第22話 野外演習に向けて
ミーシャとの決闘から一ヶ月が経った。
春先ということで若干肌寒かったものの、今ではすっかり暖かくなって、初夏の日差しが降り注ぐ。
入学当初の浮足立っていた雰囲気はすでになく、生徒達は各々の人となりを理解するようになり、関わる人間も次第に固定化されていった。
そしてその最中、私達に次に待ち受けるのは『野外演習』という授業であった。
「もうそろそろ野外演習のチームメンバーが発表されますわね……!」
旧音楽室を改築したサロン──通称、野薔薇会にて。
文学少女風の令嬢セシリアが全てに絶望したような顔をして、がくりと項垂れる。
そんなセシリアにヴィヴィアンが「なるようにしかならないわよ」と苦笑し、エリザベートが「そんなことないわ」と励ました。
そして私も「この間もこんなことを話したなあ」と思いつつ、セシリアの背中をぽんぽんと摩る。
野外演習というのは、その名の通り実地訓練のことだ。
騎士科、特進科、魔術科の一年合同の授業であり、学園がランダムで(と言いながら貴族間のパワーバランスを考慮して)選んだ三人一組のチームで行わなければならない。
そして学園の指定したエリアにて、ポイント分けされている素材を採取し、チーム毎に合計ポイントを競うといった内容だ。
ちなみにその素材というのは薬草や魔鉱石といったものもあるのだが、高ポイントのものになると魔物の皮や牙なんかも指定されている。
そのため優勝を目指すことを考えるのならば、チームメンバーは実力のある者が好まれる。そういったわけで、体を動かしたりするのが苦手なセシリアにとっては、地獄のようなイベントであった。
(分かる……! 分かるよ、セシリア……! 今でこそこんなマウンテンゴリラのような力を持ってして生まれたけど、私も前世では体育祭とか死ぬ程嫌だったから……!!)
勿論体を動かすのが嫌というのもあるが、一番嫌なのは自分の至らなさ故に周りに面倒をかけてしまうことだ。
体育祭にて、自分の足が遅いせいでリレーが最下位になってしまったというのに、心優しきクラスメイト達が「ナイスファイト! 結果よりも過程だよ!」と励ましてくれた──そんな前世の記憶を思い出し、申し訳なさと居た堪れなさで胃がキリキリと痛む。
(これが個人でやるならまだしも、チームでやるから余計に辛いんだよね……)
「これが私個人でやるならともかく、同じチームの方に迷惑をかけてしまうかもしれないのが心配で……」
私と同じような考えを言うセシリアに思わず抱きしめてしまいたくなる。
しかしまだ友人となって日の浅いセシリアにそれをするのはハードルは高く、代わりに「大丈夫ですよ」と声をかけた。
「セシリア様はすごく頭が良いし、冷静ですし、俯瞰して物事を見ることができます。きっとチームでもセシリア様にしかできない役目はあるんじゃないでしょうか」
「クラリス……」
セシリアの頭脳ならばエリアのマップを暗記することは造作もないだろうし、効率の良い素材採取ルートもすぐに割り出せてしまうだろう。
そして「なるべく気を病まないでほしい」と言えば、セシリアは苦笑しながら「ありがとう」と礼を言ってくれた。
「…………そうですわよね。野外演習まで時間はまだあるし、それまで前年度の傾向と今年指定されるエリア予想などしましょうかしら」
「良いと思います!」
「ふふ、でもクラリスが同じチームになってくれたら百人力なんですけどね」
「え?」
くすくすと笑いながらそう話すセシリアに虚を衝かれる。
するとそれにヴィヴィアンもエリザベートも頷いた。
「それはそうよね! 剣の得意なクラリスがいるなら攻撃面は問題ないし」
「ごく稀に他チームから素材を奪うチームもあると聞くわ。でもクラリスがいれば、そんな馬鹿なことを仕掛けてくる人もいないでしょうね」
そんな彼女達の称賛に素直に照れてしまう。
確かにミーシャがあの程度なら一年生の騎士科なら倒せてしまうだろう。
けれど私には魔術への耐性があまりないし、魔術師相手にどうやって戦えば良いのか分からない。
そのため相手が魔術科の生徒になると手も足も出ない可能性がある。
いざという時のために、野外演習までに対魔術師への対策もしなければならないなと思った。
◇◇◇
乙女ゲーム『白薔薇の騎士~運命を切り拓く乙女~』には敵キャラクターが何体も出てくる。
乙女ゲームということでメインシナリオは攻略キャラクターの恋愛だけれど、主人公たるミーシャが騎士を目指しているということもあってバトル要素もあるのだ。
そしてそんな主人公ミーシャの前に立ち塞がるのは、私ことクラリス・フェルゼンに、序盤で倒されるエリザベート・ヴァロワ。
それから魔術科に所属する悪役令嬢──オルガ・ノースモントという少女だった。
「──見て、クラリス。もうメンバー表が貼り出されているわよ」
授業後、たまたまエリザベートと鉢合わせしたため、一緒に帰路についていると、廊下の掲示板に人集りができていた。
それに近寄ってみれば、野外演習に向けてのメンバー表が貼り出されていて、どのチームがどのエリアに行くか等記載されていた。
(確か野外演習が行われるのは学園の裏に広がっている森で、東西南北四つのエリアに分かれて各チームが競い合うんだっけ)
私は誰と組んで、どのエリアに行くんだろう。
しかしそれは意外にもすぐ分かった。
「やったわ! 私達一緒のチームね!」
エリザベートが嬉しそうに声を上げる。
彼女の言う通り、私はエリザベートと一緒のチームだったからだ。
「指定された場所は裏森の東エリアね。クラリスと組めて良かった。私、正直自信がなくて……でも、だからといって任せっぱなしにするつもりはないわ!」
「私もエリザベート様と同じチームに組めて光栄です。一緒に頑張りましょう!」
本当に良かったと心から思う。
正直私は対人能力に難があるため、こうして顔見知りであるエリザベートと組めただけでも大変ありがたい。
エリザベートが胸を張って「雑用は任せて!」と言ってくれるが、勿論任せっきりにするものではないから一緒にやる所存だ。
そしてふと思う。
今回の野外活動は三人一組で行われる。
私と、エリザベートと、一体誰が同じチームになったんだろう?
そこで再び掲示板を見てみれば、三人目のチームメンバーの名前を確認して目を見開く。
オルガ・ノースモント。
乙女ゲーム『白薔薇の騎士~運命を切り拓く乙女~』の終盤に出てくる、悪役令嬢の名前が書いてあったのだから。
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