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「ただの友達だから」と言って婚約者とイチャつく騎士系令嬢を物理で返り討ちにします  作者: ふくふくまる


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第6話 騎士科の訓練場にて




 エリザベートに次に連れて行かれたのは騎士科の学生がよく利用する訓練場だった。

 

 「え、え?」と戸惑う私をよそにエリザベートがきょろきょろと辺りを見渡す。

 するとそんな私達のもとに一人の男子生徒が近寄って来た。

 

「やあ、エリザベート。こんなところで何をしているんだい?」

「あら、ロランじゃない。貴方こそ特進科なのに騎士科に何でいるのよ」

 

 艶やかな黒髪に人好きするような、それでいてどこか胡散臭そうな笑みを浮かべる特進科の男子生徒がこちらにやって来る。


 そんな彼の姿に私はハッとあることを思い出した。


 ロラン・ルシエール。

 第一王子ウィリアムの従者であり、エリザベートの従兄弟。

 それでいて乙女ゲーム『白薔薇の騎士~運命を切り開く乙女』では攻略キャラではないものの、中盤クラリスが退場した後、新たに現れるサポートキャラクターである。

 

 クラリスは学校の試験範囲や攻略キャラクターのちょっとした情報、それから騎士になるため特訓するミーシャのマネージャー的なサポートのみだけであったが、ロランは違う。


 クラリスが今までサポートしていたことに加え、敵キャラクターの情報や弱点、レアアイテムの場所、それから貴族社会でうまくやっていくための情報を惜しみなく提供してくれる──クラリスの上位互換みたいなキャラだった。

 

(ちょっと腹黒そうだけど格好いいってことで、ロランルートを希望する声もあったんだよね………)

 

 自分の上位互換を前に、エリザベートとロランを見つめる。まるで一対の美しい双子の黒猫みたいだ。

 

「野暮用でね。エリザベートは何をしに? 後ろのご令嬢は………フェルゼン子爵家のクラリス嬢じゃないか?」

「ええ、そうよ。私もちょっと野暮用でこちらに伺ったの。そうだわ。ロラン、貴方この後時間あるかしら?」

「? あるが………」

 

 するとエリザベートはくるりと私の方へ振り返って、口を開いた。


「今から貴女に非道な行いをした男どもに物申してくるけれど、クラリスはここでロランと待っていなさい」

「へ?」

「彼らに何か言いたいことがあるなら付いてきても構わないけれど、これは私の自己満足だから。貴女は巻き込まれた体でいれば良いわ」

 

 「まあ、私が何を言うか気になるだろうと思って、貴女をここまで連れてきちゃったけど」と言いながら踵を返そうとするエリザベートに私は慌てて引き止める。

 

「エ、エリザベート様! どうしてそこまで、私の、ために………」

 

 するとエリザベートはきょとんとする。

 けれどしばらくして気が抜けたようにくすりと笑った。

 

「だからさっきも言ったでしょ。私の自己満足(・・・・)だって」

「でも、」

「それに、貴族の女は何かとしがらみが多いでしょう? 卒業したら、きっと辛くてままならないことがたくさんあると思う。だからせっかくの学園生活くらい嫌な思いはしたくないじゃない」


 そんな彼女に目を見開く。


 それからエリザベートは立ち尽くす私を置いて、そのまま訓練場へ足を踏み入れた。

 訓練着を纏った騎士科の男子生徒達が何事かとエリザベートを遠巻きに見つめる。

 

 そして彼女はある一団を見つけると、彼らの方へつかつかと歩み寄って行った。

 

「────ご機嫌よう。ボードム伯爵家のマルクス様に、ジャガー伯爵家のワートルビー様。それらアルフレド様も、ダリル様も、トーマス様も、先日の夜会以来ですわね」

 

 隅の方で話していた体躯の大きい目立つグループに、エリザベートは何の躊躇もなく話しかける。

 

 彼らは私に対して執拗に嫌がらせを行ってくる男子生徒達だった。

 一体何を言うんだろうとロランの隣で立ち尽くしていると、エリザベートに向けてマルクスという男子生徒が口を開く。

 

「…………これはこれは、エリザベート様。今日はどのような用事があって俺達に?」

「とある噂を聞きましてね。私のサロンに所属する一人の令嬢が騎士科の男子生徒達に非道な嫌がらせを行われていると。そんな騎士の風上にも置けぬような者がいらっしゃると聞いて、どのような者か直接お顔を拝見しに来た次第ですわ」

 

 そしてマルクス達をぐるりと見渡し、エリザベートは「なるほど。このようなお顔なのね」と悪びれなく言い放つ。

 それにマルクスの隣にいたワートルビーが声を上げた。

 

「………何か勘違いをされているのでは? 俺達が一人のご令嬢に非道な行いを? 何の証拠をもってそう言っているか甚だ疑問であるし、変な言い掛かりをつけて侮辱するのは止めていただきたい」

 

 すると彼らはエリザベートの後方に佇む私に気付いた。

 まるで軽蔑するかのように睨みつけてくる彼らに目を伏せる。

 

 しかしそれと同時に私の前に影がかかった。

 ロランだ。私を守るように前へ出てくれる。

 

「…………へえ、婚約者のいるご令嬢が他の男に守られて良い御身分で。その渦中となっている女子生徒にも非があるのでは? そうされる程の理由があって、自らの行いによって裁きを受けているだけなのかと」


 それに息が止まりそうになる。

 前世で私を虐めてきた男の子達の顔が過った。怖くて逃げだして、それを面白がるように追いかけて来た彼らの顔と重なってしまう。

 

 けれど次の瞬間、エリザベートはさも不思議そうに首を傾げた。

 

「まあ………。つまり貴方方はこう仰りたいのね? 婚約者のいる令嬢であろうと、気に入らない相手であれば集団で嫌がらせをしても構わない、と」


 その言葉にマルクス達は顔色を変える。

 

「いや、そういう意味では────」

「そしてその令嬢にも非があるのだから、自分達が裁きを下しているだけだ、と」

 

 彼らの口が止まる。

 エリザベートの声に明らかに怒気が含まれていたからだ。

 

「随分と便利な理屈ですこと。でしたら、次からは教師も法も必要ありませんわね。気に入らない相手を見つけた者が、勝手に罪を決め、勝手に罰を与えればよろしいのですから」

「…………それは」


 そして彼女はゆっくりと微笑む。

 

「私もそうしてしまおうかしら。貴方方の愛する者が、恋人が、親が、将来生まれてくるであろう子が気に入らなかったとしたら、この私が責任をもって相応の罰を下そうとしても、何の問題もないわよね?」

 

 エリザベートの悪魔のような言葉に男子生徒達が息を呑んだ。

 身体の大きな彼らの姿が、今ではとても小さく見える。


「それとも………騎士科の男子生徒ともあろう方々が、『集団で一人の女子生徒を追い詰めること』を騎士の鍛錬だとお考えなのかしら?」

 

 誰も何も答えない。

 答えられない様子で、目の前に佇むエリザベートを凝視する。

 

「それならば、私は貴方方のことを少し誤解しておりましたわ」

 

 そして彼女はにっこりと花咲くように笑った。

 

「騎士の風上にも置けないのではなく────そもそも、騎士を名乗る資格があるのかどうかを疑うべきでしたのね」


 原作ではエリザベートは序盤で退場してしまう。

 ミーシャによる決闘に負け、呪具を使用したということで処罰され、第一王子ウィリアムの婚約者の座から転落する。


 しかし今この瞬間、エリザベートはウィリアム王子の婚約者であり、未来の王妃候補なのだ。

 彼らは誰に口答えをし、怒らせたのか理解した瞬間、血の気が引いたように顔を真っ白にさせた。


 それからエリザベートは息を吐き出し、空気を変えるかのように言い放つ。

 

「…………今後、そのご令嬢には一切関わらないことをここで誓いなさい。分かったわね?」


 エリザベートの言葉に彼らは茫然とした様子で頷く。


 終わったのだろう。

 騎士科の男子生徒達は今では力なく萎びており、私もロランの後ろからエリザベートの姿を一瞥する。


 何とでもないように、まるで悪戯が成功したように微笑むのエリザベートの、何と眩しいことか。


 前世でいじめられた時の自分も同時に救われたような心地となった。


 ────しかし次の瞬間、訓練場に突風が吹き荒れる。

 春の嵐のように突如出現した強風に目を瞑ろうとする、が。


 エリザベートと男子生徒達の横に立て掛けられていた木箱の山がぐらりと彼らに向かって傾くのに気付いた。

 

「エリザベート様!」

 

 そして私はロランの陰から飛び出し、エリザベートと彼らの間に割って入ると────マルクスの腰に刺された訓練用の剣を拝借し、エリザベートの方へ(・・・・・・・・・)飛んできた木箱を一閃(・・・・・・・・・・)した(・・)

 

 咄嗟に《身体強化(ブースト)》の付与魔法を自分にかけていたため、木箱も真っ二つに割れる。

 

「だ、大丈夫ですか!? エリザベート様!」

「え、ええ………」

 

 エリザベートに怪我が無いのを確認し、胸を撫で下ろす。

 

 ふと横を見れば、男子生徒達は倒れた木箱に直撃したのか地面に蹲っていた。そんな彼らを周囲にいた騎士科の生徒達が助け起こそうとしている。

 

(……………………あれ?)

 

 彼らの様子を見るに出血などの怪我も無さそうだ。

 けれどそこでふと思ってしまう。


 あんな木箱を避けられないなんて。


 どうしてこんなにも弱いのだろう、と。




 


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