鳳Ⅲ
「む、何だ? 空間が」
殆ど人が立ち入らないセーラの部屋。
部屋の一角がモヤモヤと蜃気楼のように歪む。
そこの中から訪問者があらわれた。
三角帽子をかぶった、派手な女。
「やぁセーラ嬢。ご気分はいかがかね?」
「魔女様こんにちは」
セーラが全然動じずに、応答している。
(セーラ。魔女って誰だい? なぜ声が出せる?)
福音スキルでセーラに直接呼びかける。
コレが、俺が待っていた魔女であろうが。
思ってたよりも若いな。
老人をイメージしてた。
(父が私の治療の為に呼んでくれた、超級魔道士ですよ)
(ほう、やっときたか)
(彼女は会話の為に、彼女が側にいれば、一時的に呪いを軽くしてくれるのです)
(そうか。それは凄いな。待ったかいがあった)
(まつ?)
(ああ、そちらの話が終わったら。俺からも、話があると伝えてくれ)
(はい)
「セーラ嬢。誰かと会話中かね?」
「はい。私の伴侶と福音スキルで」
「え、もしかして神が定めた伴侶?」
「はい」
「君以外の福音スキル保持者を、本等に見つけたのかい?」
「ええ」
魔女って、なんだろな。
めっちゃ興味をそそられるが、
セーラの髪の中に、隠れてる俺にはよく姿が見えない。
魔女の姿を、ガッツリみようとすると、
コチラの姿を見られる恐れがある。
演出って大事だよね。
交渉には。
「信じられな〜い」
「真実です」
「あんなレアスキルの持ち主が、一度に二人も揃うなんて〜」
福音本当にレアだったんかい。
捨てようとして、すまなかった。
「神のお導きですわ」
「私も首を突っ込んだかいが、あったのかな?』
「………」
「ところで君のお父上は、約束を果たせそうにないよ〜」
「そうですか」
「驚かないのかい〜」
「父が、すぐに用意できない物は、ほぼありません」
一度は言ってみたいセリフだね。
「ソレはソレは」
「父が初手で用意できなければ、時間をかけても無理でしょう」
「どういう評価だね? それ〜」
「私の父はそういう人です」
「そ、そう〜」
う〜ん。
どんな父親だ。それは。
「わざわざ私にお別れを?」
「結果的にそういう事になるね〜。福音保持者を失うのは残念だが」
「………」
「君の呪いは、半端な力では解呪できないのでね〜」
「そうですか」
「もはや、君には時間が無い」
「ええ、わざわざありがとうございました」
「名残り惜しいがセーラ嬢。今回が最後の挨拶になるだろうね」
「ああ、少しお待ちを」
俺の出番だ。
カッコイイポーズの練習しなきゃ。
「なんだい? 約束の物がなければ、命乞いは聞かないよ」
「そうではなく。私の伴侶が話したいと」
「君の伴侶? 福音保持者っていう人かい?」
「ええ。人ではありませんが』
「ソレは面白い。呼んでくれたまえ」
出番だ。
セーラの髪からこんにちは、した。
ポーズをつけて登場するゴッキー俺。
(セーラ通訳頼む。俺の名前は火力発電太ヨロシクね)
「私の伴侶の火力発電太です………え?」
「………」
「ちょっと待って。貴方そんな名前だったの?」
(カッコイイだろう)
「貴方まだ私を驚かせるの?」
「なぁセーラ嬢。君は気が狂ったのかい?」
ゴッキーを伴侶と紹介するセーラ。
しかも俺の声は魔女には聞こえない。
「違うの。本当なのよ」
「と、言われても〜」
「何を言いたいかわかる。わかるけど本当なの」
「恋人ですって〜、ゴッキー紹介されたら………」
「だ〜か〜ら〜」
らちがあかんな。
ただのゴッキーではないことを知らせるために
普通のゴッキーには不可能な、
カッコイイポーズをとってみる。
二本足で立ち、腕ぐみをしながら魔女を見る。
角度は45度だ。
あ、魔女驚いてる驚いてる。
魔女は魔女で、三角帽子に黒い服と派手な魔女ルックだ。
イメージ通り過ぎて、こっちが驚くわ。
顔はよく見えないが、見かけは若いっぽいな。
(セーラ。魔女に鑑定スキルを使えって言ってくれ)
「魔女様。火力発電太に鑑定を行ってくれませんか?」
「ゴッキーに。使えるけど、なぜだい?」
「そうすれば、福音持ちだとわかるかと」
「………………ゴッキーが〜。ゴッキーが神に選ばれたの?」
「はい」
「嘘でしょ〜」
「試してみてください」
「………信じられないけど〜。鑑定」
………………あ、魔女が崩れ落ちた。
驚いてる驚いてる。
ククク、期待以上だ。
楽しい。
何が魔女を驚かせたのかはわからないが。
魔女が俺を何処まで鑑定できてるかわからないが。
何処からどう鑑定しても。
俺はぶっ壊れた、ゴッキーだろう。
「な、何でゴッキーの魔王なんてモノが、この世に誕生してるのよ〜」
(………ゴッキーの魔王? なんだそれ? 知らんぞ)
「私の伴侶は、魔王の事は知らないと」
「そのゴッキー。英雄を含め人間を虐殺してるわよ」
「え?」
(………心当たりあるな)
マッマを殺した人間が英雄になって。
それを殺したこの身体は魔王になるの?
(英雄殺すと魔王になるの? か聞いてくれ)
「英雄を殺すと魔王になるのか聞いてくれと」
「ならないわよ。いや、わかんない」
「貴方がわからない?」
「過去にそんな虐殺ゴッキー話、聞いたこともない」
俺のゴッキースタイル。
魔王だったのか?
どうりで強かったわけだ。
「どうです。私の伴侶は凄いでしょ?」
「セーラ嬢。君はホントにそれで良いのかい?」