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恋愛については未履修です ~転生先では恋愛心理学の教授になっていました~  作者: パト山


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23/31

23.恋愛心理学・実践演習

― 告白の練習 ―

 教室はざわついていた。

「えぇぇぇ!?」

「ちょ、待って先生それ本気!?」

「公開処刑じゃん!!」

 斉藤チヒロは咳払いした。

「落ち着いてください」

「今日は“成功する告白”ではなく、“気持ちの伝え方”を学びます」

「同じでは?」

「全然違います」

 チヒロは真面目な顔で言う。

「恋愛で一番問題になるのは、

 “断られること”より、

 “本音を言えないこと”です」

 教室が少し静かになった。

「人は、傷つくのが怖い」

「だから遠回しになる」

「冗談っぽくする」

「保険をかける」

 チヒロは板書する。

「別に好きってわけじゃないけど」

「もしよかったら」

「無理なら全然いいんだけど」

「これ、“拒絶された時のダメージ軽減”なんです」

「うわ、耳痛い……」

「でも、保険をかけすぎると、

 相手には“本気度”が伝わらない」

 生徒たちが妙に真剣な顔になる。

 そこへ。

「ほぉ」

 後方の扉にもたれながら、

 ルミナがこちらを見ていた。

「随分偉そうに語るな、童貞教師」

 教室が爆笑に包まれる。

「やめてください!!」

「授業崩壊するんで!!」

 ルミナは薄く笑った。

「で?」

「経験論ではなく理論か?」

「……理論ですけど」

「説得力が半減だな」

「ぐっ……」

 チヒロは軽くダメージを受けながらも続ける。

「と、とにかく」

「今日は“誠実な伝え方”を練習します」

 演習は二人一組で行われた。

「はい、じゃあ男子役と女子役を交代で」

「うわ緊張する……」

「え、目見て言うの無理……!」

 教室中が妙な空気になる。

 チヒロは歩き回りながら観察していた。

「はい、そこ」

「笑って誤魔化さない」

「うっ」

「“冗談だから”って逃げ道を作ると、

 相手は反応に困ります」

「はい……」

 別の組では。

「好き、でした……」

「声が小さいです」

「む、無理です!」

「断られる前提になってますね」

「うぅ……」

 すると後ろから、

 ルミナがぼそっと言った。

「お前、意外とスパルタだな」

「優しいだけじゃ伝わらないので」

 チヒロは静かに答える。

「本音って、

 “ちゃんと相手へ届く形”にしないと意味がないんです」

 ルミナは少し黙った。

 その時だった。

「せ、先生!」

 男子生徒の一人がニヤニヤしながら手を挙げた。

「なんですか」

「先生もやってくださいよ、告白練習!」

 教室がざわつく。

「あーそれ見たい!」

「ルミナ先生相手で!」

「うおおお!!」

「却下です!!」

 チヒロは即答した。

 だが生徒たちは止まらない。

「えー!」

「教師が見本見せるべきでしょー!」

「心理学的お手本をぜひ!」

 チヒロは助けを求めてルミナを見る。

 すると。

「別に構わんぞ」

「!?」

 教室が悲鳴を上げた。

「きゃーーーー!!!」

「受けたぁぁぁ!!」

 チヒロの顔が一気に赤くなる。

「る、ルミナ先生!?」

「授業だろう」

「いやでも!!」

「逃げるのか?」

「うっ」

 完全に追い込まれた。

 生徒たちは机を叩いて盛り上がっている。

「やれー!」

「先生頑張れー!」

(なんで俺が公開告白を……!?)

 チヒロは数秒黙り込んだ後、

 覚悟を決めた。

「……わかりました」

 教室が静まる。

 ルミナが正面へ立つ。

 近い。

 近すぎる。

(無理無理無理)

 だが、

 逃げたら授業にならない。

 チヒロは深呼吸する。

「……ルミナ先生」

「なんだ」

「あなたといると、

 正直かなり緊張します」

 生徒たちが静かになる。

「でも、

 話してると楽しいですし」

「…………」

「俺、自分のこと、

 理論ばかりの人間だと思ってたんですけど」

 チヒロは少し笑った。

「最近は、

 あなたと話してる時が一番、

 “ちゃんと人間やってる”気がします」

 教室が完全沈黙する。

 ルミナも、

 一瞬だけ目を見開いた。

 チヒロは途中で我に返る。

(あれこれ授業の域超えてないか!?)

 だがもう止まれない。

「だから――」

 その瞬間。

「はい終了」

 ルミナが突然言った。

「へ?」

「十分だ」

 彼女は珍しく、

 ほんの少しだけ頬を赤くしていた。

「これ以上やると、

 本当に告白になる」

 教室が爆発した。

「ぎゃあああああ!!」

「今のほぼ告白だろ!!」

「ルミナ先生赤い!!」

「うるさい!!」

 雷が落ちた。

 数名が机ごと吹き飛ぶ。

 阿鼻叫喚。

 その中心で、

 チヒロだけが真っ白になっていた。

(今の……俺……何言った……?)

 だが。

 ルミナはそっと視線を逸らしながら、

 小さく呟く。

「……反則だろ、あれは」

 その声は、

 誰にも聞こえなかった。

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