97話 天魔vs凪星(流星)
突如、脳内へと記憶にはない王鳳様たちの死に様が流れる。
これは・・・実際に凪星が見た光景。
空は晴れ、無惨に焼け焦げた跡の残る紫禁城。
身元も確認できないほどに焼かれた皇帝と兵士たち。近くには、目の前で涙していた青年と、見ず知らずの人物の姿・・・後ろ姿ではっきりとした人相は分からないが、見覚えがあるような・・・・・
「天魔も、『天魔神教』の操り人形だったってわけか・・・」
親である皇帝の思いなんて無視して、ありもしない憎悪と復讐心を植え付けられた被害者・・・
まぁ、俺にとっちゃそんなことはどうだっていいんだ。
大事なのは、天魔が妙を殺したという揺るぎない事実。
剣王に関しても妙を苦しめる原因の一つではあったものの、不器用なりの優しさが裏目に出た結果。
「あんたのことも当然許せないけど・・・・・恨みはしない」
だが、お前だけは別だ––––––
「天魔」
俺は気配なく、音もなく背後に現れた天魔へと視線を向ける。
「おっと、気づかれちゃったか・・・・・ん? そういえば君、どこかで会ったことあったっけ?」
天魔の様相は、以前記憶で見た時とは随分と違っていた。
いや––––––これがこいつの本性か。
銀髪も白い肌もその全てが大量の血で染められている。
そのニヤけた表情が見せる歯も同様に真っ赤な糸を引いている。
「どうだっていいだろ」
「それもそうだね。後々邪魔になりそうだし、殺そうかな」
そう言うと、天魔は容赦なく漆黒のオーラを激らせる。
あの時が可愛く見えるほどの威圧感。
現実世界で見た人型モンスターには届かないまでも、それに限りなく近い。
「はっ」
少し前までの俺ならビビってたかもな。
今だって確実に勝てる自信なんてない。
ただ、俺は怒りに震えてる。
対してこいつは怒りが燃え尽きた後。
負ける理由が見当たらないくらいだ。
「そんなもんか?」
「はぁ?」
「そんなんで俺が殺せるかよ」
「はぁ? 何? 喧嘩売ってるの? あぁ嫌だなぁ、せっかく気持ちよくなってたのにまた最悪の気分だよ」
わざわざ相手を怒らせる必要なんてない・・・が、今の俺は冷静で、悪くない気分だ。
俺の一言一言で歪む表情。
凪星と心が通じ合っている高揚感。
怒りを落ち着いてコントロールできているのが分かる。
俺は聖剣を取り出し、白魔気を纏う。
「・・・思い出した。誰かと思えばあの時の雑魚じゃないか! 何? その程度の実力で僕に楯突こうって気? ほんともういい加減にしてよ」
凪星のことを思い出したせいで天魔の顔に笑みが浮かぶ。
さて、今度は武力でその気色の悪い面を絶望に染めてやるか。
「かかって来いよ」
「はぁ!? ったくもうイライラするなぁ––––––言われなくてもすぐに殺してやるからさぁ!!」
天魔の叫びに呼応するかのように漆黒のオーラは勢いよく部屋全体に飛散し、生き物の如く渦を巻いて俺の体に纏わりつく。
相変わらず体の芯まで焼かれるような痛み。
だが、今の俺の体には傷一つ負わすに至らない。
聖剣を軽く一振りしただけで部屋の壁ごと漆黒の炎を吹き飛ばす。
「なるほど。君も少しは成長したみたいだけど、それが何? たかだか初撃を防いだくらいで何かっこつけちゃってるのさ」
「防いだ? お前にはそう見えてんのか––––––」
『剣王の軌跡』は、記憶に宿る剣王たちの技を使用することができる。
スキルとして個々を習得したわけじゃないが、筋肉の動かし方から目線の動き、息遣いまで、あらゆる技術がはじめから肉体に身についていたような感覚。
「返すぜ」
「––––––なッ!?」
俺は素早く天地を駆け、周囲に飛散した漆黒の炎全てを聖剣に纏わせる。
全ての動作は繋がっている。
相手の目線、息遣いまでを感じるんだ。
そうすれば自ずと相手の行動が息をするように読めるようになる。
その全てを視線や聴覚のみに頼らず、直感で判断する。
皇帝たちの試練で教わった応用編みたいな感じか。
そして俺自身は息をするように・・・空気に混じって流れるように敵の懐へと潜り込む。
気がついた時には俺の聖剣が天魔の心臓を捉えている。
「カハッ」
天魔の肩から侵入した聖剣をそのまま容赦なく振り抜き、心臓ごとぶった斬る。
天魔の体が真っ二つに割れ、最後は呆気なく上半身と下半身がバラバラとなって地に横たわる。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
天魔が死に、しばらくの間消えずに燃え盛り続けている漆黒の炎の音とともに静寂が訪れる。
分かってたことだけど、天魔を殺したところで全く気が晴れやしない。
むしろ、とんでもない喪失感だ。
俺には一を生き返らせる––––––今を生きている大切な存在のために戦い続ける目標が存在するが、凪星は違う。
妙を取り戻すために皇帝たちの地獄の試練を乗り越え、復讐心で天魔を討った。
これから何をして生きていけばいいのか、見失ってしまっている。
俺の視線は、横たわり続ける妙から離れてくれない。
凪星にとって妙は、俺にとっての一と同じくらい大切な存在だったんだ。
「まだ終わってない!!」
突然響いた叫び声と同時に俺の視線は動き出す。
辺りを見回すと、さっきまで燃え盛っていた漆黒の炎がまるで液体の如く変化し鳴りを潜め、天魔の死体へと集まっている。
いや、それだけじゃない。
こいつっ––––––––––––
「させるかよ!」
横たわる剣王と妙の亡骸までも自らへと引きずり込んでいる。
この現象が何なのかは分からないが、とんでもなく嫌な予感がする。
だが俺が気づいた時にはすでに手遅れ。
あっという間に漆黒に染まった地面へと2人が吸収されると、漆黒に染められた至る箇所に嘲笑うかのようなニヤけた口元が出現する。
「何だ、これ・・・」
体が思うように動かない。
理由は明白––––––妙の亡骸までも奪われてしまったことに、凪星の体は絶望してしまっている。
心が共有されているため、痛いほどよく分かる・・・けど、今はこの場から離れなくちゃいけない。
「クソっ」
『愛する人の一人も守れないなんてほんと、情けない奴だな。彼女の悲鳴を聞かせてあげたかったよ、もう死んでるっていうのに肉体を噛み砕かれる時に発する苦痛の悲鳴・・・誰も助けてくれないのに必死に助けを求める気持ち悪い声––––––ほらほらどうなんだよ、今の心境は・・・悔しいか? それとも死にたくなったか? まぁどっちにしても君の負けだよ』
「やめろ」
『そうだ、僕が彼女の姿を模して君を愛するフリをしてあげようか?』
「・・・やめろ」
『いや違うなぁ––––––––––––君の代わりに彼女を永遠と愛してあげよう』
「やめろ!!」
怒りのままに叫んだ直後、俺の体はわけも分からず吹き飛ばされた。
大したダメージじゃないはずなのに、視界には何も映らない・・・何も聞こえないし、何も感じない。
––––––あれ? 俺は何をしてた・・・
何をしなくちゃいけなかったんだ?
いや、そもそも俺は誰だ・・・・・・
何も考えたくないし、何もしなくてもいい。
このぼんやりとした感覚をいつまでも味わっていたい。
もう何もかもどうでもいい––––––––––––
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