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「ただの友達だから」と言って婚約者とイチャつく騎士系令嬢を物理で返り討ちにします  作者: ふくふくまる
第2章

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第26話 悪役令嬢の噂 リリア視点




 クラリスとロランのもとから立ち去ったリリアは、そのまま魔術科の研究棟へ向かう。

 

 研究棟には魔術科の生徒達がよく利用する談話室があるのだ。

 王族や高位貴族が利用する専用の談話室に比べれば簡素な造りだが、中央には円環状のソファが置かれ、壁一面には古い魔導書が所狭しと並べられている。


 そしてリリアは談話室へ真っ直ぐと向かい、人が一番集まっているソファの一角に腰を下ろした。

 それからちょうど隣に座る女子生徒に枝垂れかかる。

 

「……──はあああ、もう立ち直れないかも」

「どうしたの?」

「さっきクラリスって子がチャラい男に唆されていたから助けようとしたんだけど、無視されちゃった。女よりも男の子の方が良いんだって~…」

 

 落ち込んだ様子で言ってみせれば、女子生徒が「大丈夫?」と心配そうに声をかけた。

 そしてそれを見た周囲の生徒達が「クラリス? クラリスって、あの決闘の?」「男好きってこと?」と騒めき出し、リリアはこっそりとほくそ笑む。

 

(ざまあみなさい。クラリス・フェルゼン! 芋臭いアンタが調子に乗るからいけないのよ!)

 

 こうやって人の悪評がさざ波のように広がっていくのを、リリアはよく知っている。

 事実と嘘を交えて話せば、悪意をもった誰かがそれを都合よく切り取って広めてくれるのだ。


 聖教会現教皇にはリリアの他に三人の養子がいて、誰が次期教皇になるか見定められている。

 教会内の派閥争いも常日頃からされており、他の次期教皇候補達の足を引っ張るため、こういった権謀術数を巡らせるのは得意であった。


 そして今回噂の中心がクラリスという有名人であれば、あっという間に火は燃え広がるだろう。

 「私は決して悪くありません」という顔をして、適宜悪評(まき)に火をくべれば、あっという間に業火に焼き尽くされる。

 

 ……──オルガ・ノースモントの時だって、そうだったのだから。


 表向きは気さくで明るい、誰からも愛される『聖女』を演じながら、リリアは気に入らない人間を息するように排除してきた。

 

 自分のことを特別扱いしない人間。

 ちょっと目立つからといって調子に乗った人間。


 その全てが気に入らなくて、彼らの歪んだ顔を見ると胸がすくようだった。

 

(さっきのロランの態度もむかつくけど、イケメンだしなあ……。それに野外演習では同じチームだし、ウィリアム殿下の前で不仲を見せつけるのも悪手だわ)


 この学園で最も存在価値(カースト)の高いウィリアムの──その従者がロランなのだ。

 ロランを怒らせてしまったとはいえ、これ以上彼と仲違いするのは避けるべきであろう。

 

(あーあ、ロランの弱点ってクラリスなのね。でもクラリスの悪評が流れたら多少変わるかしら?)

 

 性格は悪いが顔は良いのだ。

 できれば彼とはもっとお近付きになりたいと思う。


 するとその時、リリアの真向かいに座る男女グループから会話が聞こえてきた。

 

「確かクラリス・フェルゼンと野外演習で一緒なのは、オルガ・ノースモントだったような……」

「オルガ? まじ? ていうか、あの子野外演習に参加するの? 協調性皆無なのに?」

「でもこの間、オルガと少し話す機会があったけど、別に普通だったぞ? 魔法薬の材料忘れたんだけど、材料の一部を分けてくれたんだよな」


 魔術科の中でも目立つ男女グループがそう話しているのに、リリアは内心溜め息を吐きながら席を立つ。

 そしてそのグループのもとにさりげなく近寄れば、彼らは笑みを浮かべてリリアを歓迎した。


「リリアじゃん。どうしたの?」

「ううん、オルガの話してるなあって」

「ああ、実はこの間魔法薬の材料を貸してくれて……」

「……ええ! それって大丈夫なの? 全然詳しくないんだけど、オルガの使う魔法薬の材料には禁薬の材料も交じってるそうよ。危ないんじゃない?」

 

 心配だわ……とでも言うような顔をしてみせれば、オルガから魔法薬の材料を貰った生徒が気まずそうに顔を顰める。

 そしてリリアは肩を落としながら続けた。

 

「そりゃ、オルガの身の上には同情するわよ? 病気の妹さんの治療費を稼ぐために禁薬を作って売っているだなんて。でも噂によると、オルガって禁薬を『闇の魔術師』に流しているらしいわよ」

 

 『闇の魔術師』というのは禁忌指定魔法を使う犯罪者達のことだ。

 違法な魔物の生体取引や人身売買、オルガがやっていると噂される禁薬の流通も、彼らによって行われている。

 

「先生達もオルガを監視しているみたいで、退学処分も検討しているんですって。……それにオルガ自身も禁薬を使って、誰かを殺そうとしてるって噂もあるのよ」

「誰かって?」

「……そうね。たとえば魔術科の私達とか!」

 

 そう言えば、周囲の生徒達が「キャアッ」と騒ぎ出す。


 リリアは、オルガ・ノースモントのことがずっと気に入らなかった。


 艶やかな銀髪に、透き通るような菫色の瞳。

 まるで雪の妖精と見紛う程の美貌と魔術科の特待生として入学したオルガは当初、誰よりも注目されていた。

 聖教会現教皇の養女であるリリアを差し置いて、周囲の目を掻っ攫っていったのだ。

 

 そのくせ「騒がれて迷惑です」みたいな顔をして腹が立つ。だからリリアは噂を流した。


 夜な夜な禁薬を生成して、学外に売り飛ばしていると。

 それを闇の魔術師に流通させていると。

 

 人付き合いが苦手なためか、あっという間に孤立して、時折女子グループを羨ましそうに見つめるオルガ。そんな哀れな姿に随分と気が晴れたものだ。


 美人だし、成績も良い。

 だからちょっとくらい痛い目みせたって良いじゃない。

 

 リリアにとって、オルガの存在そのものが癇に障った。


 するとその時、リリアのグループに人影がぬっと落ちる。

 ふと顔を上げれば、青髪の美男子が佇んでいた。

 

「…………今、闇の魔術師といったか?」

「…………へ?」

 

 魔術科きっての天才、クロード・セルヴァン。

 彼が能面のような顔して、リリア達を見下ろしていた。





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