第35話 不在心(フジミ)と存在心(アラミ)
ロボティクス戦記編(シキside)
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「いた、オオカミ」
[あの機体を追えばいいのですね]
「たのむ、鵺」
[戦いに巻き込まれないよう一定の距離を保ちます]
シキは、鵺の眼を通して戦うオオカミを見つけた。
地上戦はオオカミを先頭に、まばらに戦闘機がいる。
その周りを取り囲むように、戦車や戦艦が攻撃をしかけている。
アンドロイドモデルの、正にロボットという風体の歩兵らしきものも武器を持って応戦していた。
「すごい…ロボット対ロボットにしか見えない」
[…そうですね、人が乗っている分、存在心側の方が惨い]
「ん、あの戦車や戦艦、飛行機には人は乗っていないの?」
[乗っていません…あなたはこの国の人ではないんですね?これは、人と自律型ロボットの戦い。自律型ロボットのトップは”K”と呼ばれるAI]
「AI?」
[そうです…この国の歴史を教えましょうか]
鵺から聞こえる少女の声は、そう静かに言うと、相変わらずオオカミと適度な距離を保つ操作をしながらシキに語り出した。
[昔、この国に存在心という少年がいました。彼は実に優秀なメカニックで、あるとき、自分の分身として全く人と変わらない見た目のロボット、不在心を作りました]
「え、アラミとフジミはそれぞれの総称じゃなくて人とロボットなのか?」
[待ってください、これはもうずっと前の話。まだ続きがあります。アラミは最初、そのロボットに、自分でプログラムを書き込んで様々なことをさせていましたが、そのうちロボット自身に学習させる方が良いと思い、ロボットに搭載するためのAIを開発しました。”K”と名付けられたAIはロボットを通して様々なことを学びました。アラミとフジミは本当の兄弟のように仲良しでした。しかしある日、突如としてアラミは事故で死んでしまいます。残されたフジミは悲しく、寂しく、自分と同じ限りない命を持つ存在、つまりロボットの仲間をつくることにしました]
「寂しい?フジミはロボットだよな?」
[ロボットです。完全自律型、AI搭載の人に限りなく近いロボットです。その寂しさを感情というと人はいぶかし気な顔をしますが、フジミには確かにそういう気持ちがありました]
少女の声には、ほんの少し棘がありようの思えた。
無機質な音声にそんなはずはないのだが、話を聞いているシキには少女の感情があらわれているように思えた。
「ごめん」
[…人間はAIがロボットを造るという行為に恐怖を抱きました。人間は飽くまでロボットの支配権は人間にあると主張し、自分たちを”心ある者”、つまり存在心と呼び、ロボットを”心ないモノ”、不在心と呼び分けるようになりました。もともとアラミとフジミは仲の良い、種を超えた親友であったはずなのに、このときから、その呼び分けは敵と味方になりました。そして今に至ります。この数百年、アラミとフジミは戦い続けているのです]
「数百年もの間…。つまりアラミはロボットを道具であるかのように扱う人間の総称で、フジミは”K”の作り出す、感情をもつロボット群の総称なんだな」
[そうです。アラミはロボットに対抗するために戦う兵器としてロボットをつくり、戦闘用スーツとして着て、ああして戦っています]
オオカミが、船団の先頭から離れ、一匹で黒船に向かって突進しだす。
周囲の敵はオオカミを止めるためその機体にくっついていく。
まるでその自殺行為を止めるかのように。しかしオオカミは止まらない。
必死に、黒船にたどり着こうと空をかけていた。
[あのオオカミに乗っているのはどんな人なんですか?奴隷があれほど必死に命を投げ打つなんて考えられません。何か別の者を求めているのでは?]
「…あの機体に乗っているのは奴隷じゃない…戦うために、ここにいるわけでもない。黒船に、探し求めていた人がのっているかもしれないんだ」
[…探し求めている人…]
オオカミはついに、黒船にたどり着いた。鵺が旋回すると、甲板にいるヘルメットの少年が見えた。
少年はオオカミに近づき、何かを話しているが聞こえない。
「音声を拾えない?」
[もう少し近づけば可能です]
鵺はそう言い、近づいた。オオカミからキャプテンが降りてくる。少年と対峙し、何か話し出した。
[音声出します]
―…おまえは…シュレイン…じゃないのか
―…僕はレイン、不在心フジミの王
「王…?」
[あの少年は数十年前に突然現れ”K”がその命を救ったのです、以来彼はこの国の事情を聞いてからフジミのために戦うようになりました。それをアラミが王と呼ぶようになったんです]
「突然現れた…」
[雨で回線が少しつながりにくくなります、ご了承ください]
―私は………を探して異世界から来た……お前は……に似ている。そのヘルメットをとってくれないか………顔を…確かめたい」
―……ありがとう
「人違い…?」
[……いいえ…おそらく人違いではありません]
「え?どうしてそんなことが分かるんだ」
[機械には人間に見えないものが見えています]
「?見えないもの?」
[……あの二人にはまぎれもないつながりがある、少年はおそらくそれを忘れてしまっている…この国に来たたとき生死を彷徨うほど精神的に疲弊していた、そのせいではないでしょうか]
「なぜそんなに詳しいんだ?そのときの様子を見ていたのはフジミのロボットたちだけじゃないのか?」
[……]
ビー ビー ビー
[背後から敵襲、回避します]
「敵?まて甲板には二人が…」
ドォォン
「リオン!」
鵺の中から、シキは叫んだ。
目の前で今まさに砲撃を受けたリオンと少年。
爆炎が上がる中、二人の姿を探した。
すると、オオカミの戦闘機が口に何かを、ゆっくりと炎のなう場所においた。
アンドロイドが武器を置きすぐさまその周りを取り囲む。
[いま降りるのは危険、ここにいて]
「でも…リオンが…」
「生体反応はあります、いま視界をクリアにして様子と音声をここに出しますから、はやまらないで」
シキは冷静な少女の声に従い、慌てて鵺を出ようとしていたのを思いとどまった。




