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魔軍

スマフォの機種変更を行いました。

 バースランド国はレルフィントの甘い目論見によって防備を固めていなかった。

 加えて地方の領袖や民衆も非常事態の心構えが出来ていない。

 ゆえにサンシャイン軍は容易に占領し、ゲリラに悩まされることなくボルトマン帝国へ歩を進める。

「あの小僧は俺達の役に立ったよな」

 侵攻通路としては絶好の地理にあったバースランド国の王子をユラスはそう評した。


 バースランド国を抜ければボルトマン帝国まで目と鼻の先。

 事ここに至り、ユラスはベールに隠されていた第三軍の司令官を呼ぶ。

「お呼びでございましょうか?」

 王のテントに呼ばれた司令官は恭しく頭を下げる。

 あれから十年経っているがその美貌は些かの衰えもない。

 魔族の血を引いているかと噂される人物といえば真っ先に思い当たる人物。

「その通りだ。マージルード=グラフィック魔導騎士団長、いや、第三軍司令官と呼ぶべきか?」

「お任せにしますわ」

 マージルード。

 その儚く輝くシルバーブロンドの髪を振り払った彼女は妖艶にほほ笑んだ。

 第三軍の特徴はというとその攻撃力だろう。

 構成員の半分以上が魔導士で占められ、他の兵も弩弓や投石器といった大型武器を扱う工兵。

 攻撃力や破壊力だけで問うならば文句なく大陸一に相応しい実力を持っている軍だった。

「そろそろ敵が本腰を入れてくる」

 ここまで侵入されて黙っているほど敵は愚かではない。

 この先に夥しい数の兵が集結しているという情報が入ってきている。

 概算兵力は凡そ二十万。

 その数の兵が展開して待ち構えているという。

「ようやく私達の出番が回ってきたのですね」

 悲観的な部類に報告を受けたにもかかわらずマージルードは笑む。

「レラク大将、翡翠大将の活躍が耳に入っている分、多少不安でしたわ」

 彼らが活躍しているのに自分はまだ陽の目を見ていない。

 その事実にマージルードは多少焦りを覚えていたのだろう。

「無理に前に出て敗北するよりかは下がってお蔵入りになった方が数倍マシだぞ?」

 と、ユラスはマージルードにそう忠告しておいた。

「敵は密集している。この状況でお前達を使わない手はないよな」

 ユラスはそう話を戻す。

「十年前にカリス国、そしてダースベール帝国の首都を落としたその場面……再現できるか?」

「もちろんです」

 ユラスの問いにマージルードは自信たっぷりに頷く。

「十年という月日と膨大な軍資金、何よりも豊富な人財によって魔導騎士団は魔導軍へと昇格しました」

 当時は一騎士団が限界の数だったが、現在は違う。

 四か国を手中に収めたサンシャインが魔導士にの育成につぎ込んだ力は単純計算で四倍。

 四騎士団となれば、それはもう立派な軍だろう。

 しかも戦局ではなく戦略を左右する重要な一軍に。

「保険としてレラク達を後方に待機させておく」

 言語とは裏腹にユラスは笑っている。

 まるで二桁の掛け算の問いに対し検算をするかのような口調。

「ありがとうございます」

 応じるマージルードも気安い調子である。

 マージルードもユラスもこの状況に不安はほとんどない。

 あるとすれば天変地異が起こって戦どころではなくなる事態に直面することだろう。

 つまり彼らは勝利を確実だと考えていた。

「マージルード=グラフィック、命令する」

 ユラスは緩んだ表情を引き締め、重々しく宣言する。

「お前に第三軍を与える。その軍を以て眼前の障害物を払い除けろ」

 それは王からの命令。

 サンシャイン国の民ならば何人たりとも逆らえない神の言葉。

 異を唱えることなどありえない。

「承知しました」

 そんな厳粛な空気の中での言葉。

 自然、マージルードが恭しく頭を下げるのも当然と言えた。


「報告より少ないですね」

 第三軍を率い、平原に出たマージルードは眼前の敵陣を見てそう評する。

「目算でおよそ十五万……残り五万はどこに?」

 裏に回り込んで挟撃という手も考えたが、こんな状況でそんな手は悪手も良いところ。

 それこそレルフィント並みの馬鹿でない限りしないだろう。

「考えられるのは……やはりマーカス」

 マージルードはその人物を思い浮かべる。

 バースランド国に侵略したサンシャイン軍は彼を捕えようと探し回ったが一歩遅く、逃げられた後だった。

「報告しておきましょうか」

 ボルトマン帝国内においてこれだけの事柄を成し遂げられるのはマーカス以外考えられない。

 彼はその五万を何に使うのかは未だ分からないが、ロクなことに使うまい。

 この案件は自分では処理できないと判断したマージルードは伝令兵に事の詳細を伝え、本部に走らせた。

「ヴァイスガール副司令官」

「ここに」

 その後マージルードは副司令官を呼ぶ。

 彼は元カリス国の重臣。

 そして今はマージルード率いる第三軍の副司令官となっていた。

「どう攻めます?」

「そうですねえ……」

 マージルードの問いかけにヴァイスガールは考える素振りを見せる。

 が、素振りだけで頭の中ではすでに戦略が出来上がっている。

 彼は二十代で一国の重臣まで上り詰めた俊英。

 一から十を知ることなど造作もなかった。

「基本は待ちにしましょう」

 ヴァイスガールは弩弓と投石器に目をやりながら答え始める。

「射程距離は、器具を使っているこちらの方が断然上です。向こうの弓兵の出番などないでしょう」

 機械と人力。

 どちらの方が高火力かなどということは論じるまでもない。

「とにかく片っ端から撃って撃って撃ちまくりましょう」

 基本戦術は後の先。

 ここから一歩も動かず殲滅を図る。

 その戦法は古来から使用されてきたがゆえに信頼性も高い。

 第三軍の特性から言うと当然だろ、が。

「相手の総攻撃を防げるでしょうかね?」

 マージルードの言葉通り、向こうは二十万なのに対し、こちらは二万強。

 十倍もの戦力差がある。

「張り付かれたら終わりですよ?」

 近接戦闘の白兵戦となった時点でこちらの負け。

 マージルードの推察は間違っていないのだが、当の本人は笑っている。

「アッハッハ! 冗談がお好きですねえ姉さんは」

 それにつられてかヴァイスガールも大口を開ける。

「それをさせないための魔導士でしょう?」

 ヴァイスガールは続ける。

「サンシャイン軍最強の切り札、魔導騎士団。その実力を大陸全土に知らしめてやってください」

「言われるまでもなく」

 ヴァイスガールの軽口にマージルードは身を翻してそう答える。

 新生魔導騎士団。

 その実力が天下に晒されようとしていた。


「うう……何でこんな目に」

 同盟側兵士の一人――バティアス=カロランは己の運命を呪う。

 農家の三男坊として生まれたバティアスは口減らしのために村を追い出され、糊口をしのぐために故国の兵士として志願した。

 バティアスの目的はあくまで一時しのぎ。

 十分金を貯えたらある国へ行く予定だった。

「何故憧れの国と敵対するんだよ」

 ある国とは教育国家サンシャイン。

 最も栄えている国として名を馳せるサンシャインは根を下ろすのに十分魅力的だった。

「これからどうしよう」

 周りの兵士に気付かれないようバティアスは愚痴を零す。

「いっそのこと逃げてしまうか?」

 己が憧れる国を攻めるのは、例え勝ち戦だとしても後味が悪い。

 ならば切りのいいところで逃げてしまうかと考えてみる。

 ガアアアアアアンン!!

 そこまで思考したと同時に響く鐘の音。

 これは攻撃開始という合図である。

「「「「「「わあああああああああ!!!!」」」」」

 耳がつぶれるかと思うほどの雄たけびが至る所から聞こえ、最前列の兵士が突進していく。

「どうか上手いこといきますように」

 周りのテンションに流されず、バティアスはそんなことを考えながら前の兵士を追いかけて行った。


 平野なのにサンシャイン軍は攻城戦かと思うほど重装備を揃えている。

 それゆえ同盟側が足軽を中心とした機動力の高い隊列を組んでも不思議ではない。

 双方の距離は凡そ百メートル強。

 その間サンシャイン軍の激しい攻撃によって少なくない被害が出る。

「兵器を壊せー!」

 バティアスの耳にそんな勇ましい声が届く。

 恐らく最前線同士がぶつかったのだろう。

 これでもう勝負は決定。

 後は間断なく兵士を投入することによって終わりかと思いきや。

「――第一波、やりなさい」

 それは小さな声。

 戦場に似合わない艶やかな声音だが、何故かバティアスに聞こえた。

 一体なんだろう。

 バティアスはそう考えると同時、反射的に武器を捨て、この場から一目散に去った。

 不味い、この場所にいると死ぬ。

 そんな直感がバティアスの脳裏に響いた。

「な、何だ?」

「うわあああ!?」

 結論から言うとその直感は間違っていなかった。

 何せバティアスのいた場所を中心に大地に亀裂が走り、瞬く間にその線上にいた兵士を飲み込んでいったからだ。

「……」

 バティアスは呆けた状態でその亀裂を見る。

 幅三メートル、深さは――不明。

 そんな長大な亀裂が彼の眼前に出現していた。

「「「「……」」」」

 突然の光景に呆ける同盟側の軍。

 その呆けから立ち直れたのはサンシャイン軍から続く攻撃によってだった。

「っこれは!?」

 バティアスは空気が不穏状態になっていると勘付く。

 その勘は間違っておらず、濃霧が発生し、たちまちのうちに己の手も見えない状態となった。

「に、逃げるんだーー!」

 もはや周りを見ている余裕はない、五里霧中の中バティアスはこの場から逃れようと足を動かす。

 前線の悲劇は、後衛が地割れの存在を知らないことだろう。

 地割れによって進めず後ろに下がるしかない兵と、とりあえず前進する兵。

 霧とサンシャイン軍の攻撃によって同盟軍は完全に指揮系統を失い、死の恐怖からあちこちで同士討ちが起こり始めた。

「どこだ! どこに逃げればいい!?」

 そんな中、バティアスは運良く混乱している場を避けている。

 いや、その言い方は語弊があるか。

 正しくは己の勘を信じ、不味いと思った場所から意識的に遠ざかっていた。

「こっちは不味い!」

 そう判断したバティアスは方向を変える。

 その方向の数秒後には特大の火球によって辺り一面火の海と化した。

 気付いていないだろうが、この時バティアスは魔導士の素質に目覚めている。

 魔導士の前提条件となる、魔力の流れを感じ取る才能。

 彼はそれを無意識的に使用し、危険な場所を避けていた。

「はっはっは……」

 戦場から抜け出たバティアスは、自分がまだ無事なことに安堵し両膝をつく。

 今更ながら震えが止まらない。

 あんな負け戦など初めて経験したバティアス。

「恐ろしい……サンシャイン恐ろしい」

 十五万という数相手に圧倒的勝利をおさめたサンシャイン。

 恐怖すら覚える強さにバティアスは違う意味で震え出した。


「素晴らしい! 素晴らしいですぞ!」

 ヴァイスガールは頬を紅潮させてそう叫ぶ。

 霧が晴れた先に広がっていたのは――地獄。

 逃げられる者はすでに逃げたのだろう、残っているのは物言わぬ死人かまたは立てないほどの傷を負った者だけであった。

「十五万という数を相手にして無傷! さすが私が見込んだ軍団です!」

 敵は壊滅、こちらは無傷。

 圧倒的といえる戦果を前にヴァイスガールは我を忘れていた。

「ああ、リーエンノールとステラステラですか?」

 そんなヴァイスガールにマージルードは目もくれず、代わりにやってきた二人の幹部に口を開く。

「我々の仕事はほぼ終わりました。後は貴方がたに任せます」

 固まっていた集団を粉砕した今、マージルード率いる第三軍に活躍の場はない。

 この状況だと正規軍の第一軍とゲリラ戦を得意とする第二軍の方が力を発揮できる。

「ボルトマン帝国の首都まで一気に蹴散らしちゃいましょう」

 そこまでの道程、王であるユラスの手を煩わせるには将軍として許容しがたかった。

「そういえば一つ悪い報告があります」

 マージルードはそう切り出す。

「敵兵、約五万が行方不明です。それだけの兵がレジスタンスとして動かれると第一軍にとって大いなる脅威となるでしょう」

「首謀者はあのマーカスか?」

「その通りです、リーエンノール」

 リーエンノールの問いかけに肯定する。

「今のボルトマン帝国において出来るのは彼ぐらいなものです」

「逃したのが悔やまれる」

 もしこうなる前に彼を捕えていれば懸念事項の一つが消えただろう。

 たった一人の零れ落ちが大陸屈指の将を悩ますというのは興味深かった。

「当面は第二軍が相手となりますが、苦戦は避けられないと思います」

 五万という数に加え、明確な敵意を持った兵。

 優勢または同等ならともかく、劣勢状態なら分が悪かった。

 我慢できそうにもない被害を受けることになる第二軍参謀長のステラステラは苦渋の顔をしているかと思いきや、意外と平然としている。

「そこの辺りは問題ありません」

 ステラステラは続けて。

「第四軍、秘密の軍であるバロッサに全てを任せましょう」

「ああ、確かいたな」

「そうですね、彼等ならやってくれるでしょう」

 第四軍の存在を思い出すリーエンノールとマージルード。

 彼らが第四軍のことを過小に評価しているのは、何と言ってもその軍だけ千にも満たない兵だから。

 最も少ないとされる第三軍の魔導士でさえ万を越えている。

 戦力としてカウントしないのも当然だろう。

 が、第四軍の真価は戦闘にあらず。

 カナリア地帯出身の者を中心に編成された第四軍。

 特異、異質、異常。

 彼らの存在全てが通常の物差しで測れない。

 測れない以上、その存在を無視するのも当然の選択だった。


その設定に滅茶苦茶時間を使いました。

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