第30話 闇の魔術師
魔術科の生徒達に囲まれるオルガを微笑ましく見守っていると、突如監督役の三年生が現れた。
魔術科の天才、クロード・セルヴァン。
学園随一と呼ばれる魔力量の多さと高い魔法技術により、卒業後は城の魔術部への道が定められている平民出の青年。
乙女ゲーム『白薔薇の騎士~運命を切り拓く乙女~』では攻略キャラクターの一人でありながら、ウィリアムや騎士団長の息子オーウェンと同じく『最強』と呼ばれる魔術師だ。
その魔術師クロードがオルガに向かって言い放つ。
「闇の魔術師オルガ・ノースモント。貴様の退学を賭けて──俺と決闘しろ」
そしてそんな彼に、エリザベートがオルガの前に庇うように進み出た。
「いきなり現れて、一人の令嬢を『闇の魔術師』呼ばわりするなんて失礼にも程がありますわ。一体どういうつもりでそのようなことを?
オルガ・ノースモント嬢への決闘依頼を含め、一から十まできちんと説明なさらなければ、どうなるかお分かりで?」
「説明も何もないだろう。そこにいるオルガ・ノースモントは、研究棟の地下室で違法な禁薬を生成・販売している。地下室へ直接赴いてみれば、あったのはポーションの材料だけだったが……──そんなものはいくらでも偽装できるだろう」
「な、」
「オルガ・ノースモントをこれ以上野放しにしてみろ。禁薬を生成し、外部へ販売しているのだとしたら──学園そのものが、知らぬ間に犯罪へ加担していることになるんだぞ」
クロードの言葉にエリザベートが怒りでぷるぷると震えている。
それは私も同じであった。
(じゃあ何? オルガは何の信憑性もない噂だけで退学しろって言ってるの? いくらでも偽造できるからって碌に調べもしないで? ただ噂が流れているだけで?)
そんなものに納得できるわけがないだろう。
私もエリザベートと同じように、オルガの前へ進み出る。
「クロード・セルヴァン様。それは私も納得できません。碌に調べもせず、信憑性も何もない噂だけでオルガ様を退学させようとするなんて……そもそもそういった権利だって、クロード様にはございません」
「だから決闘を申し込んでいるんだろう」
「は?」
そしてクロードが、まるで地面に蠢く虫けらを目にするかのように見下す。
「噂だからとオルガ・ノースモントを罰せないのなら、俺が代わって貴様を誅罰する。──その手段として、決闘を申し出ているんだ」
そんな彼の言葉にふとゲームの内容を思い出した。
クロード・セルヴァンは幼い頃、闇の魔術師によって両親を殺されている。
闇の魔術師が戯れに聖教会のワインに禁薬を仕込んだのだ。事情を知らずにそれを口にした敬虔な信徒達は次々と命を落とし、その中に幼いクロードの両親もいた。
クロードの過去を思うと、オルガという存在が許せないのも分からなくもない。
(でも、だからって……)
するとその時、私達のもとへウィリアム達がやって来る。
「クロード殿、野外演習の成績発表だってまだ終わってないんだぞ。それなのに決闘の申し込みなんて随分と物騒じゃないか」
「殿下!」
「エリザベートにクラリスも落ち着け。決闘は双方の意思によって決まる。──オルガ嬢、お前はどうしたい」
そう言ってウィリアムはオルガに真っ直ぐと尋ねる。
ウィリアムは決して決闘を止めることはしないだろう。
ミーシャ対エリザベートの決闘だって彼は静観していたのだ。
本人達の意思を尊重すると言っておきながら、個人を見定めようとする彼の姿勢はゲームと全く同じであった。
それが一部のユーザーからは冷酷であると称されていたものの、王族として良くも悪くも全ての人間に対して平等でいるのかもしれない。
するとオルガはしばらくして、そっと口を開いた。
「…………私は、このままじゃ駄目だとは思っています。変な噂が流れて、自分の知らないところで好き勝手言われて、『違う』と否定しても誰も信じてくれなくて……」
どこか苦しそうに吐露するオルガが痛ましい。
「きっとそれは、この先ずっと続く。……それならここで、何の悔恨もなくはっきりと悪評を断ち切りたい」
そしてオルガがそっと顔を上げて、クロードに言い放った。
「クロード・セルヴァン様。その決闘、お受けいたします。この決闘にて、必ず私は自分の無実を証明してみせる」
それにクロードが満足そうに頷く。
(オルガ様…………)
決闘に負けたら、オルガは退学になる。
しかし魔力を持つ貴族の子女は、その能力と身分から王立学園に通わなければならないのだ。
貴族の子供が地方の反乱分子とならぬよう、そして魔力のある子供が闇の魔術師にならぬよう──王家への忠誠を見せるためにこの学園に集められる。
勿論、病を患っている者やすでに結婚している者などは例外として通わなくても問題ない。
けれどオルガの場合、もし退学してしまったらどうなるだろうか。
他家の者と結婚しなければならない。
それが無理なら王立学園への出仕・在学義務を免除してもらうため、国に『免除金』を納めなければならない。
(でも、そのどれもが難しかったら?)
王家へ忠誠を見せるため『忠誠の呪印』を身体に刻まなければならないのだ。
貴族としての義務も果たせず、そうしなければ王家への忠誠を見せられない者として、まるで罪人の証のように一生痕に残る。
無実かもしれない、女の子の身体に。
「…………あの、オルガ様、」
「大丈夫。大丈夫だから」
オルガが笑みを浮かべて頷く。
それがあまりにも痛々しくて、私は言葉を失った。
嫌な予感がしてならない。
この少女がこれ以上傷付く姿を見たくなかった。
読んでいただき、ありがとうございました!
もし良ければブクマや評価をつけていただけると、とても励みになります。




