91話 吹雪に映る人影
「黒髪・・・報告とは違うが、その剣には見覚えがある」
荒れる気候、凶暴なモンスターの気配––––––圧倒的強者の風格を感じさせる見ず知らずの男性。
この男が一体何者なのか、そんなことは今はどうだっていい。
「メラをどこにやった?」
「知りたければ、実力を示せ」
体の芯にまで響くような図太い声。
直後、何もなかった空間から、揺らめく緑色のオーラを纏った妖艶な漆黒の大剣が出現する。
見た目は禍々しさを感じさせるが、邪悪な気配は一切感じられない。
相手が何者なのかは知らないが、レオナさんと立ち会っている時と同等––––––それ以上の威圧感。
かなり力を解放したとはいえ、一切油断はできない。
「一体何が目的なんだ」
「剣を構えろ」
視線のズレ、呼吸の変化、肉体の振動––––––そういった行動に移る際に生じる兆しが一切見えることなく、相手の大剣はいつの間にか俺の聖剣と交わっていた。
時は、俺とメラが故宮博物院より南西約3,000km地点に存在している青海省 崑崙山脈付近に『絶歩』により瞬間移動した時点に巻き戻る。
「話には聞いてたが、まさかこれほどなんてな」
次の『剣聖の記憶』が示すのは、崑崙山脈に存在している剣王の地。
王鳳様からここの気候は他とは比較しようもないほど荒れているという話を聞かされていた。
ダンジョンも無数に存在し、モンスターもそこら中にウヨウヨしているとのこと。
並大抵のハンターは決して立ち入らないほど危険な場所のため、正直メラを北京に置いて行こうかとも考えたほど。
けど、見知らぬ土地で16歳の女の子を一人置き去りにしたままってのも問題だ。
ということで迷った末に同行させる選択肢を選んだわけだが・・・・・・
「俺から絶対離れないように」
「分かった・・・」
視界一帯が吹雪で遮られて魔力も荒れ狂う中、『絶歩』を発動させるのは不可能。
幸い、『記憶の道標』のおかげで遭難する心配はなさそうだ。
「えっちょっ!?」
俺はメラを背負うと、そのまま吹雪の中を素早く駆ける。
それから2時間ほど走った辺りで、メラの様子がおかしいことに気がついた。
できるだけ負担がかからない速さで走っていたつもりだったが、戦闘面が皆無なメラにとっては、この山脈はただ立っているだけで地獄の空間。
丁度近くに見えた洞窟で一旦休息を取ることに。
乾いた木材を見つけ、聖剣の摩擦で火を焚く。
「あと、どれくらいなの・・・?」
「正直、記憶でも剣王のヒントになりそうな情報はほとんどなかったし、王鳳様も居場所は知らないみたいだったから、全く検討もつかない」
「そっか」
「まぁ、メラの体調が良くなったら出発するから安心して休んでな」
「・・・ありがとう」
「俺はちょっと周囲の様子を見てくるよ」
そう言って洞窟から数メートル離れた地点へと移動し、吹き荒れる猛吹雪の中、素早く聖剣を振り翳す。
一瞬だけ一帯の視界は穏やかと化すも、すぐ様吹雪に見舞われる。
「いくら剣聖の力と言えど、自然には勝てないみたいだな」
そんな分かりきったことに笑みを浮かべていると、突如背後から見知らぬ気配を感じる。
距離にして数十メートル程度。
「––––––メラ!」
さっきまで1km圏内にモンスターの気配も、ましてや人間の気配も感じられなかった。
気配の数は1人––––––人間の気配だ。
俺たちと同じく休憩しに来たのか?
なら、どうしていきなり気配が現れた––––––
俺は焦る気持ちを抑え、急ぎメラの下に駆ける。
すると、横たわっていたはずのメラを担ぐ男と鉢合わせする。
「誰だ、お前」
「あちゃ〜、見つかっちゃったか」
「メラを離せ」
「そう敵意向けないでくれよ。僕は、君たちの戦いにこの子を巻き込まないように––––––––––––って、お出ましだね」
突如頭上へと現れた強大な気配に意識を奪われたその一瞬が仇となり、メラを抱えた謎の男は霧のように周囲の景色に気配ごと溶け込んでしまった。
「メラァ!!」
そんな俺の叫びは、天井の崩落によって打ち消される。
焦る気持ちを押し殺し洞窟の外へ避難。
直後、視界を遮るほどの猛吹雪の中、俺のいる周囲一帯のみに爆風が吹き荒れる。
「誰だ、お前」
吹雪に映る人影。
その人影は徐々に俺へと歩み寄り、その姿を明らかとする。
身長は俺とそこまで変わらないが、その鍛え抜かれた鋼の肉体と周囲に発散している分厚いオーラから巨大な存在感を感じさせられる。
奴の纏うオーラの影響で、奴の周囲数メートルは静寂と化している。
まるで吹雪を遮る鎧だな––––––––––––




