第23話 三人目の悪役令嬢
オルガ・ノースモント。
青みがかった銀髪に美しい菫色の瞳をしたノースモント伯爵家の令嬢であり、乙女ゲーム『白薔薇の騎士~運命を切り拓く乙女~』に登場する悪役だ。
魔術科の研究棟にある地下室で、夜な夜な『惚れ薬』や『変身薬』等の違法禁薬を生成しては、学外に販売しているという噂を持つ魔女。
おまけに禁薬を使って魔術科のライバル達を毒殺しようとするオルガに、ミーシャは居ても立っても居られず決闘を挑む。
────違法な薬を使って誰かを蹴落とそうとするなんて……そんな卑怯な真似は許さない!
────剣を振り回すことしかできない貴女に分からせてあげる。
そしてミーシャはオルガとの決闘に勝利。
またオルガの寮部屋から違法禁薬やその材料が大量に発見され、最後には投獄される──といったシナリオだ。
◇◇◇
野外演習に向けて、オルガと顔を合わせた方が良いだろう。
そのため現在、私とエリザベートは魔術科の生徒達がよく集まる研究棟に足を運んでいた。
研究棟には研究室がいくつも存在し、将来宮廷魔術師を目指す生徒達により専門的な授業が開かれる。
正直私は簡単な付与魔法しか使えないため、わざわざ研究棟の研究室でやるような授業を選択していない。エリザベートもそうらしく、私達がここに来るのは初めてだった。
しかしいくらオルガを探しても、彼女はどこにもいない。
時折廊下ですれ違った魔術科の生徒にオルガのことを聞いてみるけれど、皆オルガの名前を聞くと一様に眉を顰めた。
────オルガ・ノースモント? 今度の野外演習で彼女と同じチームに? それは災難だな。
────あの子ってば、違法薬物を生成して荒稼ぎしているそうよ。
────しかも気に入らない子を毒殺しようとしたみたい。
────怖いわよね。あの子に目を付けられたら、何をされるか分からないわ。
そんなことを口々と話す彼らに一気に不安になる。
ゲーム内でもオルガはつんつんしていて、ずっと不機嫌そうな顔をしていた。
気難しそうで人嫌い。
そんな彼女と野外演習をうまくやっていけるだろうかと心配になるが、同時にオルガの悪評を聞いて自分の過去と重ねてしまった。
────人の子の皮を被った『化け物』かもしれないぞ。
私が幼い頃、魔物を倒した時も、パルヴァス村の村人達から悪評を流されてしまった。
末端とはいえ貴族の血が流れている私を、村人達は逆上させたらどうなるかと恐れたのだ。
そのことを思い出すと、オルガに流れる悪評だけで彼女がどんな人か決めたくはなかった。
「…………オルガ・ノースモントって子、あまり評判が良くないみたいね」
研究棟の廊下を歩きながら、エリザベートが溜め息を吐く。
悪評だけでは決めたくない。
しかしこれはあくまで私個人の考えであって、同じチームであるエリザベートは違うかもしれない。彼女が火のないところに噂は立たないと思う可能性だってある。
しかしエリザベートが、くるりと私の方へ振り返った。
「でも実際に話してみないと分からないものよね! どんな方なのか、この目でしっかり確かめてみないと!」
目をきらきらと輝かせながら話す彼女に、肩の力が抜けていく。
……そうだよね。
エリザベートは、そういう人だもんね。
それは私自身がよく知っている。
そういうところに、私も救われた。
「……私も、そう思います。まだ野外演習まで時間はありますし、気長にいきましょう」
「ええ!」
エリザベートが笑みを浮かべて頷いてくれる。
今日のところはオルガに出会えなかったけれど、まだ時間はあるのだ。また次の機会にでも伺おう。
そして私とエリザベートが魔術科の研究棟から踵を返そうとした時、後ろから何者かが声をかけてきた。
「……──そこにいるのは、エリザベートにクラリス嬢じゃないか?」
振り返ってみると、そこにはけぶるような金髪に爛々と輝く赤い瞳の──どこか若獅子を思わせるような青年が佇んでいた。
このリュネール王国第一王子ウィリアムだ。
そして彼の後ろには、ストロベリーブロンドの髪をした可愛らしい雰囲気の少女が並んでいる。
一瞬誰だろうと思ったが、すぐにその少女の正体が分かった。
(聖女、リリア・フォンティーヌ……)
魔術科に所属する『聖女』リリア・フォンティーヌ。
ゲーム内にも登場する女子生徒で、中盤クラリスが退場した後、主人公のミーシャに対して魔術的なサポートをしてくれる味方キャラクターだ。
するとリリアがトッと駆け出し、ウィリアムよりも前へ進み出た。
そして私とエリザベートの手を片方ずつ握って、花咲くように笑う。
「初めまして! 私はリリア・フォンティーヌ! こんな可愛い女の子達に出会えるなんて、すっごくラッキーかも!」
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