喪失
「あの猪突猛進の馬鹿を連れ戻せ!」
戦場中、ユラスの命令が伝令兵に伝えられる。
「ミランに重装甲兵の部隊を与えよ! そしてキルナは中央を重点的に機動防御!」
「はいっ!」
返事こそ威勢が良いものの命令を受けた兵はユラスの言葉を今一つ理解できていないようだ。
その証拠に、前線へと向かう後姿は疑念に満ちていた。
そうだろう。
何せつい先ごろ戦端が開けたばかり。
実際に戦っている兵は数人にも満ちていなかった。
そんな状況で、中央に控えているレラクを引き戻すという命令。
混乱するのも無理はないように見えた。
が、伝令兵が前線に辿り着いた時、彼はユラスの真意を理解する。
「行くぞ! 道を作る!」
レラクがそう息巻きながら最前線へ向かおうとしていたからだ。
運悪くリーエンノールはその場にいない。
「レラク大将! ユラス陛下からの命令です! お止まり下さい」
「え? ……分かった」
突然の中止命令に驚いたものの、それがユラス直々だと聞くと素直に従う。
「そして、ミラン中将に中央の指揮を任せろということです!」
「ミランを! 何故!?」
しかし、次の命令にレラクは目をむく。
開始早々指揮権剥奪。
レラクはその事実を容易に受け止められそうになかった。
「私の独断になりますが! 今は攻めるべきではないという判断かと!」
伝令兵は叫ぶように伝える。
「この地形! 坂になっており、我等は下の方に位置しています! もし騎馬といった突進力のある部隊が来られたら我らは著しく不利になるでしょう!」
「なるほど! そうか! だからミランか!」
レラクは得心がいったように頷く。
堅実な防御を得意とするミランなら一歩も引かずに応戦できるだろう。
防御に優れている分攻撃に難があるが、今回はそれでよいと。
さっそくレラクはミランを呼び寄せ、前線の中央に配置した。
「はてさて、どうなることや――」
ミラン率いる重装甲兵部隊が展開し終えたと同時に敵軍の中央がパッと割れる。
そこから飛び出したのは騎兵、しかも突撃に特化した重騎兵。
あんなものを食らえばただでは済まない、最悪修復不可能な大穴を空けられる恐れがあった。
「予備兵! ミランの元へ移動しろ! 絶対に穴を開けるな!」
反射的にレラクがそう命令を出したのは当然ともいえた。
「――時折私は陛下が未来視の魔眼を持っているのかと思う時があります」
ユラスの傍に立つステラステラは目を見開いて感嘆する。
「ヘレン宰相やレンカ教育長の力など借りずとも、一人で大陸統一できるのでは?」
「馬鹿なことを言うな」
ユラスは呆れたように首を振る。
「戦場における洞察力を極限にまで高めた結果だ。言うなれば人より少しだけ先読み出来るに過ぎない。ヘレンやレンカはもっと遠くまで見渡せるぞ」
これは謙遜でもなく、本当の事実。
ユラスが出来るのは戦場の推移など目で見える範囲の予測。
戦略的予測が可能なヘレン。
歴史的予測が可能なレンカ。
その二人には遠く及ばないことをユラスは自覚していた。
「そんなことよりも……ステラステラ! 第二軍に伝達! 敵の重騎兵が飛び出した箇所を攻めろ!」
すぐさま思考を切り替えたユラスは更なる命令を下す。
戦場は動いている。
高速で回るルーレットのように刻々と変化する。
ゆえにユラスはミランが部隊を展開し終えたと同時に更なる命令を隣にいるステラステラに下した。
「は、そのように伝えます」
命を受けたステラステラは早速死霊を使って第二軍の兵に伝達する。
タイムラグがある第一軍と違い、すぐさま命令を浸透させることが出来る第二軍はユラスの切り札に近い。
命令を下してから数分後には、もうその場所へ移動を開始し、そこに近い位置にいた部隊はすでに攻撃を始めていた。
「……妙だな」
戦場は全体的にこちらの優勢で進んでいる。
重騎兵部隊の突進による被害は軽微に抑えられ、逆に飛び出した箇所に大きな風穴を開けた。
無論敵の愛国心は半端なく、何度も突撃しようとも決定的な勝利に至らない。
そのまま夜へ突入し、第四軍に命令を出して奇襲し、さらに向こうの奇襲を察知したのでほとんど寝ていないだろう。
睡眠不足は侮れず、前日の疲労も相まってもう間もなく中央が崩れるだろう。
予備兵力もすべて投入した全軍突撃で決着。
波乱があったのは最初だけ、中盤以降はユラスのシナリオ通りに進んだが、何か引っかかるところがあった。
簡単すぎるのだ。
数の彼我があったとしても、ここまで容易に事が進むだろうか。
進行上、何かとんでもない落とし穴がある嫌な予感がユラスを襲っていた。
「マーカス=マレラント……か」
そう呟いたユラスはマーカスという人物を考える。
彼は生粋の軍人ではない。
戦術でなく戦略を主とする政治畑で育った。
戦のいも理解していないど素人ゆえに、この結果はさして驚くべきことでない。
問題なのは、政治家であるマーカスが武力だけで立ち向かおうとするだろうか。
もしユラスがマーカスなら、政治畑で培った経験を活かすだろう。
「何だ? 俺の予想を覆す手段は?」
と、そこまで考えたユラスに急を報せる兵――第四軍の一飛行兵が空から飛んできた。
「も、申し上げます!」
飛行兵は咳ききった様子である言葉を口にした。
「妙だね」
時は少し遡り、場所は本陣の中。
戦況の推移を見守っていたヘレンは、ユラスより先に胸騒ぎを覚えていた。
「この程度で決着がついてしまう輩にサンシャイン軍の大将が翻弄されるのかな?」
マーカスはあの腹黒いフランドールを見事出し抜いた。
そして、ステラステラも危うく騙されそうになった。
そんなマーカスが簡単に敗北しようとしている。
「何かあるね」
同じ穴の狢であるヘレンはマーカスの思考を追いかける。
この状況。
クーデターを起こしたので更なる増援は期待できない。
しかも強引な手段ゆえに国民の反発は必至。
帝国の心境は、マーカスよりもユラスに靡いていた。
「ユラスの方が救世主。どう見てもマーカスが勝つとは思えない」
帝国の中にマーカスの味方はいない。
どう見てもユラスの勝利だ、が。
何の気なしにヘレンは地図を見上げる。
そこには通ってきた進軍経路とボルトマン帝国、そして現在の地点が記されている。
今の地点は国境に近く、十数キロ先にはとある同盟国の範囲であった。
「っ、そうか!」
その同盟国の盟主を知ったヘレンは全ての謎が解けたとばかりに立ち上がる。
その顔に普段の余裕はなく、切羽詰まっていた。
ヘレンが血相変えて本陣を出たところで、先にユラスの下に飛行兵が降り立っていた。
「不明の部隊がこちらに接近中! フランドール様の予想によりますと騎士の国、セイルバインの部隊です!」
騎士の国、セイルバイン。
最強の武力を要する国の一部隊が真っ直ぐユラスのいる本陣を狙っていた。
「至急方円陣を固めろ!」
ユラスが硬直したのはわずか数秒。
次の瞬間には矢継ぎ早に命令を下していた。
「兵力が足りません!」
中級指揮官がそう叫ぶように予備兵力を攻撃に回した今、本陣には僅かの兵しか残っていなかった。
「これか! ……このために重騎兵を序盤に投入したのか!」
ユラスは周囲が怖気づくほどの表情で歯噛みする。
もし重騎兵を向こうが温存していたのなら盾である重装甲兵を出すことはなかった。
攻撃が止んだ後、即刻下がらせば良かったという後悔がよぎるが、すぐに打ち消す。
マーカスは重装甲兵を前線に縛り付けるためにありとあらゆる戦術を仕掛けており、そこまで頭が回っていなかった。
ユラスは頭を上げると、第一軍が狼狽えている様子が目についた。
恐らく本陣へ戻るか否か迷っているのだろう。
「第一軍に伝達! そのまま攻撃を続行! 戻ってきたら殺すぞ!」
雷鳴の如き大音声が響き渡り、伝令兵は転げるようにしてその場から去る。
「我々も防御に回りましょうか!」
非常事態にマージルードの声にも焦りが見える。
攻撃に特化した第三軍を防御させる運用など普段なら絶対しない。
しかし、今回ばかりはやむを得ないと考えたところでユラスは電撃に打たれた様に硬直する。
「マージルード! ヴァイスガール! お前ら二人は第三軍を率いて即刻撤退しろ!」
「え?」
「はあ……」
ユラスの突飛な命令に混乱する二人。
「セイルバインの目的は第三軍の壊滅だ! 奴らは少しでも多く第三軍に被害を与えるためにやってきた!」
マーカスが手引きしたとはいえ、大軍団をセイルバインが送り込めるはずがない。
もしユラスなら少数精鋭でいく。
そして、少ない人数で成果を上げようとするなら目的は自ずと絞られた。
「ここで第三軍を失うわけにいかない! 一兵たりとも奴らに渡すな!」
ユラスの思考は的を得ていただろう。
だが、彼は肝心なことを忘れている。
「陛下! 貴方の身はどうなるのでしょうか!?」
マージルードの言葉通り、そうなるとユラスが危険に晒されることになる。
「ここは我らを犠牲にしても陛下を守るべきです!」
王手飛車取り。
ユラス達首脳部か、それとも第三軍か。
捨て身のマーカスは極限の選択をユラスに突き付けてきた。
「安心しろ! 俺は死なん!」
ユラスは胸を張る。
「これはマーカスが仕掛けてきた試練! これを乗り越えん者が大陸統一など片腹痛い!」
どうやらユラスの中では、この窮地を越えるべき試練と考えているようだった。
「しかし……」
「王の命令だ! 口答えは許さん!」
なおも言いつのろうとするマージルードの弁を遮るユラス。
「さあ! 分かったら早く行け! もたもたしてたらセイルバインの代わりに俺がお前を殺す!」
「はいっ!」
「……承知しました」
ユラスの怒気にヴァイスガールは直立不動で、マージルードは渋々応えその場を去った。
「翡翠に連絡! 至急第二軍は本陣へ戻れと!」
「すでに出しています!」
ステラステラの返信にユラスは満足げに頷く。
「良いか! 精強なる我が軍よ! この大陸の主は誰なのか! それを奴らに叩き込め!」
最後のユラスの叫びに、誰もが身を震わさずにいられなかった。
騎士の国、セイルバイン。
豊かな穀倉地帯の上に立つその地域からは豊富な農畜産物が取れる。
そのため国民の栄養状態は大陸でもトップクラスであり、体格も平均より上回っている。
セイルバインの強みは武力。
正確に述べるなら、兵の一人一人が大柄で屈強な体躯であることである。
「でやああああ!!」
セイルバイン国兵の一撃でサンシャイン国の盾や腕、果ては胴体が飛ぶ。
怪力とも形容できる膂力から繰り出される一撃に、サンシャイン軍の兵が数人空を舞った。
迫りくる死の恐怖。
如何に訓練を積んだ近衛兵といえども、セイルバイン国の攻撃に怖気づいても仕方ない。
が、現実には誰一人として逃亡する様子は見せていない。
二人組のペアを組んでいるがゆえ、一人だけ逃亡するのは気が引ける心理状況なのと。
「恐れる必要はない! 奴らセイルバインも人間だ! 剣を突き刺せば死ぬ!」
名物、ユラスの鼓舞によって士気を極限にまで高められていたからだ。
ユラスは旗を持ち、味方を激励するのは大きな効果がある。
しかし、反面敵に己の位置を報せてしまう欠点がある。
セイルバインの数は少ない。
当初は第三軍を狙う予定だったが目標を変え、ユラスめがけて突進していた。
「ほら! この通り死ぬだろ!」
ユラスは襲い掛かってきた二人のセイルバイン兵を斬り伏せてアピールする。
兵の士気は上がったが、それ以上の兵がユラスへと殺到していた。
「うぬ、くそっ」
己を襲う敵兵が多くなり、ユラスの顔に苦渋が浮かび始める。
このままだとやられる。
ユラスは死を覚悟した時、後方から矢が飛来し、敵兵を討ち取った。
「大丈夫―?」
「お前か」
気の抜けた声音で現れたのは弓を番えたヘレン。
「いやあ懐かしいねー。私が弓を手に取るなんてサンシャイン国の建国以来かなー?」
ヘレンは慣れた手つきで構える。
弓の名手であるヘレンは国盗りの際、狙撃者として前線で活動していた。
その手で何人もの前線指揮官を葬り去ったのは周知の事実である。
「お前は後方に下がれ!」
が、強力な応援にも拘らずユラスは拒否する。
「万が一が起こったらどうするつもりだ!」
ユラスが恐れているのはヘレンの死。
能力的にも、心情的にもヘレンを失うわけにはいかなかった。
「その時はその時だよー」
ユラスの懇願にも拘らずヘレンは首を振って拒否する。
「この事態を招いたのは偏に私の責任。だから死んでも当然のこと」
「それは違う! ヘレン!」
ヘレンの言い分に異を唱えようとしたが、それより先にセイルバイン兵が襲ってくる。
「後で説教だからな!」
ユラスはそう叫び、眼前の敵に集中する。
「うん、それで良い。何が起ころうとも、ずっと前を見続けてね……青年王、ユラス=アルバーナ」
そんな優しげな呟きがユラスの耳に届いたとか届かなかったとか。
「ハハハハハハハハ!!」
ボルトマン帝国の総大将、マーカスは大声をあげて笑う。
彼の目に映るのはサンシャイン軍の本陣がセイルバイン兵によって強襲を受けている場面。
遠目でよく分からないが、サンシャイン軍は慌てふためいているだろう。
「どうだ! 侵略者よ! 思い知ったか!」
周囲が退いてしまうほどの狂笑。
知的な政治家だった頃とは似ても似つかない姿。
それも彼の過去を鑑みれば当然だろう。
ヘレンの謀略によってマーカスは帝国から裏切り近い仕打ちを受けた。
その時から、マーカスにとって帝国は守るべき存在ではなくなり、全ては侵略者ユラスを亡き者へするものへと変貌した。
そんな彼からすれば敵国であるセイルバインの兵を呼び寄せることはさして苦を感じなかっただろう。
ユラスもヘレンもそこを読み違えたがゆえに、窮地へと陥っていた。
「叶うならば、奴らの死体を拝みたかった」
マーカスが一転してそう漏らすのは、彼の窮状によるが故。
元から兵力差があり、加えて将の資質もユラスが上。
加えて疲労と睡眠不足が蓄積した状況では勝ち目など万に一つもなかった。
「サンシャイン軍が来たぞー!」
マーカスのいる本陣が慌ただしくなる。
サンシャイン軍はセイルバインから強襲を受けようとも兵を退かなかったから当然ともいえる結果だろう。
そろそろここら辺は蹂躙される。
それ、すなわち己の命運が尽きるということ。
「満足、満足だ」
マーカスはそう呟いた後、己の体に油をかける。
ここまでの損害を与えた将軍。
遺体すら見せしめのために晒されることは容易に存在できる。
「ハハハ、何時までも私の影に怯えるがよい」
もう一つは行方不明となるため。
万が一、生きているかもしれないという疑心暗鬼を生じさせる。
「地獄で待っているぞ、ユラス=アルバーナよ!」
そう叫ぶと同時にマーカスは油で濡れた己の肢体に火をかけた。
「炎帝騎士団! セイルバインを薙ぎ払え!」
翡翠の怒号が響くように、第二軍は間に合った。
ユラスは多少血を流しているが命に別条はない。
王を守り、飛車をも守る。
ユラスは賭けに勝ったものの、その顔に笑顔はない。
「……」
当然だろう。
ユラスは膝をつき、眼前に横たわっている骸の頬に触れる。
生きた彫刻を連想させる端正な顔立ちには傷一つない。
普段から人を食った言動をするがゆえに、直視しなかったが、こう見ると彼女も相当美しかったのだとユラスは思う。
長身痩躯な肢体に纏うは宰相の肩書を示す衣装。
体も衣服もこれといった傷はない――腹部に大穴を空けている以外は。
本当に、この一点さえなければユラスはその亡骸を蹴りつけていただろう。
「お前は……最後の最後で間違えたんだ」
ヘレン。
建国期から現在までサンシャイン国を支えていた人物の亡骸がユラスの目の前にあった。
「戦術の失敗は戦術で、戦略の失敗は戦略で取り戻せばよいと教えてくれたのはヘレンだろう」
過去、慢心から来た失敗を犯したユラスに言い放った言葉。
あれ以来、ユラスは部下を裁断するにあたって金科玉条となっている言葉である。
「大馬鹿野郎が……何故死んだ?」
すでに答えられないと知っているにも拘らず問いかける。
理性では理解しても、本能では彼女の死を拒んでいた。
「この……大馬鹿野郎がぁぁーー!!」
獣の咆哮を連想させるユラスの叫びに周囲の時が一瞬止まったのは言うまでもなかった。
「敵! 壊滅しました!」
と、ここに止まった時を動かせる報せ。
「……そうか、分かった」
そしてユラスはすっくと立ち上がる。
今の彼にとって必要なのは休養でなく労働。
それも全てを忘れさせる過酷な労働である。
ユラスは強引に意識を戦争後へ向け、指示を出し始めた。
「ここがマクルガラン大帝が座っていた玉座か」
一説には巨人族の血が入っていたと噂されるマクルガラン大帝。
その玉座も巨大であり、背もたれに体を預けようとすると足が宙に浮いてしまうほどである。
どれぐらい大きいかというと、一般成人男性なら寝そべられるほど。
ソファが一つ置いてあると表現した方が適切だった。
「ユラス陛下、ご報告があります」
「聞こう、リム新宰相」
頬杖をついていたユラスの前に膝をつくのは宰相となったリム。
彼女はヘレンの後継として正式にサンシャイン国ないしボルトマン帝国を治めることになった。
「統治は上手くいっているか?」
「問題ありません。何せ陛下の目的が国民と願いと合致しているので反発なく進められています」
元々ボルトマン帝国はマクルガラン大帝が大陸を統一するために造った国。
ゆえにユラスが大陸を統一すると号令をかけてもそんなに変なことでなく、むしろようやく大帝の遺志を継ぐ者が現れたかと歓喜していた。
「して、陛下。どのようにして大陸を統一するつもりでしょうか?」
リムは問う。
「周辺は敵国ばかり。どれか一方に注力すれば他から攻められるでしょう」
以前と違う状況。
傍観者が減り、敵の数が増えた。
レルムント地方とボルトマン帝国を手中に収めたサンシャイン国に敵う国や同盟など大陸上に存在しない。
つまり一国や一同盟ではサンシャイン国に抗うことが出来ないのである。
大陸に中立国というのは無くなり、代わりに新サンシャイン国または反サンシャイン国のどちらか。
六大勢力による均衡時代は終焉を告げ、代わりにイデオロギー時代が姿を現していた。
「して、陛下。どのような手を打つつもりでしょうか?」
リムの透明な瞳がユラスに訴える。
「周りを全て的に囲まれたこの状況で、どう大陸統一をされる算段なのでしょうか?」
味方は少ないどころか皆無に近く、そして敵は目に映る者全てが敵状態。
亡きヘレンが見たら卒倒しそうな場面である。
「六大王という役職を新たに創設する」
徐にユラスは口を開く。
「候補はレラク、翡翠、マージルードそしてバロッサ、そしてイルナとフレリアの六人だ」
「イルナを……ですか」
「そう。お前が見つけてきた人材、イルナ=カランドを抜擢する」
ヘレンがリムを見つけ、育てたようにリムもまた人材を発掘して教育している。
その人材がイルナ。
先見性においてはヘレンと同格だが人の心の察知が未熟。
独り立ちさせるには若干の不安が残る。
「もう少し訓練させたいのですが」
リムとしては実戦経験を積ませてやりたかった。
「安心しろ、それは任務を全うすれば自然に身に付く」
「どういうことでしょうか?」
リムは続きを促す。
「その六大王には王という称号が与えられている。それがどういう意味か分かるか?」
「っ、まさか!?」
それだけの情報でリムはユラスの言わんことを察した。
「そう。自由に統治し、兵を徴兵そして独自の判断で戦争を起こす権利がある」
貴族と王との違い。
それは、領地を増やすために対外戦争を仕掛けても許可されること。
戦争を起こせるのは国の長ただ一人。
その概念を打ち破る画期的な権利を六大王に与えるとユラスは明言していた。
「イルナにはエコノマニックの攻略を任せる」
ユラスは続ける。
「無論、完全に一人に任せるわけじゃない。リムが補佐する」
エコノマニックの攻略をさすがに独力で任せるわけにいかない。
経験豊富かつ師であるリムが裏方から補佐をする。
「抜擢というだけあって下手なことをやればイルナは勿論お前まで責任を取ってもらう……良いな、リムよ? 俺は失望させるなよ?」
王の命令は絶対。
が、その立場を差し引いてもリムはただ頷くしかできなかっただろう。
それぐらい、今のユラスから覇気が溢れ出ていた。




