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「ただの友達だから」と言って婚約者とイチャつく騎士系令嬢を物理で返り討ちにします  作者: ふくふくまる
間章

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第20話 一方その頃 ミーシャ視点




 リュネール王国南西部片田舎──その村々を治めるホワイト男爵家の屋敷にて。

 屋敷の中庭を訓練場に改築したその場所で、ミーシャは木箱の上で膝を抱えていた。


 先日行われた対クラリス・フェルゼンとの決闘。

 気弱で大人しい令嬢だと思っていたクラリスが実は強く、そしてずっと憧れていた白薔薇の騎士の娘だということが判明したのだ。


 それを思い出した瞬間、ミーシャの中でぐつぐつと煮えたぎるような怒りが湧き上がった。

 

(あんなに強かったなんて……! どうして親友(・・)の私に教えてくれなかったのよ!? そもそも白薔薇の騎士の娘だなんて一言も聞いてない!)


 ミーシャが白薔薇の騎士に憧れているのを知っていながら黙っていたのだ。ミーシャが騎士科で訓練していた時もほくそ笑んでいたに違いない。


(絶対に許さない……ッ!)


 自分は何も悪くないのに。

 男友達と普通に接していただけで難癖付けられ、非難されたのだ。決闘に負けたとはいえ、やはりミーシャの中では踏ん切りが付かず、まるで騙し討ちのように自身を負かしたクラリスに苛立ちが募る。


 おそらく最初からエリザベートと手を組んでいたのだろう。

 エドガーを取られると思ったクラリスがエリザベートと結託して、ミーシャから決闘を提案するよう誘導した。

 そして自分を完膚なきまでに叩きのめしたのだ。


(最低! 最低最低最低……!!)

 

 しかもミーシャは自身の父から半ば強制的に休養を命じられている。

 「お前が喧嘩を売ったのはヴァロワ侯爵家なんだぞ!?」と激昂され、事が収束するまで領地で大人しくしているよう言われてしまった。その上、復学した暁には騎士科ではなく、特進科へ転科しろとまで命令されたのだ。


 元々騎士科への入学はミーシャがごねにごねて、当時の父が渋々と認めてくれたもの。

 しかし今回の騒動を経て、これ以上ミーシャの好きにはさせられないと思ったようだった。


(どうしよう……このままじゃ私、騎士にはなれない)


 幼少の頃より憧れてきた女騎士への道。それが閉ざされ、ミーシャは絶望と、クラリスへの強い怒りで目の前が真っ赤になる。


 また父は学園に復学させず、適当な男のもとへ嫁がせることも視野に入れているらしい。

 どこかの老父の後妻に当てがおうとしていると、メイド達がこそこそと話していたのを聞いてしまったのだ。

 その事実にミーシャは唇を噛む。


 するとその時、彼女の後ろから聞き馴染みのある声が飛んできた。


「なーに落ち込んでるんだよ」

「ティム!」


 振り返れば、そこには幼馴染のティムという青年がいた。

 

 燻んだ焦茶の髪に日に焼けた肌。がっしりとした筋肉質の体躯をした彼は、ホワイト男爵家に仕える庭師の息子で、現在冒険者として生計を立てている。

 幼少の頃よりの顔見知りであり、ミーシャもティムも自身の身分関係なく親しくしていた。


(エドガーとちょっと雰囲気が似ているのよね)


 というよりも、エドガーがティムに似ているのかもしれない。

 そういったこともあって、ミーシャは騎士科の中では殊更エドガーと親しくしていたのだが、それを、クラリスに……。

 それを思い出した瞬間、またもミーシャの中で怒りが燻り始める。


「都会の学園で貴族のお姫様達に苛められたんだって? お前って昔から女らしくないから、どうせ目を付けられたんだろ?」

「……まあ、似たようなもんだけど。普通に騎士科の男子と関わってたら『気安く関わるな』みたいなことを言われて……」

「やっぱり女社会ってのは怖えな。それでしばらく領地に引っ込むってか?」

「うん……」


 はあと大きく溜め息を吐くミーシャに、彼女を揶揄うつもりであったティムは拍子抜けする。

 そしてティムは気まずくなりながらも話を変えた。


「そういやミーシャ、知ってるか?」

「何を?」

「来週ホワイト男爵家領内に遠征帰りの騎士団がやって来る。そんで領の砦にて、補給がてらしばらく滞在するんだってよ」

「ふーん」


 それにミーシャはぼんやりと頷く。

 確かに自領内には普段使われていない古い砦が存在し、遠征帰り兵や騎士団が寄ることもあった。

 その代表たる団長がホワイト男爵家のもとに訪れ、話すのを何度か見ており、その度にミーシャは彼らの凛々しい姿に惹かれていた。


 しかしそこでハッと気付く。

 学園で騎士になることは難しくとも、騎士団に直接直談判すれば良いじゃないかと。

 

(いけるかしら……? これでも私ってホワイト男爵領の令嬢だし、無下にはされないはずよね?

 いきなり騎士団に入りたいって言うのは無理だと思うけど、普段この国を守る騎士様を支えたいと言って、お世話係として潜り込めば、次第に信頼されていくんじゃないかしら……!)


 そして自分の力量を見せ付け、騎士になりたいと頼み込む。騎士団のお世話係として潜り込むために、父には「学園での騒動を反省して奉仕活動を行いたい」とでも言えば誤魔化せるだろう。


「ちなみに騎士団って、どこの騎士団?」

「ん? 確か『白鷲』だったような……」

「最高じゃない!」


 このリュネール王国では騎士団がいくつか存在する。

 その中でも特に有名な三つの騎士団があり『白鷲騎士団』『黒狼騎士団』『赤獅子騎士団』と呼ばれていた。


 そしてその三つの騎士団には優秀な魔法騎士のみが入団することができ、中でも白鷲騎士団はミーシャが最も憧れる騎士団だった。

 

「お前……まさか変なことは考えてないよな?」

「勿論考えてないわよ!」


 訝しげに尋ねるティムにミーシャはにこりと笑って首を振る。


 自分が騎士の夢を諦めるだなんて絶対無理。

 どんな逆境にも負けないんだから。


 そんな気持ちでミーシャは顔を上げる。

 

 ……──そしてそのミーシャ・ホワイトの選択が、またしてもクラリス・フェルゼンを窮地に立たせることを、この時は誰も知る由がなかった。




 

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