89話 二人の支配者
「そうか。そこまで思い出したか」
今この空間には、俺と王鳳様の人格の2人だけ。
もしも俺の勘が当たっていたのだとしたら、王鳳様と天魔の間には、表沙汰にはなっていない深い因縁があるはずだ。
「俺の中に宿る剣聖の力は、記憶を取り戻すほどに強くなっていくことは話しましたよね?」
「ああ」
「今回、俺は【支配者の素質】という称号を得ました。これだけだったなら、何にも思わなかったと思います。けど、『蠱毒』の試練には、王鳳様の力によって強化された様々な生命が存在していた。それに、全ての殺意の矛先は俺へと向けられていた––––––––––––貴方の力は、支配した者を強化するといった力だったんじゃないですか?」
俺の発言を受けた王鳳様の表情に変化はない。
まるでこうなることが予想できていたかのように。
「神威が何を言いたいのかは分かる。知りたいのは、私と天魔との関係––––––そうだろう?」
「はい」
以前、王鳳様から聞かされた魔教と皇帝の歴史の中には、天魔が【支配の権能】を有するという内容があった。
つまり、王鳳様と天魔はともに支配する力を有している点から、明かされていない真実があるんじゃないのか・・・・・・
「––––––天魔の誠の名は「王魔」。私の生き別れた実の弟だ・・・正確にはだった、だがな」
弟!?
その回答は予想してなかった。
『蠱毒』を行う冷酷非道さから、俺はてっきり天魔と内密な協力関係にある可能性を見ていた。
それが見事にひっくり返されたわけだ。
「とは言っても、私たちの間に兄弟として過ごした記憶などはない。それに、私がその事実を知ったのは、命尽きる直前のことだ」
「・・・誰に、そのことを聞かされたんですか?」
「天魔自身だ。以前は他の者たちもいたが故に明かせなかったが、これが真実だ」
「どうして、天魔はそのことを知ってたんですか?」
「育ての親にでも聞かされたのだろう。そして生き別れた理由はどうであれ、私に恨みを持つように育てられた・・・・・我々皇帝を邪魔だと思う存在など、あの時の世には腐るほどいたからな、天魔が黒幕であろうと、他の誰であろうと、驚きはしない」
これまで腑に落ちなかった天魔が皇帝を狙う理由が徐々に鮮明になってきた。
ただ、天魔の裏に隠れている人物ならば、思い当たるのは天魔が慕っていた「剣王」くらいだ。
だが、命が【剣王】の称号を引き継ぐ奴らと一緒にいたことから、剣王と天魔は純粋な主従関係にはなかった可能性が考えられる。
とまぁ、今ある材料で推測できるのはこのくらいか––––––
「王鳳様は、天魔のことを憎んでますか?」
王鳳様は少しだけ瞳を閉じ、神妙な面持ちで答え始めた。
「仲間や民のことを思えば憎むべき存在だ。頭ではそうするべきだと理解していても、心では今でも尚、割り切れてはいない。全く、情けのない限りだ」
「そんなことはないと思いますよ。俺にも、弟という存在がどんなものなのか、痛いくらい分かりますから」
王鳳様の視点に立って、理解してあげることはできないが、弟に対する感情の割り切れなさだけは理解できる。
「弟がいるのか?」
「正確には、いた、です」
俺の返しに、王鳳様の表情が暗くなる。
「だから俺は、強くならなくちゃいけないんです」
「どういうことだ?」
「この剣聖の力を使えば、弟を生き返らせることができる・・・・・後もう少しで、それが叶うんです」
「・・・・・凪星は、いや剣聖は、誠に偉大な存在になったのだな」
王鳳様の驚きの中にある確かな喜びを感じる。
「側から見れば、弟は厄介な存在だったかも知れません。けど、今の俺にとっても、一は生きるための、強くなるための理由なんです」
「そうか私は・・・・・・真実を知ったあの日から、奴と兄弟のようになれる夢を見ていたのだな・・・・・・・・」
その想いが、王鳳様が『背後霊』のジョブに選ばれた原因なのかも知れない。
「最後に、一つだけ質問いいですか?」
「もちろんだ」
「どうして3億なんですか?」
その質問にピンとは来ていない様子だったが、すぐに何かに思い当たる。
「実を言うといくらでもよかったのだが、知っての通りこの者は自信があまりにもない故、分かりやすく力の価値を示してあげたかったのだ。それに、この者は貴殿もよく知る彼女の子孫ということもあり、崇められるべき存在だ」
『神託者』と謳われるほどの『医師』のジョブを有する存在。
・・・・・なるほどな。
王鳳様が霊となってこの世を彷徨う原因になったのが未練だとすると、背後霊となったこともまた未練だということだ。
「腑に落ちましたよ」
俺がささやかな笑みを浮かべると、王鳳様もまた笑みを浮かべた。
「俺の本当の名前は「八尺 流星」です。力の事情で明かすのが遅くなりましたが、凪星の分も含めてお礼を言います」
「お礼を申すのは私の方だ」
俺は王鳳様と最後の握手を交わし、メラと一緒に次の記憶が待ち受ける南西へと向かった。




