第11話 決闘① ミーシャ視点
変化魔法ではなく、召喚魔法で剣を顕現させてみせたクラリスを前にミーシャは茫然とする。
しかもその剣がかつて『白薔薇の騎士』が使っていたとされる愛剣アルヴェインであることに混乱していた。
(どういうこと? 何でクラリスがアルヴェインを? あれって本物よね………?)
そしてミーシャと同じく、クラリスは白刃流の構えをとる。
刀剣をやや斜め下へ向け、利き手を強く握り込まず、いつでも滑らかに動けるような体勢だ。
一見無防備に見えるものの、クラリスから発せられる異様な空気──いや、殺気にミーシャは冷や汗を流した。
当初は気弱で大人しいクラリス相手に罪悪感のようなものを抱いていたのだ。彼女は簡単な付与魔法しか使えないし、魔力だって潤沢な方ではない。
対するミーシャは付与魔法だけでなく攻撃魔法だって使える。
おまけに騎士科の中でも腕が立つ方で、剣術の成績だって良かった。
だからこそ一方的な試合になってしまうことに対して、やりづらさのようなものを感じていたのだ。
けれど目の前に佇むクラリスに圧倒される。
(でも………!)
「始め!!」
審判役の教師の声と共に、ミーシャはクラリスの間合いへと踏み込む。
足に《身体強化》をかけ更に身軽となったミーシャが一瞬にして、クラリスのもとへ詰め寄った。
そして無防備な体勢のクラリスに一閃しようとした時、クラリスの剣がスウとミーシャの剣を沿うように後ろへ流す。
体勢が崩れ、ミーシャの鼻先にクラリスの剣がぬっと現れた。それに慌てて防御魔法《結界》で剣を弾こうとするものの────
「────グッ」
いつの間にかミーシャの身体はぐるんと仰向けに倒されていた。
迫るクラリスの剣に集中していたため、足払いされたことに気付けなかったのだ。
「……………もう終わる?」
地面に後頭部をぶつけて呻くミーシャに、クラリスが見下しながらぽつりと告げる。
逆光によってクラリスがどんな表情をしているか全く分からない。そんな彼女の姿が、淑やかな令嬢の皮を被った化け物のように見えた。
(何よ! 何でこんなに………ッ!)
「まだよ!」
剣を構え、間合いを取る。
そしてミーシャは付与魔法によって強化した身体で鋭い斬撃を繰り出した。
しかしそれをクラリスがいとも簡単に避けるものだから、苛立ちと共に焦りが生じる。
さっきからもう理解が出来なかった。
だってあのクラリスに、気弱で大人しい令嬢クラリス・フェルゼンにここまでの手合いができるとは思っていなかったから。
この子は一体何者なのか。
どうして白薔薇の騎士の愛剣を持っているのか。
どうしてそんなに強いのか。
…………もしかして自分は、負けてしまうのではないだろうか。
そう考えた時、ミーシャはクラリスから離れ、自身の剣に魔力を込め始めた。
(出し惜しみなんてしてる場合じゃない!)
「────行くわよ! クラリス!」
この世界の『魔法騎士』は通常の騎士達と違って、魔術を行使しながら剣を振るう。
先のミーシャの戦い方のように、自身を《身体強化》で強化し、敵からの斬撃は《結界》によって打ち弾くのだ。
中には攻撃魔法と剣技を合わせて繰り出す者もおり、その火力の高さ故『魔法騎士』という役職はこの国の花形とされていた。
そしてミーシャも自身の魔法と剣技を以て、クラリスを打ち倒すことに決めた。
剣を掲げれば大気中の魔素が光の粒子となって集まっていく。ミーシャの剣が真っ白に光り輝き、強い魔力を帯びていった。
まるで神話時代の伝説に出てくるような神々しい光景に、客席の生徒達が息を呑む。
魔素を集め、極限まで圧縮した光の剣。
剣を振るうとともに、おそらく剣に纏った魔素も斬撃となって放たれるだろう。
(これでクラリスを…………!)
しかしそんなミーシャを前に、クラリスがゆっくりと口を開いた。
「………………ミーシャ・ホワイト。決着を着ける前に一つ聞かせてほしい」
「は?」
「貴女にとって『騎士』とは一体どういった存在なのか」
静かに告げられたその言葉に一瞬虚を衝かれる。
しかしミーシャは首を横に振り、はっきりと答えた。
「騎士とは己の信念を貫く者よ! たとえ誰に何を言われようとも、自分が正しいと信じた道を進む。それが騎士だと思っているわ!」
煩わしい外野の声によって自分の突き進む道を諦めることは決してあってはならない。
男だからとか女だからとか、何の事情も知らない者達からの批判なんて聞きたくもない。
必要なのは、絶対にやり遂げるという己の信念のみ。
『白薔薇の騎士』が女性で初めての騎士となったように、自分も特進科のお姫様達になんか負けない!
「………………そう」
ミーシャの掲げた剣が闘技場中を強く照らす。
そしてキインと鳴り響いた瞬間、輝く光の剣がクラリスに向かって振り下ろされた。
剣に纏う魔素が鋭い斬撃となって迫り来る。
轟音とともに、地面が割れる。
舞い上がった砂塵が視界を覆い、観客席から悲鳴が上がった。
(やった………!)
ミーシャは剣を振り切った姿勢のまま、前方を見つめた。
しかし────
「………………え?」
クラリスが体勢を低くし、剣を構えたと思った瞬間、ミーシャの剣から放たれた光の斬撃が一瞬にして砕け散った。
そして驚く暇もなく、クラリスがミーシャの懐へ風のような速さで詰め寄る。
気付けばミーシャの喉元に、クラリスの剣が突き付けられていた。
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