第18話 恋のお話?
数日後。
私はというと、最近は専らセシリアやヴィヴィアン、そしてエリザベートと共に過ごしていた。
学園に入学してすぐ決闘なんかしたため、一部の生徒達から遠巻きにされているが、こうして友人(だと思っている)もでき穏やかに過ごせている。
そしてそんな折に、学園ではそろそろ『野外演習』が近付いていた。
「……──はああああ、嫌ですわ。野外演習なんて……!」
旧音楽準備室を改築した──野薔薇会のサロンにて。
眼鏡をかけた文学少女風の令嬢セシリアが重い溜め息をつきながら項垂れる。
それに赤毛の令嬢ヴィヴィアンが「まあまあ」となだめた。
野外演習。
それは乙女ゲーム『白薔薇の騎士~運命を切り拓く乙女~』にもあるイベントで、三人チームで学園から指定されたエリア内にて素材を採取してくるといった授業だ。
貴族の子弟として戦争が起こった場合、王家に忠誠を見せるために従軍しなければならない。
乙女ゲームの世界というだけあって戦争なんか全く起きないものの、もしものためにサバイバル技術も身に付けた方が良いよねということで必修授業として組み込まれている。
(確か、原作だとミーシャはウィリアム王子と従者ロランと組むのよね)
エリザベートとの決闘に勝ったミーシャは、そこから第一王子ウィリアムとの仲を深めていくのだ。
そしてその際に『ミーシャの親友』としてクラリスは紹介されたのだが……
(その時のロランって、やけにクラリスに親切だったような……?)
ロラン・ルシエールというキャラクターは、何故かクラリスに対してとても紳士的であったような気がする。
反対にミーシャには随分と適当で、ゲーム上のミーシャが「ロランってば、私にだけ雑すぎ!」と騒いでいた。
(ゲームをしていた時はミーシャのことを特別扱いしていて、私のことはモブ扱いしていたからだと思っていたけど……)
そう考えると、ロランってミーシャのことが気になっていたりしたのかなと考えてしまう。
気になる女の子には意地悪しちゃうようなもので、彼女に対して少なからず意識していたとか。
(いや、でも、従兄弟のエリザベートを負かした女の子を好きになる? え、どうなんだろう……?)
最近、こうやってロランのことを考えることが増えていた。
ガーデンテラスにてエドガーから守ってくれたことをきっかけに、頭の中がロランでいっぱいになってしまう。
それに今更であるが、女子寮へ送り届けてくれた時の、彼のあの表情も気になって仕方がなかった。
私に対して申し訳なさそうな、どこか懺悔でもするかのような顔をして「魔物から男の子なんか助けなければ良かっただろう」と言っていたのだ。
何でロランがあんな顔をするんだろう。
どうしてあんなことを言ったのだろう。
「……──ロラン・ルシエールは、一体……」
するとその時、辺りがしんと静まり返っているのに気付く。
ハッと顔を上げれば、セシリアとヴィヴィアン、そしてエリザベートがきょとんとした顔で私を見つめていた。
それに自分が話の腰を折ってしまったことを理解し、慌てて謝罪する。
「も、申し訳ありません! つい……」
「────ロランのことが気になるのね?」
しかしそんな私に、エリザベートがにやりと笑いながら尋ねてくる。
それに「え?」と呆けていると、今度はセシリアとヴィヴィアンが話し出した。
「ロラン様は確か婚約者も恋人もいらっしゃいませんでしたよね? そもそも関わっている女子生徒も従兄妹であるエリザベート様以外ですとクラリス様くらいですし……」
「何を考えているのか全く分からないけれど、端正な顔立ちをしていらっしゃるし将来性もあるわ! うん、良いんじゃないかしら!」
生き生きとした表情で紡がれる彼女らの会話に、目を白黒とさせる。
あれ、さっきまで野外演習の話をしていたような……?
「その、本当に申し訳ありません。ロラン様のことは少し気になってしまっただけで、話を戻して演習のことを……」
「何言ってるの! 授業より恋のお話の方が大事でしょ!」
「恋!?」
頬を赤く染めて楽し気に話すエリザベートに声を荒げてしまう。
恋!? いつからそんな話に!?
しかし驚く私に冷静になったのか、エリザベートは「あら、違うのね」とこぼした。
「でもロランが気になっているんでしょう? それはどうして?」
「どうして……」
エリザベートの言葉にふと思案する。
私はどうしてそんなに彼のことが気になっているのだろう。
女子寮へ送ってくれた時に見た──あのロランの表情が忘れられず、何故か既視感を感じてしまう。
彼とはどこかで会ったような気がしてならないのだ。
「…………エリザベート様から見て、ロラン様はどういった方でしょうか?」
「ん? 大切な家族ってとこかしら。いけ好かない奴だけどね」
優し気にそう話すエリザベートに、こちらも自然と笑みが浮かぶ。
「今でさえ何を考えているか分かんないけど、昔はもっと分かりやすい男の子だったのよ。怖がりで、おろおろしていて──とっても泣き虫だったの」
「泣き虫?」
「ええ」
ロランって泣き虫だったんだ。
小さい頃から澄ました笑みを浮かべるような、大人びた少年だと思っていたため意外である。
「それでいて、ロランも小さい頃から白薔薇の騎士……クラリスのお母様に憧れていたわ」
「え?」
「『エリザベートにせがまれて白薔薇の騎士の役をやっていた』とか言ってたけど、彼も結構乗り気だったし、白薔薇の騎士伝説の本を読んで考察?とかしたりしていたのよ」
(考察とは……?)
母のどこを考察するのだろうと思ったが、エリザベートもよく分からないようだから口を閉じる。
そして彼女は少しだけ表情を暗くして続けた。
「でも……昔、一度だけロランが王都を離れていた時期があってね。ウィリアム王子の従者に正式に決まって、城で再会した時には、すっかり大人びた表情をするようになっていて……驚いたものだわ」
「そうだったんですね……」
「それに、あの時ルシエール家で──…」
そこまで話してエリザベートは口を噤む。
どうしたんだろうと思ったが、彼女が「何でもないわ」と悲しそうに言うものだから大人しく引き下がるしかない。
けれど、不意にエリザベートの言葉の数々を思い出す。
昔、王都から離れていたロラン。
怖がりで、泣き虫な彼。
パルヴァス村の森で助けた男の子の顔。
そして女子寮へ送り届けてくれた時に見せた、彼の懺悔するような表情。
その時、点在していた記憶がゆっくりと一本の糸で繋がっていくような心地がした。
もしかして、ロランは──
「……──エリザベート様、ロラン様はおいくつの時に王都から離れていたんですか?」
「? 確か9歳か10歳くらいの時かしら」
エリザベートのその言葉に、私はようやく彼に抱いていた既視感の正体が分かってしまった。
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