表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛については未履修です ~転生先では恋愛心理学の教授になっていました~  作者: パト山


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
19/31

18.学長の力

少女の目が大きく揺れた。

「…………」

 図星だったのだろう。

 ミレナは俯き、小さく震えている。

「それ、依存が始まりかけてる状態です」

 私は静かに言った。

「依存……」

「安心できる場所があること自体は悪くない。でも、“そこしかない”になると、人は判断が狭くなる」

 彼女は唇を噛む。

「……だって、あそこでは否定されなかったから」

「うん」

「皆、優しかった」

「それも本当です」

 私は否定しない。

 結社の厄介なところはそこだ。

 “全部が嘘”ではない。

 本当に救われた人間もいる。

 だから切れない。

「先生は」

 ミレナが不安そうにこちらを見る。

「先生は、私が弱いと思いますか」

 その質問に。

 私は少しだけ考えた。

「弱い、とは思いません」

「……じゃあ」

「疲れてるとは思います」

 ミレナが目を瞬かせた。

「人って、疲れると“すぐ安心できる答え”へ寄りやすいんです」

 すると。

 後ろから低い声。

「なるほど」

 その場の空気が変わった。

 ルミナが即座に振り返る。

「……来た」

 旧図書塔の入口。

 一人の男が立っていた。

 黒いローブ。

 白銀の髪。

 細身の長身。

 だが。

 妙に空気が軽い。

「人の心を扱う授業としては、中々興味深い」

 男は面白そうに笑った。

「学長」

 私は思わず呟いた。

アルヴェイン・グランセルト

 王立魔導学院学長。

 この学院の頂点。

 そして。

 “何を考えているのかよく分からない人ランキング”があれば確実に上位へ入る男だ。

「やぁ斉藤先生」

 アルヴェイン学長は優雅に歩いてくる。

「随分と働いているらしいね」

「……誰のせいだと思ってるんですか」

「教師は忙しいものだよ」

「学長が言います?」

 この人、絶対現場仕事しないタイプだ。

 だが。

 ミレナは明らかに怯えていた。

 当然だ。

 学長クラスの魔力を前にすると、

 本能的な圧迫感がある。

 しかしアルヴェイン学長は、彼女を見るとふっと表情を和らげた。

「そんなに警戒しなくていい」

 柔らかな声。

 不思議と威圧感が消える。

「私は説教が嫌いでね」

 ……上手い。

 自然に空気を緩めている。

 この人も相当、

 “人との距離感”が巧い。

「ミレナ君」

 学長が穏やかに言った。

「今、学院へ戻るのは怖いかな?」

 少女が小さく頷く。

「……皆、すごいから」

「うん」

「私だけ、駄目で」

「なるほど」

 学長は否定しなかった。

 ただ静かに聞いている。

「では質問を変えよう」

「……?」

「君は、“今の自分”を許せないのかな?」

 ミレナの呼吸が止まる。

 ルミナが小さく目を見開いた。

 ……鋭い。

 劣等感の根っこを一瞬で見抜いた。

「頑張っても追いつけない」

「期待に応えられない」

「もっと出来るはずなのに出来ない」

 学長が静かに続ける。

「その結果、“こんな自分には価値がない”と思い始める」

 ミレナの瞳から涙が溢れた。

「っ……」

「そして、“否定されない場所”へ逃げたくなる」

 優しい声だった。

 責めるでもなく、

 哀れむでもなく。

 ただ理解するように。

「人はね」

 アルヴェイン学長は空を見上げた。

「疲れると、“正しい場所”より、“楽になれる場所”を選ぶ」

 風が吹く。

 夕暮れの光が、古い塔を赤く染めていた。

「だから結社そのものを完全否定する気は、私はない」

 私は思わず学長を見る。

「……本気ですか?」

「彼らは確かに、“救って”もいるからね」

 静かな声。

「ただし」

 空気が変わる。

 圧力。

 底知れない魔力が僅かに滲む。

「“依存”へ変えた瞬間、それは教育ではなく支配になる」

 その瞬間。

 旧図書塔の影が揺れた。

 誰かいる。

 ルミナが即座に杖を構える。

「っ!」

 だが学長は片手を上げた。

「下がっていていい」

 軽い声。

 次の瞬間。

 空間そのものが歪んだ。

 ――重力。

 見えない圧力が影へ叩きつけられる。

「がぁっ!?」

 黒衣の男が地面へ落ちた。

 心導結社の構成員。

 完全に隠密していたはずだ。

「…………」

 私は絶句した。

 いや強すぎる。

「盗み聞きとは感心しないな」

 学長は笑顔のまま言う。

「教育現場では礼儀を学ばなかったかい?」

 黒衣の男は顔を引き攣らせていた。

 たぶん今、

 本気で恐怖を感じている。

 すると学長は、

 ふとこちらを振り返る。

「さて斉藤先生」

「……はい」

「君、“人を救うこと”について考え始めているね?」

 私は言葉に詰まった。

「それは教師として良い傾向だ」

 学長は微笑む。

「同時に、一番壊れやすい入り口でもある」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ