第16章:敗者への救いと新たな忠誠
ビブラス商会の解体は
帝都の経済界に巨大な穴をあけた。
主であるビブラスとその家族が去った後
後に残されたのは
路頭に迷った数百人の末端従業員や
腕は立つが主を失った実務家たちだった。
彼らは「大罪人の部下」という汚名を着せられ
他の商会からも門前払いを受け
炊き出しの列に並ぶほどに困窮していた。
ある日、ダニエルは
皇帝シャリオッドと皇后マリナベリーのもとを訪れた。
「陛下、皇后陛下。少々、勝手な願いがございます。
……ビブラスの元で働いていた者たちを
我がダニエル商会で引き取りたいと考えております」
シャリオッドは
冷徹な瞳を少しだけ細めて問いかけた。
「彼らは反逆者の手足となっていた者たちだぞ。
毒が混じっている可能性も否定できないが?」
ダニエルは深く頭を下げ
確信に満ちた声で答えた。
「毒を薬に変えるのが
商人の腕の見せ所にございます。
彼らの多くは
ただ生きていくために働いていた専門職。
その技術を腐らせるのは
帝国の損失に繋がりかねません。
もちろん、徹底的な身辺調査と
バレンティノ公爵家式の
再教育を施すことが条件でございます」
マリナベリーは
かつての「我儘令嬢」らしい
鋭い笑みを浮かべて付け加えた。
「いいわ。ダニエル
貴方が責任を持って『掃除』しなさい。
もし裏切る者がいれば
その時は……わかっているわね?」
「御意。この命に代えても」
数日後
帝都の広場に、かつてのビブラス商会の
番頭や荷運び人たちが集められた。
彼らは「処罰が下るのではないか」と怯えていたが
現れたのはダニエルとその部下たちだった。
「今日からお前たちは
ダニエル商会の名の下で働くことになる。
給与は以前の八割からスタートだが
実績次第で加算する。
不満がある者は今すぐ去れ」
ダニエルの宣言に、男たちは顔を見合わせた。
処刑でも追放でもなく
まさかの「雇用」だったからだ。
「……あ、ありがとうございます、ダニエル様!」
「俺たち、もう終わりだと思っていました……!」
彼らは泣きながら地面に額を擦りつけた。
実際に働き始めてみると
ダニエル商会の運営は驚くほど合理的で
それでいて末端まで目が届いていた。
ビブラスが私利私欲のために
部下を使い潰していたのに対し
ダニエルは「商会の利益は帝国の繁栄に繋がる」
という大義を説いた。
「……なあ。俺たち
最初からダニエル様に付いていれば
あんな惨めな思いをしなくて済んだんだな」
元ビブラスの番頭だった男が
忙しく帳簿を付けながら同僚に漏らした。
「全くだ。ビブラスの旦那は金しか見てなかったが
ダニエル様は『人』と
その先にある『陛下への忠誠』を見ている。
……今度は、裏切るような真似は絶対にしない。
この命、ダニエル商会と帝国に捧げるつもりだ」
こうして、かつて敵対していた勢力さえも取り込み
ダニエル商会はさらに強固な組織へと変貌を遂げた。
それは、シャリオッドとマリナベリーが望んだ
「誰も取りこぼさない統治」の象徴でもあった。
マリナベリーは
バルコニーから活気づく帝都の街並みを眺め
隣に立つシャリオッドの手を握った。
「和哉、見て。街が前よりも明るくなった気がするわ」
「ああ。君の慈悲が
ダニエルを通じて街に広がっているんだね。
……やはり、私の皇后は世界一だ」
シャリオッドは優しく微笑み
二人の愛は、救われた人々の感謝と共に
より一層深く帝国に根付いていった。
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