第15話 第一王子と従者の会合 第三者視点
ミーシャ・ホワイトとクラリス・フェルゼンの決闘が終わって数日後。王立学園にある談話室にて、二人の青年が並んでいた。
けぶるような金糸の髪に爛々と光り輝く赤い瞳。若獅子を思わせるような精悍な顔立ちの青年──この国の第一王子ウィリアムと、彼の従者であるロランがこれまでの顛末を振り返る。
「ミーシャ・ホワイトはしばらくホワイト男爵家の領地にて療養か。怪我は治癒師の魔法によって治っているんだろう?」
事を静観していたウィリアムが不思議そうに尋ねた。
それにロランは頷く。
「ええ、ですが決闘に勝ったならまだしも負けましたので………おまけにヴァロワ侯爵家の者に手を出そうとしたんですよ。流石にホワイト男爵家も不味いと思ったのか、しばらくミーシャを領地へ引っ込めることに決めたそうです」
エリザベートの情報によると、ホワイト男爵家から謝罪と釈明の手紙が届いたそうだ。
しかし、決闘はあくまで学園内の規律に則った教育的プログラムに過ぎない。
表向きは水に流すものの、ヴァロワ侯爵家からホワイト男爵家への風当たりは強くなるだろうし、周囲の貴族達によるホワイト男爵家への対応も変わっていくことが容易に想像できた。
そして今回株を上げたのが、フェルゼン子爵家の長女クラリス・フェルゼンであろう。
エリザベートの代理として決闘に出場し、見事勝ってみせた少女。
男子生徒達に行き過ぎた振る舞いをするミーシャに、煮え湯を飲まされた令嬢は多くいるだろう。そのため令嬢達のほとんどは、クラリスを好意的に評していた。
またエリザベートは勿論のこと、エリザベートの生家であるヴァロワ侯爵家もクラリスという令嬢に感謝の念を抱いている。
魔力が少なく、戦う術を持たないエリザベートの代理として決闘に出たのだ。
ヴァロワ侯爵家当主夫妻が育て上げた大切な娘を守り抜いただけでなく、伝説たる『白薔薇の騎士』の娘がヴァロワ侯爵家令嬢のために立ち上がったという字面だけでも、貴族としての格は上がった。
「白薔薇の騎士ルネ・シュヴァリエがフェルゼン子爵家の治める領地に身を寄せたという噂は聞いていたが………まさかそこで結婚して、娘を産んでいたとはな!」
しかもそれが、あの気弱で淑やかな令嬢クラリス・フェルゼンだとは誰も予想しなかっただろう。
「彼女の婚約者であるエドガー・ウッドロックには知らされていなかったのか?」
「知ってはいたみたいですよ。クラリス嬢とエドガー・ウッドロックの婚約は、白薔薇の騎士ルネ・シュヴァリエの血をウッドロック子爵家に迎え入れるという側面もあったようですから」
そしてロランが「今はパッとしませんが、元々優秀な魔法騎士を何人も輩出した名家ですので」と付け加える。
しかし当の本人であるクラリスはというと、怖がりでいつも困ったようにおろおろとする始末。
剣などの業物から何故か距離を取ろうとするクラリスに、エドガーもウッドロック子爵家も『気弱で怖がりな令嬢』として見ていたらしい。
「蓋を開けたらとんでもない傑物が出てきたというわけか! 剣の腕もその様子だと知らなかったようだな」
「フェルゼン子爵家も多少ウッドロック子爵家に懐疑的であったそうで、クラリス嬢に関する情報の開示は精査されていたみたいです」
「そりゃそうか。そんなことまで話したらクラリス嬢に、無理矢理剣を握らそうとするかもしれん」
とはいえ、フェルゼン子爵家としてはクラリスの出自そのものを隠すつもりはなかったそうだ。
むしろ彼女が『白薔薇の騎士』の娘であることを内密にしておきたかったのは、ウッドロック子爵家の方だったらしい。
もしその事実が公になれば、白薔薇の騎士の血を求め、あらゆる騎士家の令息達がクラリスとの縁を求めて動き出すことになるだろう。
それを考えれば、ウッドロック子爵家が慎重になるのも無理はなかった。
そしてウィリアムはくつくつと笑いながら話す。
「エドガー・ウッドロックとクラリス嬢の婚約は順当に破棄されるだろうな」
「ええ、クラリス嬢がいるにも関わらずエドガー・ウッドロックは他の女に現を抜かし、ウッドロック子爵家自体も内々に婚約者候補を探していたようですから」
それにウィリアムは生家が生家なら、息子も息子だなあと苦笑した。
王家であるならばともかく、すでに婚約者がいるにも関わらず他の女にも目星をつけるなんて見境がなさすぎる。
おまけに元々この婚約はウッドロック子爵家から提案されたものなのだ。フェルゼン子爵家にしてみれば、舐められていると思うに違いない。
「……………なあ、もしクラリスが決闘の代理を申し出なかった場合、お前が代理として出るつもりだったのか? お前だってそれなりに強いだろう」
「私にも立場がありますので、許可なしに決闘なんて出られるはずありません」
「ま、お前の実力が明らかになれば、送り込まれる刺客のレベルも自ずと上がる。別にそれでも構わないが、陛下は止めるだろうな」
ロランの他に代理を用意しても問題はない。
けれど、あまりにも露骨に腕の立つ者を代理として立てれば、本来は当事者同士の決着をつけるための決闘という制度そのものが形骸化してしまう。
その意味でも、ヴァロワ侯爵家にとってクラリスの申し出は都合が良かった。
気弱で大人しいと見られていた彼女が自ら代理を名乗り出たことで、少なくとも表向きには決闘の体裁を崩さずに済んだからだ。
そしてウィリアムはロランに対して、猫のような笑みを浮かべた。
「………………で、お前はクラリス嬢に話したのか?」
その言葉にロランは「何のことです?」と素知らぬふりをする。
「おいおい、俺だってある程度調べたんだぞ。クラリス嬢の来歴を。フェルゼン子爵家に引き取られる前は、分家の屋敷で過ごしていたんだろう? 確かパルヴァス村といったか」
お前が幼少の頃、住んでいた村と同じじゃないか。
「ある魔術師に狙われていたお前は、身を隠すためにパルヴァス村にいただろう」
「……………」
「その時に確か、魔術師の差し向けた使い魔に襲われたとか」
ウィリアムが「そこでクラリス嬢と会ったことがあるのではないか」と尋ねてくる。
クラリスが剣を握らなくなったのは、パルヴァス村で少年を魔物から助けたことに起因する。
幼い子供が剣の腕だけで上級魔物を倒し、そのせいで『化け物』扱いされたと。
その助けた少年というのが、ロラン・ルシエールではないか。
「………………話せるわけないですよ」
そしてロランは自身の主をじっと見据えた後、力なく答えた。
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