退園
長いようで短い遊園地のアトラクション巡りは終わり、私は『お客様』を出口へとご案内します。
「では、帰りながら『お客様』の秘密をご説明いたしましょう」
ですが、その前に……本当は気づいておられるのではありませんか?
自分が何故、あんな能力を使えるのか?
「そう、『お客様』も実は一度死んで――って、そんな落胆した表情をしないで下さい」
「――――――。」
「いや、ですから、死んでないのですよ。『お客様』」
「――――――?」
死んでいないのなら何なのかと戸惑う『お客様』。
現実の世界の人間と違い、どうやって来たかを思い出せない特別なゲストである『お客様』。
そう言ったのは簡単です。
本当に希少ですが、私のような罪深い悪霊でもないのに『瞬間移動』したり、『お客様』のように『あらゆるモノを視認や理解』が出来たり。
その答えは簡単です。
「私は『お客様』のある能力が制限されている、と心の中で申したのですが、『視』ていました?」
「………。」
『お客様』は無言で頷く。
「その能力とはずばり――思考能力です」
「―――?」
「普段なら分かるような事柄に気づけない。そして、普段なら怖がらないかもしれない事にも怯える。それは考えるチカラを失っているからです」
別に、『お客様』が馬鹿や阿呆だからというわけではありません。
人間なら誰しもが避けられない事です。
「私の視界に映った『お客様』の容姿について、一度でも口にした事がありましたか?」
「………。」
『お客様』は首を横に振る。
「つまり、私は『お客様』がいる事を認識していながら、『お客様』がどんな姿をしているかまでは知らないのです」
男性か?女性か?
大人か?子供か?
それを知る術は私にはありません。
実際、会話においても、ざっくりと仕草や雰囲気で何となく判断しているだけですからね。
――おや?出口が見えてきましたか。
「最後の種明かしは、退園してからに致しましょう。園内では不安が残ります」
うっかりトラブルがあっては責任が取れませんからね。
「―――。」
『お客様』は頷き、無事にこの悪夢の遊園地から抜け出した。
「それでは、『お客様』。悪夢は終わりです。そろそろ、夢から覚める時間がやってきました」
「―――!」
私の一言で、『お客様』は全てを察したご様子。
「そう、『お客様』は眠ったまま、意識だけがこちらに来ていたのです」
脳は休んでいるから、思考能力が落ちる。
意識だけがやって来ているのだから、定まった姿は持たない。
全て理解出来たのは、それが『お客様』の知識内で起きている為。全てを視認できたのも同様に、夢の中だから。
「眠っている人間というのは、生きていますが、意識は不明です」
いわば、生と死の狭間にいるわけです。
ゆえに、『特別』。
夢の中ですから、『お客様』はその気になればやりたい放題です。
脳が休んでいる為、普段の思考能力に比べてイメージは落ちていても、『これは夢だ』と認識してしまえば、簡単にこの場から去る事が出来ます。
ゆえに、これを伝えるのは最後と致しました。
「それでは『お客様』。これでお別れです」
夢を夢だと理解した以上、近いうちに『お客様』は現実の世界でお目覚めになる事でしょう。
もしかしたら、夢での事は覚えていないかもしれません。
「ですが、もし『お客様』が覚えておいででしたら、その時は是非現実の世界の裏野ドリームランドにいらして下さいね?」
私は笑顔で、どこかへ消えていく『お客様』の意識を見送った。
ふぅ、これでおしまいですか。
久々の特別なお客様。
今回も楽しめました。
「お疲れさん、巡さんよ」
「……お疲れ様です」
「疲れたよー!巡くーん!」
「お疲れ、変態……」
「乙だピヨン!」
自分の仕事を終えたのか、各々今日お会いした部下――信楽、小野、タルト、ノエル、東雲(各人敬称もとい愛称略)――が迎えに来てくれました。
「いやぁ、久々の案内。随分と疲れました。皆さんもお疲れ様です」
「おう!」
「……アニメ消化してきます」
「巡くーん!デートしよー!」
「ダメ、タルトは私と一緒に遊ぶの」
「アチシはもう寝るピヨン!」
賑やかな部下に囲まれて、私は力を抜く。
「すぅ〜……はぁ……」
本当に、疲れました。
何せ、『お客様』――嘘が通じませんからね。
嘘をつかずに騙す事に、苦労しました。
『現実の世界の人間もきっちり殺していた』なんて知られれば、どうなっていた事やら。
それに――耳障りな守護霊もいましたからね。
『お客様』に気づかれないように、速やかに入園前に始末しましたが。
「フフフ……」
それでは、次の『名も知らぬお客様』?
――『死を楽しめ』。
私は部下の頭文字を文字った台詞を口ずさみながらクスりと笑った。
ご来園、ありがとうございました。
……もとい、ここまで読んでいただきありがとうございます。
せっかくのホラーイベント、初参加(予定)を『なかった事に』しない為に少々頑張りました。
前作の短編を読んで頂いた方がもしもいたら分かると思いますが、今回も二人称視点がメインです。
それなりに稀だと思うので慣れない方も多かったかもしれませんが、読者である『お客様』に実際に遊園地を楽しんでいる光景を目に浮かべて、楽しんでいただけていれば幸いです。
では、前作のような補足の必要はあまりないので、この辺りで。
次は……狂人主人公を取り巻くパワーバランスとインフレがおかしい非日常異能バトル&学園日常ラブコメ小説あたりでお会いしましょう。それではノシ
PS:敢えて補足するなら、『守護霊』探しは仕様上無理ゲーみたいなので諦めて下さい(血涙)
ネタバラしは同じギミックを本格的に多用する次回作(の終盤)で(おせーよ、●セ
追記事項(2018/4/6):『守護霊』を見つけたら当園の社長、巡にご連絡下さい




