95話 絶望の再会
熱いっ––––––
ここは・・・どこだ?
俺の恐れていた景色とは異なり、周囲一帯は炎の海に覆われている。
燃え盛る炎の静寂さに混じる建物の崩れゆく音––––––その中に微かに宿る人の声。
周囲に存在する生命反応は2つだけ。
どちらも今にも気配が消えてしまいそうなほど満身創痍な様子だ。
俺はまず近くに感じる気配の下へと急ぐ。
視界の先、瓦礫に全身が埋もれながら意識を失う男の姿が––––––
かなりの出血具合だが、歳は一と同じくらいか?
黒髪に、整った顔立ち––––––中国にも顔の綺麗な男性が多く存在しているのは知ってるが、どちらかと言えば和風の顔立ち。
「日本人・・・?」
俺は瓦礫をどかし、『万能完治』を施す。
記憶の中とは言え、目の前で死なれていい気分じゃないからな。
「ん・・・・貴方は・・・」
「一体どういう状況なのか教えてくれないか?」
「・・・父様!?」
やっぱり記憶に合わないセリフは無視されるみたいだ。
誰かも分からない青年は、俺を置き去りに一目散に走り出す。
それはさっきから微かに声が響いてる方向。
炎を掻き分け進んだ先、飛び込んできた景色に対して吐き気を覚える。
いや・・・理由が分からない・・・体が勝手に反応しているような感覚。
目の前には、同じように瓦礫がそこら中に存在し、視界の中央に横たわる2人の姿・・・・・・
一人はどうやら助けた青年の父親らしい。
涙しながら駆け寄り、俺へと何か言葉を発している。
だが、徐々に俺の聴覚は機能しなくなり、視界にはジリジリと黒いモヤのようなものがかかり始める。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
大丈夫だ。
これは記憶・・・実際に俺が体験したモノじゃない。
それなのに、俺の胸は今にも引き裂かれそうなほどの痛みに襲われていた。
これは凪星が感じている痛みだけじゃない・・・・・・俺自身の痛みでもある。
「––––––妙」
その言葉が、この状況を示す全て––––––
「あぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・」
救えなかったんだ・・・・凪星は、妙を失ってしまったんだ––––––––––––
何度も妙に対して『万能完治』を施すも、反応はない・・・・・・
「おい!」
俺は怒りのままに青年の胸ぐらを掴み上げる。
もう、こいつの正体には予想がついてる。
妙の隣に横たわっている男こそが妙を結婚させようとしていた「初代剣王」。
そして、この青年こそが妙の結婚相手だ。
「妙が死んだのに何で悲しまない? お前にとってあいつは、その程度の存在だったのかよ!」
「・・・妙」
青年は妙の方へと視線を向けると、虚な瞳から涙が溢れ出る。
「僕の・・・愛した人––––––」
胸ぐらを掴んでいた手から無意識に力が抜ける。
何だよ、それ。
「貴様はまさか・・・凪星か?」
地に寝そべる剣王が俺を見上げている。
情けない姿だ。
天下の剣王ともあろう人物が虫の息なんてな。
「・・・あんたが妙を苦しませなきゃ、こんな最後を迎えることなんてなかったんだ」
「否定はできん」
おそらくこの惨事は天魔が原因だ。
剣王の息子の結婚相手なんかに選ばれなければ・・・・・あのまま日本で凪星と幸せに暮らしていれば・・・・・・
「あんたが死ぬのは当然だ––––––はっ、あんたの息子だと知ってればこいつを助けたりなんかしなかったぜ」
今の俺は、相当クズだろう。
けど、そんなことどうだっていい。
「感謝しよう––––––代わりに、これをやる」
<称号【剣王】を獲得>
<新たな称号に付随してスキル『剣王覇気』と『剣王の軌跡』を獲得––––––称号【剣王】に刻まれている歴代剣王の経験が肉体に刻まれることに伴い、スキル『闘神』の効果時間が5分間に延長。再使用時間の半減に加えて全ステータス50%へと変化>
何だ・・・称号とスキル以外に眼に見えるステータスの変化はない。
けど、底知れない力の湧き上がりを実感する。
気がついた時には、剣王は息を引き取っていた。
直後、脳内へと見覚えのない記憶が滝の如く勢いで流れ込んで来る。
「うぅ––––––」
それは現代剣王を除いた初代剣王の記憶からこれまで【剣王】を受け継いできた者たちの記憶。
どうやら初代剣王は不治の病にかかっていたらしい。
義理とは言え、心から息子の幸せを願い、そして自分が死んでしまった後のことを心配していた。だから、息子が一目惚れした妙を妻に迎えることを決意したってことか・・・
理解はできる––––––だからって、同情はできない。
案の定剣聖の記憶はなかったが、そこは今問題じゃない。
「天魔・・・お前だけは許さない」




