93話 剣王の城
吹雪荒れる氷山地帯には、一箇所のみ吹雪の届かない場所が存在している。
そこは、周囲が氷山に囲われ、凍った湖の上に佇む巨大な城のある空間。
剣王の結界により人の住める地となっている空間でありながら、城の外観は長年猛吹雪にさらされたかのように氷が張り巡らされ、至る箇所から巨大な氷柱が伸びている。
それ故、黒と白が重なった美しいデザインに加えて、城内から発される光が青白い輝きを放つ様は、この世のモノとは思えないほど幻想的。
城内は至るところに階段が入り組んだ迷路のような造りとなっており、足場以外の壁や天井には外観同様に氷の幕が張り巡らされており、全体的に青白く美しい様相を醸し出している。
しかし、体感温度は暖かく、これも剣王の結界のおかげなのだと言う。
更に支柱は全て氷柱となっており、城内の中央には、天に伸びる巨大な氷の柱が存在していた。
剣王はその巨大な氷の柱の根本に存在する玉座へと腰掛ける。
「お疲れ様です。景様」
「空魔を呼べ」
「その前に、そちらの方が––––––––––––」
「もう一度だけ言うぞ、空魔を呼べ」
剣王こと舞王景の貫禄を前にして、玉座の横に控えていた1人の従者は少しばかりたじろぐ。
「失礼しました」
「––––––––––––呼んだかい?」
すると、天から呑気な声が響き渡り、剣王と流星は頭上へと視線を向ける。
「メラ––––––]
流星の瞳が見開かれた先、天から舞い降りる空魔と呼ばれる人物に抱えられるメラの姿があった。
居ても立ってもいられなくなってしまった流星は、宙に佇む空魔からメラを奪い取る。
「––––––ッ!?」
その大胆な行動と、自身がお姫様抱っこされているという現実にメラの頬は真っ赤に染め上がる。
「ヒュ〜、大胆だねぇ」
「大丈夫だったか?」
「う・・・うん」
空魔に何かされていたわけでもなく、むしろ丁寧なもてなしを受けていたわけだが、流星がまるで危機に瀕した姫を救い出す王子のように思えてしまったメラは、恥ずかしさのあまり流星の瞳をまともに見ることができない。
「驚きはしたけど、心配するようなことは何もされてない––––––––––––それより、その姿・・・・・・」
「ああ、気づいたらな」
「なぁなぁ、君が万里の長城を攻略したってほんとうかい?」
空魔は流星の全身を興味津々な表情でくまなく観察する。
「確かに魔力は中々のモノだね。だけど、万里の長城を攻略できるほどだとは到底思えない。黒陽はどう思う?」
黒陽と呼ばれる真っ黒な執事服を着こなす従者もまた、流星へと試すような視線を向ける。
「そうですね・・・飛様たちの報告とは姿が異なりますが、それはまぁ、崑崙山脈の荒れ狂う魔力が影響してのものでしょう。ですが、もしも本当に彼が攻略したのでしたら、一度お手合わせしてみたいものですね」
色気立つ不気味な笑みを浮かべる黒陽。
「無駄だ。お前たちでは相手にならん」
迷いのない剣王の言いように、多少の驚きを見せる空魔と黒陽。しかし、すぐに余裕を思わせる笑みが浮かべられる。
「へぇ〜、君にそこまで言わせるんだぁ〜」
「フッフッフッ、ますます興味がそそられますねぇ」
「お前ら個人の好奇心は後回しだ」
そう言うと、剣王の視線は流星へと向けられる。
「流星。俺と兄弟の盃を交わさないか?」
「「––––––––––––ッ!?」」




