第9話 ただの友達だと言い張るのなら
王立学園の玄関ホールにて。
その人集りの中心に二人の女子生徒が対峙していた。
ミーシャ・ホワイトとエリザベート・ヴァロワ。
剣呑とした表情で睨み合う彼女達に一体何が起きているのかと近付いていく。
ふとロランを見れば、怪訝そうに顔を顰めていた。
するとその時、ミーシャが苛立った様子でエリザベートに言い放つ。
「────エリザベート様、ちょっと肩を組むくらい友達だったら普通でしょう? 騎士科の間で当たり前にされていることを一々そうやって目くじら立てられるのは不愉快です!」
さも心外だと言うように声を上げるミーシャに、エリザベートが眉を顰める。
エリザベートの近くには弱ったように顔を俯かせる特進科の令嬢がおり、きっと彼女の婚約者もミーシャと仲睦まじくしていたんだろうと察した。
そしてエリザベートは激昂するミーシャに対して淡々と返す。
「それが同性同士だったら何も思わないけれど、貴女のその『友人』とやらの中には婚約者のいる殿方だっていらっしゃるのよ。そんな彼女らに見せつけるように、故意に接触するなんて相手が傷付くとは思いませんの?」
「ただのスキンシップです! そうやってすぐに男女のあれこれに結び付けるなんて………私達の純粋な絆をそうやって汚さないでください!」
そう言い争う彼女達を前に、私はあることを思い出していた。
(……………この展開、知っている)
乙女ゲーム『白薔薇の騎士〜運命を切り拓く乙女〜』の序盤に行われるイベント。主人公ミーシャと悪役令嬢エリザベートの対立を描いたシーンだ。
(そこで、エリザベート様は………)
「…………果たして本当にそうでしょうか? 貴女の中にほんの僅かにも下心はないと言うのですね?」
「え、ええ、もちろんよ」
そう言って首を縦に振るミーシャにエリザベートは溜め息を吐く。そして彼女は静かに語り出した。
「まだ我が国において女性騎士は一人しか誕生されておりません。『白薔薇の騎士』は果たしてそのように気安く殿方に触れ合ったでしょうか?」
そういったことは一切なかったと聞いている。
今は亡き先代王妃に仕え、むしろ他の令嬢からの信頼も厚かったとも。
騎士だからといって自分の恋人や夫のそばに、距離の近い女性がいれば誰だって不安になるだろうから。
「隣国や同盟国にも女性の騎士がいらっしゃると聞きます。留学生の方から話を聞きましたが、婚約者や夫と距離の近い女性騎士なんて言語道断。────貴女は騎士を目指していると言いますが、将来どなたに仕えるつもりで?」
ミーシャはいずれ、ルートによってはこの国の王妃となる。
その際に国母であり、この国を守る騎士として邁進していくといった御伽噺のようなラストで終わるのだが………現状のミーシャとしては将来のことを言われると耳が痛いだろう。
少なくとも令嬢や高貴な姫のもとに仕えるのは無理であるはずだから。
するとミーシャはしばらくして、キッとエリザベートを睨み付けた。
「男だからとか女だからとか………そういった古臭い慣習にどれだけの人間が苦しめられているとお思いですか?」
「そんな話は一言も………」
「エリザベート様、私は貴女に『決闘』を申し込みます!」
その言葉に周囲の人集りが騒めく。
身分の低い者から格上の相手に対してのみ許されるシステム『決闘』。
しかし負ければこの貴族社会では二度とやっていけないため、社会的自殺と同義であり、誰も行おうとしなかった。
しかし男爵家の令嬢であるミーシャが侯爵家の令嬢であるエリザベートに決闘を申し込むことに対して何の問題もない。
「この決闘に私が勝ったら、もう二度と騎士科に所属している者に対して横から口を出すような真似はしないでください!」
そしてミーシャがはっきりと告げる。
「騎士でも騎士科でもない────きつくて辛い訓練を受けたこともないような特進科の貴女に、『騎士たるものが何なのか』を教えて差し上げます!」
勿論、この決闘には『棄権』というシステムも存在する。
決闘を行おうと提案する者に対して、決闘自体を拒否する行為のことだ。
通常ならばそうするのが一番だろう。
けれどふとエリザベート様の後ろで涙ぐむ令嬢を見つめる。
彼女だけではない。セシリアやヴィヴィアンもいる。
ミーシャによって辛酸を舐めさせられた者達がいる。
ミーシャの決闘を受けなかった場合、この先もずっと『ただの友達だから』だなんて馬鹿げた言い掛かりで自分の婚約者や恋人と仲睦まじくされるのだ。
そんなことを、優しいエリザベートが見過ごすわけがない。
(だから、呪具を使ってまで────)
彼女は私達を守ろうとしたのか。
それを思った瞬間、私はたまらなくなって人集りから前に進み出た。
突然現れた私にミーシャもエリザベートも目を丸くする。
「クラリス? 何でここに………」
不思議そうにするミーシャを無視し、私はエリザベートに向かって口を開いた。
「エリザベート様」
エリザベートの肩がびくりと揺れる。
「────その決闘、このクラリス・フェルゼンに代理を務めさせていただけないでしょうか」
読んでいただき、ありがとうございました!
もし良ければブクマや評価をつけていただけると、とても励みになります。




