第24話 ヒロインのような聖女
『聖女』リリア・フォンティーヌ。
魔術科に所属する女子生徒で、聖教会現教皇の養女。
回復魔法だけでなく、魔物の死骸から発生する瘴気を浄化する魔法も使えることから『聖女』と呼ばれている。
そんなリリアが可愛らしい笑みを浮かべて、明るく告げた。
「改めまして、私はリリア・フォンティーヌ! どうぞよろしくね!」
それに私もエリザベートも会釈する。
『白薔薇の騎士~運命を切り拓く乙女~』において、彼女はゲーム中盤……クラリスが退場した後に登場する。
新たな『女友達』枠として登場するリリアはミーシャを溺愛し、彼女に近寄る男達に向かって「純粋なミーシャが汚れるわ!」と牽制する保護者みたいなキャラクターだ。
しかしそんな聖女の登場に、私は冷や汗をだらだらと流した。
(私、ミーシャを休学に追い込んじゃったけど……)
まだ学園に入学したばかりのこの期間は、ミーシャとリリアに接点はないはず。
しかし「可愛い女の子が大好き!」と豪語するリリアがすでにミーシャのことをチェックしていて、ミーシャを休学に追い込んだ私を恨んでいたらお終いだ。
聖教会という身分関係を問わない組織の、その一番偉い人の養女。彼女を敵に回したら、敬虔な聖教会信徒の多いこの国で後ろから刺されてしまうかもしれない。
(でもこの様子だと、多分セーフかな……?)
敵意もなく、私に向かってにこにこと微笑むリリアにひとまず安堵する。
自分がリリアの言う『可愛い女の子』かどうかはさておき、もしかしたら同性として甘く見積もってくれたのかもしれない。
するとその時、リリアの後ろからウィリアムが割って入った。
「エリザベートとクラリス嬢はどうしてここに?」
「今度の野外演習で、魔術科のオルガ・ノースモントという令嬢と同じチームを組むことになったんです。なのでオルガと顔合わせできたらと思って来てみたのですが……」
「その様子だと会えなかったようだな」
「ええ……」
苦笑するエリザベートにウィリアムが頷く。
すると今度はエリザベートが尋ねた。
「殿下はどうしてこちらに?」
「まさしく俺も同じだな。今回の野外演習で俺とロラン、そして『聖女』リリア・フォンティーヌ嬢が選ばれた。彼女と顔合わせをするために、この魔術科の研究棟に足を運んだというわけさ」
「まあ、ちなみにロランは?」
「ロランは野暮用だ。使いを頼んでいる」
野暮用って何だろう?
そう思うと共に、ウィリアムの言葉に「そうなったのか」と心の中で納得する。
原作のゲームにおいて、主人公のミーシャはウィリアムとロランとチームを組むのだ。
しかし今回ミーシャは学園を休学してしまっているため、どういったチーム編成になるのだろうと思っていたが、ここにリリアが入ったとのことらしい。
(こうやって見ると、リリアがヒロインみたいだなあ)
日に当たると金色に輝く薄桃色の髪に甘い顔立ち。一見おっとりしていそうに見えるけれど、気さくで明るい性格をした美少女。
そんなリリアの隣には第一王子ウィリアムがおり、まるで乙女ゲームのスチルのように見えた。
するとリリアが拗ねたように口を尖らせる。
「良いなあ。クラリスにエリザベート様にオルガ……女の子三人で、なんて華やかなの! こっちは男二人でむさ苦しいったらありゃしないのに」
「おいおい、俺の前でそんなことを言うのか?」
「えー? でも殿下は一癖も二癖もあるんですもの。純粋な女の子達が殿下と同じチームにならなくて良かったわ。殿下のお相手なんて、私くらいにしか務まらないから!」
やれやれと言った様子で肩をすくめるリリアに、ウィリアムが「酷い言い草だな」と朗らかに笑い飛ばす。
ふとエリザベートを横目で窺えば、笑みを携えながらも目は笑っていなかった。
(ミーシャもだけど、リリアも恋人の近くにいたら心配になるタイプの女の子よね……)
女の子が大好きと言っておきながら、ゲームクリア後、ミーシャが攻略しなかった男子キャラクターとちゃっかり結ばれていたりするのだ。
良い子なんだろうけど、ミーシャとのいざこざを経験した今、やや冷めた目で見てしまう。
「あ! ごめんなさい! エリザベート様の前で、余計なこと言っちゃったわよね?」
「いえ、何の問題もないわ」
「もう私ってば、変なところで抜けてるのよね。でも私は貴女達、女の子の味方だから安心して」
するとリリアはこほんと咳払いし、話を変えた。
「お詫びと言っては何だけど、オルガについて教えてあげるわ」
そして彼女はそっと目を伏せて続ける。
「…………あの子、本当は可哀想な子なの。妹さんが病気みたいで、その治療費を賄うために禁薬の販売をしているんですって。だから野外演習では優しくしてあげてちょうだい」
リリアの言葉にふとゲームのシナリオを思い出した。
投獄された後、オルガに対してノースモント伯爵家は一切の保釈金も弁護人費用も支払えず、彼女はそのまま牢獄で過ごすこととなった。
ノースモント伯爵家は北方に領地を持つ一族で、その厳しい気候から財政難が続いている。
もしかしたらオルガは、妹の治療費のために諦めたのかもしれない。
するとその時、ウィリアムが口を開いた。
「そろそろ俺達は行くぞ。野外演習に向けて、打ち合わせもあるからな」
「あら、もうそんな時間? クラリスやエリザベート様とお会いできて良かったわ! それじゃあ、またね!」
そして彼らは私達を残して、その場から去って行ってしまった。
◇◇◇
「………………私って、性格悪いわよね」
研究棟からの帰路にて、エリザベートと共に歩いていると、彼女が苦笑しながらこぼす。
顔は笑っているものの、どこか傷付いているようにも見えて心が痛んだ。
リリアはきっと良い子なんだろう。
気さくで、明るくて、ちょっと抜けていて……女の子が大好きな少女。ミーシャみたいに意固地にならず、悪いと思ったらすぐに謝罪してくれる。
けれど同時に自分の性格が悪くなったように思えて、自己嫌悪してしまうのだ。
「…………そんなこと、絶対にないですよ」
「言い切るわねえ」
「はい」
落ち込むエリザベートに強く頷く。
だって謝ったからと言って許せないことは多々ある。
天然だからとか抜けているからと言われても、それは絶対に免罪符にはならない。
「リリア様のことはともかく……また後日、オルガ様を探しましょう。それに野外演習までやることはたくさんあります」
「そうね。野外演習に向けて、やれることはやらないと。演習でどれだけポイントを集められたかによって、成績や評価は変わるんだもの」
好成績を残した生徒達は希望職種へのインターンの推薦がされる。主に騎士科や魔術科のメリットが多いけれど、特進科だって一部授業の免除等優遇されたりするのだ。
出来るかどうかは分からないけれど、ベストを尽くすべきである。
その最中、ふと私はリリアの言葉を思い出した。
────…………あの子、本当は可哀想な子なの。妹さんが病気みたいで、その治療費を賄うために禁薬の販売をしているんですって。だから野外演習では優しくしてあげてちょうだい。
あの時ふと、リリアから嫌な感じがしたのは何故なんだろう。
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