↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「ただの友達だから」と言って婚約者とイチャつく騎士系令嬢を物理で返り討ちにします  作者: ふくふくまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/10

第4話 男子生徒達からのイジメ


 

 翌朝。

 断頭台にのぼるような気持ちで学園に向かう。


 今日は朝から『付与魔術』の授業があるのだ。ミーシャもエドガーも同じ授業を選択しているため、その時に声をかけて昨日のことについて話そうと考えていた。

 

(本当は嫌だけど…………まず昨日はきついことを言ってごめんなさいって謝らなきゃ。それからエドガーがミーシャと一緒にいるのは見ていて辛くなるから止めてほしいって伝えよう) 

 

 最初からそう言えば良かったのだ。

 婚約者のエドガーが自分よりも可愛くて明るいミーシャと一緒にいるのは不安だと。申し訳ないけれど、もう少し距離を置いてほしいと言えば良かった。


 ミーシャに対して貴族のルールなんかを持ち出してしまったがために話がややこしくなったのだろう。

 ミーシャのような相手には直球で行くのが一番だ。

 勿論ミーシャに「友達だから心配しなくて大丈夫よ!」と言われて押し切られてしまう可能性もあるが、そうなったらそうなったで別の手を考えるしかない。


 そんなことを考えていると、付与魔術の授業が行われる教室に辿り着いた。

 付与魔術の教室は比較的に生徒数が多くて、主に騎士科──中でも魔法騎士を目指す生徒と特進科の生徒が授業を選択している(ちなみに魔術科の生徒はもっと専門的な授業を選択するためいない)

 ちょっと遅めに来たこともあり、ミーシャもエドガーもすでに教室にいるであろう。


 何て声をかけようか。


 そう思いながら教室の扉を開いた瞬間、私の顔に思いっきり水がかかった。

 

(………………へ?)

 

「ゴホッ……けほ……ッ」

 

 咄嗟のことで頭が真っ白になり立ち尽くしていると、複数の男の子達が慌てた様子でやって来る。


「────悪い! 大丈夫か!? クラリス嬢!」


 臙脂色のタイをしていることから騎士科に所属する生徒達だと分かる。

 そして彼らの手には杖があったものだから、魔法か何かで私の顔に水がかかってしまったことを理解した。

 

「本当にすまない! 授業が始まるまでコイツらとふざけて水魔法で遊んでいたんだが、まさか君のような女の子に当たるなんて………」

「大丈夫か? 今すぐに医務室へ行こう」

 

 心配そうな顔をして申し出てくれる彼らに私は「いえ」と首を横に振る。

 

「大丈夫です。水に濡れただけですし………それよりも着替えるために一度寮へ戻ります。私の代わりに今日の授業は休むと先生に伝えていただきたいのですが………」

 

 ふと顔を上げれば、教室の奥からエドガーとミーシャが驚いた様子でこちらを見ていた。

 エドガーとミーシャだけでない。教室中の生徒達が水に濡れた私を注目し、しんと静まり返っている。

 

(あ、どうしよう。制服透けてないよね………?)

 

 学園の制服は真白であるため、それが気になって怖気づいてしまう。

 エドガーが慌ててこちらに駆け寄ろうとするのに気付くものの、何だか恥ずかしくなって教室から出て行こうとした。


 しかしその時、ほんの小さな呟きが私の耳にそっと入ってくる。


「……────これでのぼせ上がった頭も冷えるだろ」

 

(…………………え?)

 

 その言葉に、心臓に冷水がかけられたような心地がした。

 教室の扉は閉まり、廊下で一人ぽつんと取り残される。

 

 同じ授業を選択しているものの、騎士科の男子生徒達の顔と名前が未だに繋がらず、誰がそう言ったのか分からなかった。

 けれど、私に水をかけた誰かが、私にだけ聞こえるような声音で言ったのは確かだろう。

 

(………………わざとだったんだ)

 

 遊んでいて、たまたま私に水がかかったんじゃなくて、わざと私に水をかけたんだ。


 それを理解した瞬間、ゾッと血の気が引いた。

 震える足で足早に寮への道を進んで行くものの、頭がうまく回らない。


(え、何で、どうして────)

 

 私は彼らに何かしてしまったのだろうか。

 身に覚えのない悪意と面白そうな玩具を見つけたかのような無邪気な声が、今も耳にべったりと張り付いている。


 そしてそれからだった。

 少しずつ歯車がずれていくように、学園での生活はおかしくなっていったのは。




 ◇◇◇


 


 一週間後。

 私の学園生活は大きく変わっていた。


 私用ロッカーの鍵が何者かに破壊される。

 いつの間にかペンやノートが無くなっている。

 廊下を歩いていると、騎士科の男の子達が見えなかったと言わんばかりにぶつかろうとする。

 たまに彼らが遠巻きに私を見つめては、嫌な笑みを浮かべてこそこそ話しているのを何度も見かけた。


 はっきり言って、一部の騎士科の男子生徒から嫌がらせを受けていた。


 最初は気のせいかと思ったけれど、偶然廊下の角で彼らの会話を聞いてしまったのだ。

 

 ────あのクラリスって子、結構しぶといよなあ。

 

 ────物壊したり盗んだりしてるけど犯人ばれないようにしてるから、誰に泣きつけば良いか分かんねえんだろ。

 

 ────生家だってフェルゼン子爵家だろ? あそこってパッとしないし、どこの派閥にも入ってないんだよなあ。

 

 ────ていうか、ぶつかった時めっちゃ良い匂いしなかった?


 ────お前、ミーシャが泣かされてるんだぞ。でもまあ…………苛めから助けるムーブすれば一発チャンスあるんじゃね?

 

 ────はあ? やだよ、あんな根暗ブス。お前が行けって。

 

 怖かった。

 あまりの醜悪さに気持ちが悪くなって、自分が彼らにとって体の良い玩具になっているという残酷な事実に恐怖する。

 

 「どうしてこんなことを」と思ったが、彼らの会話でミーシャが原因であることを察した。

 

 おそらくきっと、ミーシャが同じ騎士科の彼らに何か言ったのだろう。

 勿論彼女の気質的に直接私に制裁を下してくれと言ったわけではないと思う。けれどいじめを助長するような物言いをして、騎士科の男の子達を味方につけたのは、深く考えなくても分かった。


 現にあれ以来、ミーシャとエドガーのもとへ行こうとすると、どこからともなく騎士科の男の子達が現れて彼らを連れて行ってしまうのだ。

 

「…………………………はあ」


 次に何をされるのか怖くて、騎士科の男子生徒達となるべく顔を合わせないよう、人気のない校舎裏のガーデンチェアで一人項垂れる。


 彼らはとても巧妙で、一切の証拠も残さない。

 だから先生に告発しようにもすることができず、ずるずると時が過ぎてしまった。

 

 それに彼らは騎士科でも家格は高く目立つ方で、きっと先生方の覚えもめでたいだろう。

 そんな彼らと平凡な私、一体どちらが信用されるだろうか。

 

(……………私、今世でもいじめられるんだ)

 

 ふと前世の記憶を思い出す。

 高校に入学したばかりの頃、三年生のちょっとやんちゃそうな先輩から告白をされて断ったのだ。

 しかしそれが悪かったのか。その先輩が友人らと共に執拗に私をからかうようになった。

 

 ────勘違いしてんじゃねえよ、ブス!

 

 ────お前、こんなんに告るとか見る目無さ過ぎだろ!


 暴力的なことは一切なかったけれど、彼らの嘲笑が今でも鮮明に蘇る。

 「ギャハハ!」と笑う無邪気な声と、私を標的にして遊んでいる騎士科の男子生徒達の笑い声が嫌でも重なった。

 

(私、本当に…………)

 

 どうしてこんなにも、うまく生きていけないのだろう。


 私には前世の記憶があるのに。

 人生二週目なのに何をやってもうまくいかない。

 

 前世と同じようにいじめられて、惨めな思いをして、小説や漫画のキャラクターみたいにやり返すこともできない。


 こんな自分が心底嫌になる。


 怖くてたまらなくて、何も動けない自分が、本当に────

 

「あら、こんなところにいたのね。ようやく見つけたわよ」

 

「へ?」

 

 しかしその時、鈴を転がすような声が降ってきた。

 ハッと顔を上げれば、そこには一人の女子生徒が佇んでいる。


 緩くウェーブした艶やかな黒髪に、陶器のような白い肌。

 気の強そうな瞳が特徴的な、私と同じ特進科の制服を纏った美しい女子生徒が呆れたように見下ろしていた。

 

「え、あ、あの………?」

「貴女、フェルゼン子爵家のクラリス嬢よね?」

「は、はい」

「婚約者のエドガー・ウッドロックとミーシャ・ホワイトが仲の良い、あのクラリス・フェルゼン?」

「ま、まあ、そうですが………」

 

 歯に衣着せぬ物言いの女子生徒に私は呆然としながらも頷く。


 一体何なんだろう。

 ここはじめじめとした校舎裏で、誰も好んで来ようとしない。それなのに、なぜ彼女は私の前に現れたのか。

 

 すると彼女は私に手を差し伸べて、高らかに言い放った。

 

「私はエリザベート・ヴァロワ。今から貴女を私の『サロン』に招待するわ!」

 

 この国で長い歴史をもつヴァロワ侯爵家の長女、エリザベート・ヴァロワ。第一王子ウィリアム様の筆頭婚約者にて、特進科の才媛。

 

 彼女のことは私もよく知っていた。


 だって彼女は────


 この世界『白薔薇の騎士~運命を切り開く乙女~』の悪役令嬢の一人、エリザベート・ヴァロワなのだから。





 


読んでいただき、ありがとうございました!

もし良ければブクマや評価をつけていただけると、とても励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。