第28話 一緒にいれば良いじゃない
「……──なるほど。状況は全て把握したわ」
旧音楽準備室──通称、野薔薇会のサロンにて。
エリザベート、セシリア、ヴィヴィアンがオルガの事情を聞いて、納得した様子で頷く。
「行きましょう!」と言った割に名案が思い付かなかった私は、一先ず野薔薇会へ向かったのだ。
トレメイン先生の雑用を終えたら合流すると伝えていたため、サロンにはすでにエリザベート達が待っており、オルガを引き連れた私に目を丸くした。
そしてオルガはというと心なしか緊張した様子で座っている。
そこで私はようやく我に返った。
「あ、あああの、ごめんなさい! 私だけだと良い考えが思い浮かばなくて、エリザベート様達にもお話を伺おうと無理矢理オルガ様を引っ張ってしまって……!」
「い、いえ、全然大丈夫よ。ただ、ちょっと驚いちゃって……」
「クラリス? 貴女オルガを連れて来るのは良いけど、きちんと教えてあげなさいな」
エリザベートが尤もなことを言って私を窘める。
するとそんな私達を見ていたセシリアとヴィヴィアンが口を開いた。
「オルガ様のことは知っておりますわ。魔法薬学の授業でご一緒しておりますから」
「私も占術学の授業で一緒だけど、魔術科の人達ってオルガに聞こえるように陰口を言うんだもの。見ていて、とても不快だったわ」
そんな彼女らにオルガは気恥しそうに話し出した。
「セシリア様は魔法薬学でペアを作る時、いつも一緒に組んでくれるんです。ヴィヴィアン様は魔術科の生徒が私について話していた時、一度諫めてくれたことがあって……」
オルガとの繋がりに素直に驚く。
しかしセシリア達は表情を暗くした。
「なので……エリザベート様達がオルガ様と中々出会えないと聞いたので、私の方からオルガ様にお伝えしようと思っていたんです。ですが、最近授業でお見かけしなかったので……」
「そうそう。授業に顔出さないからどうしたのかしらって。今日はそのことについてエリザベート様やクラリスに相談しようと思っていたのよ」
それで私がオルガ自身を連れて来たものだから、大層驚いたらしい。
するとオルガは申し訳なさそうに頭を下げる。
「……ごめんなさい。最近噂がますます酷くなってきて、外を歩くのも嫌になって、地下室に閉じこもっていたんです」
「で、私やクラリスからも避けていたと?」
「申し訳ありません。その、私の悪評のせいで貴女達に迷惑をかけると思うと、怖くて……」
そんなオルガにエリザベートがはあと溜め息を吐いた。
「あのね、私やクラリスを甘く見ないでちょうだい。……クラリスはともかく、私はどんな噂を流されたところで、いちいち気に病むほど繊細じゃないのよ」
エリザベートが真っ直ぐオルガを見つめて告げる。
「私はいずれこの国の王妃となる身。望む望まないに関わらず、誰もが私の一挙一動に目を光らせる。そんなこと、最初から承知の上よ。──噂の一つや二つ、好きに流させておけばいいわ。その程度で私の何が揺らぐというの?」
その言葉にオルガが目を見開く。
そして彼女は震える声で小さく「ありがとうございます」と呟いた。
そんな彼女に私もほっと胸を撫で下ろす。
私も同じだ。自分が傷付くよりも、誰かが傷付く方がずっと辛いから。
するとエリザベートは空気を変えるように話し出した。
「ま! でもこれで解決したも同然だわ。一度流れた噂を消し去るのは難しいけど、今回は直近で野外演習があるんだもの!」
「というと?」
「オルガのことをこの野外演習で、褒めて褒めて……褒めまくればいいのよ!」
そんなエリザベートに首を傾げていると、私よりも付き合いの長いセシリア達が「なるほど」と納得する。
「つまりオルガ様の悪評を、私達が積極的に良い評判で上書きしていく……ということですわね。野外演習で、オルガ様の人間性を見せつけるチャンスにもなりますし」
「エリザベート様やクラリスとも仲良くやっている姿を周囲に見せつければ良い牽制になるでしょう。私とセシリアは別エリアだから難しいけど、応援するわ!」
セシリアとヴィヴィアンの言葉にエリザベートはにっこりと頷く。
「『オルガ・ノースモントの後ろには次期王妃候補と白薔薇の騎士の娘がついているのよ』って、しっかり知らしめるの。そうすれば誰も軽々しく噂なんて口にできなくなるんだから!」
そしてエリザベートが呆れた様子でオルガに言い放った。
「大体一人でいるから、隙をつかれてあれこれ言われるのよ。だったら私達といれば良いじゃない」
「ねえ、クラリス?」と同意を求めるエリザベートに私も首を縦に振る。
その言葉が、どれだけオルガの心を救うか気付いているのだろうか。
現にオルガの瞳には涙の膜が張られていた。
その姿を見て、彼女を取り巻く噂が嘘か本当かどうかなんて、言わずとも分かるような気がした。
「いい? オルガ。この野外演習で貴女の評判を上げるつもりだけど、そのためには貴女自身の頑張りも必要よ。貴女の得意な魔法で、私達と一緒に頑張ってくれるかしら?」
「……──はい」
オルガの瞳から涙が零れ落ちる。
ゲームの彼女はつんつんしていて、取っ付きづらくて、無表情で、いつも孤立していた。
でも今は違う。
年相応の、たった16歳の女の子がそこにいた。
しかしその時ふと思う。
オルガの様子を窺うに、彼女が潔白であるように見えてしまう。
けれど何故、ゲームでは彼女の寮部屋から禁薬の材料が見つかったのだろうか──と。
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