」

 ドーロは抵抗する素振りを見せない。

 いや、出来ないというべきか。

 元々魔族は戦闘が不向きなうえに、ユラスが術を破ったことによる反動でドーロは満身創痍の状態だった。

 もし万全なら野外での戦闘に加わっていただろう。

 本拠地とはいえ、ここまで侵入された時点でほぼ詰みの状態だからである。

「我々魔族が悠久の時をかけて祈ってきた魔鏡台――その念を甘く見ん方が良いぞ」

「忠告感謝する」

 ユラスは剣を振り上げる。

「破壊する瞬間を地獄で見ておけ」

 その言葉と同時に剣が閃き、ドーロは何も言わぬ躯と化した。

「さて、と」

 ドーロを含め、数多の血を浴びて鈍ら同然と化した剣をユラスは放り投げる。

 カランカランという音を聞きながら彼はバロッサから受け取った金槌を持った。

「……美しい」

 真正面に立ったユラスは、魔鏡台に映された景色に思わず感嘆の声を上げる。

 不気味な印象しかない景色なのに、この魔鏡台を通すとたちまち桃源郷へと変わる。

 強情な者であろうとも、この景色に恋をし、無味乾燥な世界を幻想世界に変貌するこの鏡を愛するだろう。

 魔族を悠久の時の間魅了し続けた鏡。

 その歴史に恥じない価値を秘めていた。

 が。

「悪いが、それはそれだ」

 ユラスは前代未聞の偉業を成し遂げる英雄。

 その英雄の前には至高の魔鏡台でさえただの踏み台に過ぎない。

 にやりと笑ったユラスは金槌を振り上げ、そして躊躇なく鏡を割った。



 カナリア地帯平定。

 その報せはサンシャイン国のみならずレルムント地方全ての人に驚きを与えた。

 人外魔境の地方――カナリア。

 不可能な事柄に挑むことを、カナリア地帯を討伐するようなものだという格言があったぐらいレルムント地方の人々にとっては不可能の象徴だった。

 その地帯を制圧したユラス=アルバーナ。

 彼の名声はレルムント地方全体に響き渡り、その地位をゆるぎなきものへと変わった。

「いやあ、凄いよ凄い」

 王宮にてヘレンはパチパチと拍手を送る。

「まさかこんなに早く目的を達成してくるなんて……さすが英雄といったところかな?」

「不思議だ、お前の賛辞は何故か胡散臭く聞こえる」

 ヘレンの言葉に対してユラスはそう首を傾げる。

 相手の言葉を信じられずに疑う。

 疑われた方は通常だと気分を害するのだが。

「アハハハハハ! いつものユラスだね。魔族に操られてなくて何より何より」

 何時ものことなのでヘレンは笑い飛ばして終わった。

「まあ、俺としてもこう簡単にけりがついたのは驚いた」

 まさか魔族の里を制圧しただけで、他の里もこぞって恭順の意を示すとか。

 言語の通じない反抗的な里でさえ投降したことから、どれだけ魔族がカナリア地帯において畏怖と恐怖の対象だったか理解できるだろう。

「けど、おかげでカリス国の反抗も弱くなってくれたよ」

 魔族の里ないしカナリア地帯を制圧したユラス=アルバーナ。

 カリス国の住民でさえユラスを英雄だと称え、そんな彼を敵に回すのはあまりに危険だと感じた抵抗勢力は影を潜めた。

「だが、根絶したわけではないのだろう?」

 あくまで影を潜めただけ。

 隙あれば再び表舞台へと湧き出てくるだろう。

「まあ、そこは私の腕の見せ所かな?」

 なんでもない風にヘレンは己の頭をつつく。

「追い風が吹いている今の内に必要な手を打っておくよ」

 ゲリラ対策を気楽そうに言い放つヘレン。

 一体このエルフの脳内には如何なる智謀が渦巻いているのだろうか。

「任せる」

 底が見えないヘレンだが、辿り着く目的は同じ。

 それゆえユラスは全面的にヘレンを信頼し、これ以上追及することはなかった。

「本来ならユラスの出番はしばらくないはずなんだけどね」

 カリス国を併呑し、カナリア地帯を制圧したサンシャイン国。

 最優先事項は新たに増えた領地をどう統治するかであり、侵略準備は後回しにされるのが通常である、が。

「滅ぼされたよ」

 ヘレンは声の調子を少し硬くして。

「商業国家バズワール」

 バズワールは商業国家とはいえそれなりの軍備を持っている。

 油断や慢心があったのならともかくそう簡単に滅ぼされる国ではないが。

「ダースベール帝国が魔導騎士団を真似た軍団を大量に創り出してね。向こうは為すすべなく全ての都市を陥落させられたんだよ」

「……」

 ヘレンの報告にユラスは厳しい視線を空へ投げかけていた。


「……」

 自室にてユラスは沈黙を続ける。

 眉間にしわを寄せ、思考をフル回転させている。

「魔導騎士団の劣化版か……」

 ユラスの手元にあるのはさらに詳細な報告書。

 どのようにしてバズワールは滅ぼされたのか、が詳しく記されていた。

「少なくとも十単位、五百の魔導士がダースベール帝国の手元にある」

 単純計算として数は十倍。

 反抗するには絶望的な数である。

「が、報告書を見る限り質は相当悪いな」

 十の魔導騎士団の中、まともに機能したのはその内二、三。

 どれだけの魔導士が自爆したのか、軍全体の損耗率も四割と酷過ぎた。

「しかし、目的を達成したのは事実だ」

 幾ら被害が多かろうと勝ちは勝ち。

 褒められこそすれ貶す云われはない。

 問題なのはここまで敵味方に被害を与えておきながら平然としている帝国の指揮官に問題がある。

「ジャイロ=ウィザード……やはり奴か」

 ユラスを試した不遜な輩。

 幾ら冷血漢が多い帝国といえども、この悪魔じみた所業を成し遂げられる輩はジャイロ一人しかおるまい。

「さて、どうするか」

 ユラスは深く思索へと沈む。

 大量の魔導騎士団の劣化版。

 どうやって攻略するか、それにユラスは全神経を集中させていた。

「戦術を日常に置き換えると一日の過ごし方、そして戦略は一か月と呼ぶことが出来る」

 サンシャインの元王都――ケイスケ。

 教育都市へと名称が変わり、王宮そのものが学舎へと変貌したこの場所。

 謁見室を講義場へと改造した場所でユラスは熱弁を振るっていた。

「如何に優れた月間目標を立てようとも一日一日が敗北していれば達成など到底不可能。戦略に比べれば戦術など優先順位は低いが、だからと言って軽んじることは出来ない。ましてや敗北など許してはならない」

「質問です、アルバーナ先生。敗北とはどういう意味でしょうか?」

「良い質問だ。今回における敗北とは、単にやらなければならなかった事柄をやらなかったことではない。途中で横やりが入ることが当然だからな……ここにおける敗北とは優先順位を取り違え、低い事柄を先に終わらしたにも関わらず高い事柄を残してしまえば敗北だ」

 例えば優先度の高い順にA、B、C、D、E、Fの六項目があったとする。

 予定通り進めば全てを順当に消化できるのだが、途中に邪魔が入って三つしかできなくなった。

 その時、AからCまでを終わらせれば勝利、それ以外は敗北である。

「戦場でも政治でも日常生活でも何でも全てには優先順位がある。時間がある場合、全ての事柄を終わらせて当たり前。勝者と敗者を分ける境は、時間がない場合に優先順位を間違えず、上から出来る範囲で消化していった者が勝者で、出来なかった者が敗者だ」

 ユラスの話は日常生活を例えて話すので非常に分かり易い。

 まだ親離れの出来ていない者であろうとも納得したように頷いていた。

「追記すると、俺のような人物になるには、一日一日を勝利し続けること以外ありえない。何故なら俺の中で胸を張れるのは、単に戦闘に勝利し、敵をどれだけ屠ったかではなく、一日を完全勝利で終わらせた数が多いことだからだ」

 実体験に基づく話ほど説得力があるものはそうない。

 授業当初は、ユラス王直に教えてもらえるということで緊張しきっていた生徒達の表情が現在だとほとんど解き解れていた。

「さて、次の話題に移ろうか」

 皆が大体理解したと感じたユラスはサンシャインの歴史について話そうとする。

 黒板の前まで移動し、生徒の面々を見まわした彼は話そうと口を開いた瞬間。

「王よ! 貴方はいったい何をしているのでしょうか!?」

 扉が大きく開け放たれ、顔を真っ赤にしてそう叫ぶはフレリア=ヴァルキュリア。

 相当急いできたのだろう、白磁のような肌には汗が流れ、美しい金髪も乱れていた。

「フレリア、見れば分かるだろうが」

 何を言っているんだという表情でユラスはそう答える。

「教室という場所において俺一人が立って話し、他の聴衆が聞き入ってメモを取る様子を授業と言わずに何と呼ぶ?」

「そんなことは些末なことです! 何故王である貴方がここまで足を運び、未熟な者達に教える必要があるのでしょうか!?」

「馬鹿かフレリア? この国は教育国家だぞ? 国家の全ては教育のためにある国だ。ゆえに王だろうが何だろうが教育機関からの要請は必ず従わなければならないんだ」

 今、ここでユラスが授業を行っているのは、偏に生徒からの要望があったから。

 カリス国に引き続き、カナリア地帯までも制圧したユラス。

その彼に一目会いたいと熱望する生徒達が運動を行った結果、レンカを長とする教育機関が動き、ユラスは新王都からやってきた。

一つの学生運動が一国の王を動かす。

封建主義のこの大陸においてそんな理論が成り立つのはサンシャインだけであろう。

 ユラスからすれば十分納得している理論なので別段文句なく従った。

「やはりおかしいです!」

 が、トート国で生まれ育ってきたフレリアには理解し難いのかありえないとばかりに首を振って否定している。

「はあ……レンカ。お前も何か言ってやれ」

「え?」

 ユラスはそう実質国のトップたる盟主にそう振る。

 まさかレンカ自身がここにいることなど夢にも思わない恋歌は驚愕の表情と共にユラスの視線の先を追いかける。

 全座席が埋まった中、ぽっかりと空いた一つの席。

 空席かと思いきや、その机から少し離れた場所にペンがあり、それを拾おうと机の下から必死に伸ばしている手があった。

「……まあ、レンカらしいな」

 何とも言えない沈黙の後、ユラスはその机の前まで歩き、ペンを取ってやる。

「ありがとうございます」

 机から顔を出したレンカはそうユラスに礼を述べる。

 手をバタバタさせていた人物と、同一人物とは到底思えない。

 それほどまでふてぶてしい、ある意味超然とした態度だった。

「最初は俺も『何だ、この小娘は?』と考えていたのだけどな」

 ユラスは過去を思い起こすように遠い目をして。

「接し続けるうちに悟った。ああ、レンカは不動の人物なのだと」

 例えるならパラパラ漫画。

 その漫画の一コマ一コマは高速で動かすと連続しているが、実際は全てが独立したコマ。

 つまりレンカも、ある場面でドジを起こそうとも、次の場面にはその片鱗すら匂わさない。

 要約すると縁に奮動されない人物。

「中心に据えておくのにレンカほど適切な人物はいないというのが俺とヘレンが達した結論だ」

 確固たる存在だけでいうとレンカはユラスをも上回る。

 そのことはしばらく彼女の近くにいたフレリアでも分かる。

「はあ……って! そうでなくて! 何故王よりも教育者の方が偉いのかが問題なのです!」

 論点をずらされたことに気付いたフレリアはいきりたって喚く。

「授業中だ、静かにしろ」

 今はユラスの授業真っ最中なことを指摘するがフレリアは聞く耳を持たない。

「……翡翠、こいつを連れ出せ」

「御意」

 ユラスの命により、いつの間にか傍に寄っていた翡翠がフレリアを羽交い絞めにする。

 人間より膂力の高い鬼族。

 フレリアが抵抗らしい抵抗が出来ず、退場していくのは自明の理だった。

「さて、授業が中断したな。すまない――ここで皆に聞くが、時間通りに終わらせるよう短縮するかそれとも延長するか……どちらが良い?」

「「「「「えんちょーー」」」」」

「うん、そうか」

 生徒達の揃った返事にユラスは大きく頷く。

 その後、ユラスは刻限が過ぎようとも授業を終わるようなことをしなかった。


 授業後。

 ユラスはフレリアと翡翠を伴い、学園都市を歩いていた。

 この三人は知名度が高すぎるせいか周りの民衆は彼らを指さして噂している。

 この三人の実績を鑑みると人だかりができてもおかしくないのだが、何故か皆遠巻きに眺めるだけで、立ち止まり、三人の行く手を遮ろうとはしなかった。

「我が王は随分と余裕だな」

 皮肉たっぷりにフレリアはそう毒づく。

「明日にでも帝国が攻め込んでくるのに、当の本人はこうして講義とか」

「……」

「止めとけ、翡翠」

 剣呑な気配を放ち始めた翡翠をユラスは制止する。

「今、ここでフレリアを力で押し込めても意味がない」

「つまり時と場所が違えば力を使うと?」

「もちろんだ、その方が手っ取り早いしな」」

「……」

 ユラスのあっけらかんとした答えに身を引き締めるフレリア。

 やはりユラスは戦いが好きな修羅の化身だとフレリアは納得した。

「お前が何を思っているかはどうでも良いが、誤解は解いておくぞ……見ろフレリア。お前の眼には何が見える?」

「何とは……町を行きかう市井の人々だが」

「そうだ、活気溢れる生きている街だ。こんな光景などトート国ではお目にかかれなかっただろう?」

 ユラスの質問にフレリアは唇をかむ。

 彼の言う通り、トート国時代にはこんな光景など作れなかった。

 見た目上は活気があるもののどこかよそよそしい。

 それは身分や年齢といった目に見えない鎖によって民衆を縛っていたからである。

 囚われた者と囚われていない者。

 どちらが幸せなのかなど、論じる必要すらないだろう。

「この光景を創り出すには想像を絶する苦労があった」

 ユラスは遠くに目を向けながら続ける。

「そして、維持し続けるにも相応の労力が必要なんだ」

「それが王自ら講義を行うということか」

 フレリアの問いにユラスは頷く。

「学生の総意は絶対――例え王であろうとも逆らえない。学生ないし生徒が最も上、正確には学び続ける者が至高の存在だということを知らしめるにはどうしても必要なことだ」

 王を裁けるのは学生だけ。

 例えユラスがある事柄についての説明責任を拒否したくとも、学生の総意ならば許されない。

 その常識こそがサンシャイン国の根幹だった。

「帝国に敗北しても最悪国が滅びるだけだ。民衆ないし思想は残る。が、学生が最も上という常識を破ってみろ、例え帝国に勝利しようとも必ずサンシャインは崩壊する」

 理念を失った国など近い内に内乱や内部分裂が起こるに決まっている。

 その事態を避けるためにユラスはこうしてケイスケまで赴き、学生相手に講演を行っていた。

「もし……学生が大陸統一に反対すれば、お前はどうするつもりだ?」

「どうもこうもしん。大人しく受け入れるつもりだ」

「納得出来るのか?」

「民主主義の国に住む者は多数決での決定に逆らえず、王制を敷く国に住む者は王の決定に従う。学生第一を置いている国に身を置いている以上、学生の決定は絶対だ」

 それがユラスの答え。

 己の生殺与奪は学生の手にある以上、彼らの要求には最大限応えなければならない。

「とんでもない足かせだな」

 フレリアはユラスの状況をそう評するが、ユラスは気にしないとばかりに笑って。

「なあに、デメリットだけ見るとそうなるが、メリットに目を向けるとそうでもないぞ? 特に人材に関しては捨てる程豊富だ」

 不利を補うほど余りある利点。

 それは人材の多さ。

 ユラス達首脳陣がいくら無茶な命令を出そうともそれに適応し、期待以上の成果を出してくれる。

 トップダウンだろうがボトムアップだろうが両方とも対応できる人材を多数揃えている。

「こんなにも優れた人材が多いんだ。多少の窮屈さは我慢できるさ」

 不満はあるけれども、それ以上の満足度がある。

 ゆえにユラスはこの仕組みを変える思惑など毛頭なかった。

「さて、そろそろ時間だな」

 何事もなければ迎えの馬車が来る。

 ユラスはそれに乗って王都まで帰還する予定だった。

「フレリア、学園都市の治安は任せたぞ」

 ユラスは彼女の眼を見ずそう頼む。

「お前がいればここは守れる……そう、例え俺が死のうともな」

「え?」

 フレリアは先ほどユラスが不吉なことを呟いた気がした。

 なので尋ねようとしたが、ユラスはさっさと歩き去ってしまい、ついに聞く機会がなくなってしまった。


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